007号室 アルフレドとセシリオの帰還
アルフレドさんとセシリオさんの宿泊は1週間に及んだ。元々、1週間の予定で禁じられた領域を探索する予定だったらしく、食料の準備はバッチリだったようだ。
冒険者としてエントラーダ周辺の探索を行いながら、結構色々なことを教えてくれた。
まず2人がどうして冒険者になったかだが、アルフレドさんは田舎の農家の次男として生まれ、家や土地を継げる立場になかったから冒険者になったそうだ。
「ま、冒険者を目指す連中には色々理由があるが、俺の場合は割とよくある理由だな。それにスキルが冒険者向きだったし」
「なるほど。差し支えなければ、アルフレドさんのスキルを教えていただいてもよろしいですか?」
「ああ、いいぜ。もう冒険者界隈では知られている事だしな。俺のスキルは『刀剣召喚』って言って、刀剣類を召喚するんだ。こんな風にな」
すると、アルフレドさんはシンプルな剣を虚空から生み出した。
「すごいですね。わざわざ武器を買わずに済みそうです」
「だろ? でも、なかなか曲者なスキルなんだぜ? 最初は『武器に金かからないしラッキー』だと思ってたんだが、剣の腕が上がってくるとすぐ壊れる。それでスキルを調べてみたら、召喚する剣は中級以下の出来のものしか出てこないことがわかった。
だから俺は、戦い方を変えた。剣を使い捨てまくるやり方にな」
剣を使い捨てまくる? 剣を壊しながら振り回すって意味じゃなさそうだし……。
「剣を投げるんだよ。どうせ召喚した剣はそのうち消えて無くなるからゴミだらけにしないし、距離を取って戦えるから安全なんだよ。このやり方がハマって、俺はA級冒険者になれた」
この世界の冒険者ギルドはネット小説でよくあるランク制を採用しているらしく、Eから始まりA、そして最高峰のSが存在するらしい。
冒険者のランクは依頼の達成率や達成した依頼の難易度で上下する。つまり、アルフレドさんは高い難易度の依頼を安定して達成できる、凄腕冒険者なのだ。
続いて話してくれたのは、セシリオさんの方。
「自分も冒険者になった経緯はよくある話ですよ。実家はサフラ家という一種の貴族家でしてね。自分はそこの三男で家を継げないから冒険者になったんです。幸い、スキルに恵まれていたので」
セシリオさんのスキルは『聖魔法』と言って、その名の通り聖魔法を扱えるスキル。
聖魔法は味方の能力を上げたり回復したりという支援が得意だが、実はゾンビやゴーストといった存在に対して有効な魔法らしく、そういった手合いと戦う場合に重宝されるらしい。
ちなみに、僕の従業員となったゴーストに聖魔法は効かない。僕に調伏された時点でゴーストとは似て非なる存在に変質する。あえて言うなら『スタッフゴースト』と言えるだろうか。
スタッフゴーストは禁じられた領域から出られないという制約を受けるが、その代わりいかなる攻撃も受け付けない無敵の存在となる。
ファシルキャビンに来たばかりのアルフレドさん達から攻撃を受けてもモニカが平然としていたのは、こういった理由なのだ。
それと魔法の話が出てきたので、この世界の魔法についても少し説明をする。
概ねファンタジー小説に出てくるような魔法のイメージで良いのだが、魔法を使うには専用のスキルを獲得している必要がある。しかも魔法スキルは必ず属性が指定されているため、1人の魔法使いが使える属性は必ず1つなのだ。
つまり、セシリオさんは聖属性しか使えないという事になる。
「そうそう。実はこいつ、教師の資格持ってるんだぜ」
「アルフレド! ……ええ、まぁ。冒険者が上手くいかなかったときの保険として基礎教育の教師免許を持っているんです。幸い、免許は簡単に取れる身の上だったので」
彼らの出身国パラドール王国は教育に力を入れているらしく、全国民に『基礎教育』という最低限の教育を受けるよう義務化されているらしい。前世でいう『義務教育』みたいなものかな。
