005号室 カプセルホテル体験 その2
自室に戻ってきた。まぁ、全てベッドで埋まっているから『自分のベッドに乗った』が正しいんだろうけど。
スクリーンを下ろして個室状態にすると、端末を開いて色々試してみる。
「照明は……部屋のものとデスクのものがあるのか。しかも調光機能もある。それとこれは……ベッドの角度調整か」
ベッドの上半身部分が起き上がり、ソファのように使ったり寝やすい角度に調整出来るのか。
しかも、端末に表示されたボタンを押している間起き上がったり下がったりする仕様だから、細かく好きな角度を設定できる。
「目覚まし機能はどうなっているのか……ああ、音の代わりに起きる姿勢にさせるのか」
端末で目覚ましを設定すると、ベッドが最大限起き上がって人を起こす姿勢にさせるシステムらしい。
いくらキャビンタイプとはいえ防音性はお察しだから、他の宿泊客に迷惑をかけないようにこういうシステムを採用しているんだな。
「他には……スクリーンに映して番組を見れるんだ」
部屋内に小型プロジェクターを搭載しているようで、端末を操作して番組を見られるらしい。
そう、『番組』! なぜか知らないが異世界でテレビが見られるのだ!!
そもそも誰がどうやって放送しているのかわからないが、とりあえずチェックしてみよう。
『気軽に! 快適に! リーズナブル!! カプセルホテル『ファシルキャビン』をご紹介します』
これは『ホテルニュース』。ホテルの情報やお得なキャンペーンを紹介するチャンネルらしい。
将来的にホテルが増えると、他のホテルの情報も流れるとか。
『最初のニュースです。エントラーダ周辺のゴースト情報ですが、数はほぼ変わらず――』
アナウンサーが真剣な顔をして話すこのチャンネルは『領域情報』。ホテルがある街周辺の状況を提供する情報番組だ。
今は僕以外に誰もいないから話されることは無いんだけど、行方不明者が出たりしたらすぐさま情報が出るんだとか。
『あっはっはっはっは! ありえへんやろ、それー!』
これはバラエティチャンネル。その名の通り、バラエティ番組を放映している。
内容は芸人のネタ番組やトーク番組のようなテレビで放送されているバラエティっぽいものから、動画投稿サイトに投稿されているようなニッチでとがった物まで色々ある。
現在はトーク番組を放送しているらしい。
「とりあえず、情報番組でそれなりに情報を集めながら、バラエティ見るか」
というわけで、しばらく僕は自分の部屋でスクリーンに釘付けになっていた。
翌朝、僕がダイニングに向かうと、香ばしい匂いが漂っていた。
「うわ、こう並んでいると絶景だなぁ」
キッチンに並べられていたのは、十種類近く準備されたパン。いくつかのカゴに入れられた状態で並べられており、バターやジャム類もきっちり用意されている。
これが、ファシルキャビンのサービス『パンビュッフェ』。朝6時から10時まで提供されており、宿泊者であれば自由に食べることが出来る。
ドリンクバーで飲み物を調達し、必要日応じてキッチンスペースにあるトースターで焼けば立派な朝食になる。
「味も結構いける。市販のパンとは違う、『ホテルのパン』って感じ」
朝食を終えた僕は自室に戻り、帰り支度を整える。
そして受付に行ってチェックアウトを行った。
「チェックアウトですね。ではご利用になられました端末と、宿泊料金3000Vを頂戴致します」
「はい、これで」
「確かに確認致しました。この度は当ホテルのご利用、誠にありがとうございました」
モニカからお辞儀を受け、僕はファシルキャビンを後にした。
ファシルキャビンを出た僕は――踵を返して再びホテルに入館した。
「モニカ、どうだった?」
「はい、大体仕事の流れはつかめたかと思います。課題もある程度把握出来ましたので」
ということは、今回のリハーサルは一応成功と捉えていいのかな?
ちなみに、今回宿泊費として支払った3000Vは、ある意味戻ってこない。どうもスキルのルールで、例えオーナーである僕であっても宿泊費やサービス料を支払わなければならないらしい。
ただ、結局の所その料金は僕の収入になるので、事実上無料に等しいとは思うんだけど……。
まぁ将来的にホテルの規模が大きくなったら、ホテルの運営費と僕の給料を分けるときが来るかもしれない。その時になったら、僕個人の財政的に影響が出るルールだと思う。
「ところでオーナー。一つ重大な欠点が発覚しましたね」
「うん。僕もわかってるよ」
重大な欠点。それは、周囲に店が無いこと。
ファシルキャビンでは、飲食物の提供はドリンクバーと朝に行われるパンビュッフェのみ。それ以外で食料を提供する機能は一切無い。本来はホテルの外にある飲食店で食事を取ることを想定されているからだ。
ちなみに昨日の夕食は、特別にスタッフ用に備蓄されていた食材を提供して貰って作った。
それ以外にも、提供されるアメニティだけでは足りない日用品もあるだろう。普通なら街のお店で必要な物を買うんだろうが、現時点ではそれが出来ない。
なぜなら、今の街は建物が綺麗なだけで中は空っぽだから。
「ですがこれの問題を解決するには、我々の力だけではどうすることも出来ません」
「そうだね。誰か協力者がいればいいんだけど……」
欠点はわかっているのに、自分たちにはそれを解決する能力が無い。
それを認識し、僕とモニカはため息をつくのだった。
もっとも、この問題が解決するのは意外と早かったんだけどね。
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