008号室 ギルドマスターの来訪

 アルフレドとセシリオが帰ってから1ヶ月が経った頃、なんと3人も宿泊客が現れた。


「久しぶりだな、リオ!」


「また世話になる」


 再びアルフレドとセシリオが泊まりに来てくれたのだ。

 しかも、今回はもう1人連れてきている。40代くらいの男性だが、全身筋肉に覆われ髪が逆立っている、荒々しい歴戦の戦士を思わせる風貌だ。


「あなたがこのホテルのオーナーか。お初にお目にかかる。パラドール王国のアーティチョークで冒険者ギルドのギルドマスターを務めている、ブルーノと言う」


「初めまして。当ホテルファシルキャビンのオーナー、星野 理央です。星野が姓で理央が名です。こちらがホテル業務のトップを務めているモニカです」


「よろしくお願いします」


 ブルーノさんは、荒々しい見た目とは裏腹に教養や礼儀作法を修めているかのような、品のある印象を受ける声音をしていた。

 ちなみに、ブルーノさんが言っていた『アーティチョーク』とはアルフレドとセシリオが主に活動している街の名前で、パラドール王国の東南部、禁じられた領域に最も近い街の事だ。

 以前セシリオさんから教えてもらったのだが、禁じられた領域に近い関係でそこから採取できる資源の取引や古王国研究で栄えている街で、その重要性から王家直轄領となっているとか。


「ほう、アルフレド達の報告を聞いたときは半信半疑だったが、この目で見たとなれば信じないわけにはいかないな。特にゴーストが生前の様に理性を持ってホテルで働いているなど、度肝を抜かれてしまった。

 ……と、前置きが長くなったな。実は俺がここに来た理由は、禁じられた領域の変化を見極め、ギルドとしてどう対応するか判断する材料を集めるためなのだが……その前に、ホテルに泊まりたいのだが?」


「かしこまりました。モニカ、チェックインの手続きを」


「はい。それではブルーノ様、こちらへどうぞ」


 それから丸一日、ブルーノさんはホテルで過ごした。アーティチョークからの長旅の疲れを癒やす目的があったそうだけど、同時にこのホテルについて品定めをしているみたいなんだよなぁ。

 そして朝食のパンビュッフェを堪能してから、ブルーノさんはこう言った。


「見事だ。部屋は巨大なベッドだけだが様々な機能があり、洗濯機という洗濯を自動で行ってくれる魔導具やシャワー、さらにドリンクは無料で朝食にはパンを提供される。しかも食べ放題だ。

 ま、酒がないのは惜しいところであるが」


「申し訳ありません。当ホテルのシステム上、酒類を提供することが出来ないのです」


「それはわかっている。アルフレドからリオのスキルについてある程度聞いていたからな。禁じられた領域という危険地帯にホテルが建ったのも、ゴーストだらけだった廃墟が見事に街として復活したこともリオのスキルによるものだと知っているし、ランク式のスキルだからまだ上が存在することも承知している。

 これから先、リオのスキルの成長によってどんなホテルが生まれるか楽しみなのだが……まずは目の前の事を一つずつだな。街の様子を見てみようか」


 朝食を終えると、ブルーノさんはアルフレドとセシリオを引き連れて街の様子を見に出かけた。

 この外出は、僕とモニカも同行した。特にモニカはこの街の出身であるため、案内役に最適だろう。




「現役時代に何度か来たことがあるが、あの時に訪れた場所だとはとても思えんな……」


「直ってる部分にゴーストはいないからな。どの建物も、すぐ入居できる状態になってるぜ、マスター」


「安全地帯が出来たことで、今まで足を踏み入れた事が無い場所に行けるようになったのも大きいですね。さらにすぐ使えるホテルが街中にあって、休息を取りやすくなったのも心強いです」


 ブルーノさん、アルフレド、セシリオの3人は街を散策しながら、冒険者としてこの街の有用性について議論していた。3人とも、この街はかなり有益な存在だという意見で一致しているらしい。


「そうなると、冒険者ギルドの支部として使える建物が欲しいな。この街の存在があればB級の奴らでも探索が出来るだろうから、かなりの冒険者が押し寄せるな。そうなると、大人数を収容でき、大量の業務を裁ける職員の仕事場になり、色々な採取物の処理や鑑定、保管も必要になるからデカい建物である必要がある。

 そんな建物は――」


「心当たりがあります」


 そう言ったのは、モニカだった。

 モニカの案内に付いていくと、確かにブルーノさんの求める条件に一致する物件があった。ただ、その建物は……。


「モニカと最初に出会った屋敷じゃないか」


 スキルのチュートリアルのままに向かい、破格の強さを持つ野良ゴーストだったモニカと出会い死闘を繰り広げた屋敷だった。

 現在は僕のスキルの浄化効果により、巨大でしっかりした作りの屋敷になっているけど。


「広さは十分だな」


「部屋数もあります。支部に詰めている職員の仕事場が不足することはないかと」


「兵の訓練場らしき施設があった。それと狩りに使う獲物の処理設備もな。冒険者の訓練や魔物の解体も出来るな。

 ゴーストだらけの土地で魔物が見つかるかどうか怪しいが、冒険者ギルドの建物としては理想的だな」


 ブルーノさんの判断は、この屋敷を冒険者ギルドの支部として活用することになった。

 ただ、ブルーノさん曰く問題があるそう。


「禁じられた領域は、北西のパラドール王国と北東のリッツ王国に挟まれた場所だ。だから両者でもめ事が起きないよう、人が住めない土地ながら『どの国にも属しない』という条約が結ばれている。

 そんな土地に冒険者ギルドを開設しようとするなら、リッツ王国側の冒険者ギルドに事情を話して折り合いを付けないといけない。条約破りだと国際問題になりかねないからな。

 だから、待ってはもらえないか? 早くても3ヶ月後くらいにはなりそうだが……」


「お客様がいらっしゃるのであれば、いくらでも待ちますとも」


「そうか。それと、こっちから追加調査ということで定期的にリオのホテルに向かわせる冒険者を送る。もしかしたらリッツ王国側との交渉のためにリオに色々聞いたり鑑定をしたり、場合によってはリッツ王国側の冒険者が来ることになるかもしれない」


「僕に協力出来る事があれば、いくらでも申しつけてください」


「恩に着る」

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