詳しく話を聞くと、どうやら貴族の子弟用の教育カリキュラムを受ければ教師資格用の教育を受ける必要は無く、試験をパスするだけで取れてしまうらしい。
セシリオさんは貴族出身で受験資格を持っていたことから、試験を受けて免許を取ったそうだ。
「でも、セシリオさん。どうして教師を選ばなかったんですか? 冒険者よりも安全でしょう」
「確かに安全で安定してますが、給料が安くて。一応役人の一種だし尊敬もされるのですが、基礎教育の教師だと役人の中では給料が一番安く数十年務めても中級なりたての冒険者ぐらいにしかなりませんし。高等教育や貴族教育の教師であればもっと稼げるのですが、資格の難易度を考えるとそこまで執着出来ませんでしたし。
それに基礎教育の教師ともなるとどこに配属されるかわからないんですよね。とんでもない場所に配属される可能性もあったので」
パラドール王国は、基礎教育を全国民に義務づけている。それはすなわち、国が全国民絶対に基礎教育を受けられるよう配慮する、ということ。
つまり基礎教育の教師となった者は、国の命令で全国どこにでも赴任しなければならない。例え交通の便がよくない田舎だろうが孤島だろうが、険しい山の中にある集落だろうが。
そういう赴任先の見通しの悪さが、セシリオさんが教師の職業を保険扱いしている理由だろう。
「まぁ、いざ冒険者をやってみたら上手くいきましたし、偶然ながらアルフレドと出会えてA級冒険者にまでなれたので」
「そうそう。スキルの相性が良いんだぜ、俺ら」
セシリオさんが援護し、アルフレドさんが攻撃する。この2人がパーティを組むことで、どんな強敵とも戦う事が出来たんだとか。
話は変わり、禁じられた領域がパラドール王国でどう扱われているか話してくれた。
「パラドール王国に限った話じゃないが、ほぼ全ての人間が禁じられた領域に抱いている印象は『超危険地帯』」
「超危険地帯ではあるが、そこから色々と貴重で有用な素材が入手できる。だから自分達のような冒険者が入ることもあるのですが、無駄な死傷者を出さないためAランク以上の冒険者でなければ入ってはいけないことになっています」
……確かに、初めてこの地にやってきた時、危険な雰囲気があったし命の危険が常に付きまとっている感じがした。禁じられた領域に入るのに条件が付いているのも納得かも。
そして、アルフレドさんとセシリオさんの冒険者としての腕を、改めて認識した。
あっという間にアルフレドとセシリオのチェックアウトの日がやってきた。
この1週間、2人には色々と国や社会の事を教えて貰ったし、仲も深められた。アルフレドからは気安い話し方にしてくれって頼まれたし。
僕としては接客業だから気が進まなかったんだけど、どうしてもと言うことで気安い話し方に変えている。
「自分としては、もっと泊まって隅々まで堪能し尽くしたかったんだが」
「セシリオはずいぶんハマったよな~。でも、持ち込んだ食料がそろそろ無くなりそうなんだ。このホテルは食料の販売はやってないみたいだしな」
「僕としては、早めになんとかしたいと思ってるよ。それより例の話、頼むよ」
実は禁じられた領域が僕のスキルによって一部安全になったこと、ホテルを営業していることを2人が所属している冒険者ギルドのギルドマスターに報告することになっている。
上手くいけば、このエントラーダの街へ定期的に物資が入ってくるようになり、朝食のパンしか提供できないファシルキャビンの弱点を補ってくれるかもしれないのだ。
「任せとけって」
「最寄りの街との距離や色々な調整があるはずだから、早くても1ヶ月はかかると思ってくれ。それでは、世話になった」
こうして、アルフレドとセシリオは帰って行った。
次に来るのは、早くても1ヶ月。それまで、首を長くして待ちますか。
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