妹に正座させられてる姉

kao

第1話 妹が怒ってる理由

 怒った妹と正座しているわたし。怒ってる妹――愛梨沙ありさの顔を眺めながら可愛いなぁと思いつつも、顔には出さない。余計に怒らせることになるからね。

「お姉ちゃん、どうして正座させられてるか分かる?」

「どうしてでしょう……」

 理由がありすぎて分からない。つい最近だと愛梨沙ありさのプリンを食べてしまったことだろうか? だけど名前書いてない妹も悪いと思う…………はい、わたしが悪いですね。素直に謝ろう。

「プリン食べてごめんなさい」

「はぁ? ないと思ったらお姉ちゃんが食べてたわけ!?」

 あれ? 違った!?

「じゃあどうして怒ってるんですか」

 妹相手に敬語になるわたし。さっきからなぜこうも姉と妹の立場が逆転してるのか。……わたしが愛梨沙ありさのプリン食べたせいですね!

 でもわたしの質問に答えてくれるあたりガチギレしてるわけではなさそうだ。ガチギレしてたら口も聞いてくれないからね。

「プリンの件はあとで問い詰めるとして……その昨日のことだよ」

「昨日……?」

 わたしの反応を見た愛梨沙の表情がどんどん不機嫌になっていく。

「私とキスしたじゃん……」

「誰が!?」

 どこの誰だ!? わたしの妹にキスをした不届き者は!?

「お姉ちゃんだよ!!」

 成敗されるべき不届き者はわたしでしたね! 

「ファーストキスだったの!!」

 愛梨沙は顔を真っ赤にして叫ぶ。

 そこでようやく昨日の出来事を思い出す。

 愛梨沙がリビングに入ってくるのが見えて『おかえり』って言おうとしたところで段差で躓くのが見えた。近くのソファーに座っていたわたしは珍しく俊敏な動きをし、妹のピンチを救うべく動いた頑張のだ。そこに邪な気持ちなんて一切なかった。

 そして事は起こった。愛梨沙の下敷きになった私は気づけばちゅーをしていたのだ。

『あーこんな漫画みたいな事故チュー起こるんだなぁ』なんて逆に冷静になったものだ。その後すぐに愛梨沙は何も言わずに自分の部屋に戻ってしまった。おかげで正気を失わずにすんだけど、ふにゅとした柔らかい感触を思い出すとドキドキしてしまうので意識しないように記憶を封印することにしたのだ。

 それにしてもファーストキスでそんなに怒るってことはかなり大事にしてたようだ。冷めてるように見えてそういう乙女なところが可愛いんだよなぁ。

 ま、それはともかく愛梨沙が気にしてるというならわたしは平静を装わねばならない。

「女の子同士だし、なにより姉妹だよ? ノーカンでしょ。わたしだってファーストキス……じゃなかったな」

 そこまで言うと愛梨沙はものすごい形相で睨みわたしの胸ぐらを掴んだ。え、怖い。土下座しそう。

「お姉ちゃん恋人いたの!?」

「いないけど」

「じゃあ恋人じゃないのにキスしたわけ?」

「まぁ……可愛いかったからいいかなって」

「は?かわいかったから??」

 ありえないとばかりにわたしを揺すりまくる。弁解しようにもこの状態ではまともに話せない。

「……お姉ちゃんがこんなタラシ女だとは思わなかったよ」

「タラシてるつもりないからね? それにファーストキスの相手って……」

 と、言いかけてやめる。何を隠そうファーストキスの相手は妹なのだ。それにキスしてきたのは愛梨沙の方だ。五歳のときに『おねえちゃんとけっこんする!』って。まあ愛梨沙は覚えてないみたいだけど、これ言ったら余計な火種を撒くことになるので口を閉ざす。

「そうやって誰にでもキスするんだ」

「誰にでもはしないよ!?」

 どんどん妹の瞳から光が無くなっていく。蔑みの目に。これは怒られるより辛いよ!?

 まぁどんな表情をしてもかわいいんだけど。

「お姉ちゃんのバカ……」

 えっ、えっ……!? なんでそんな泣きそうになってるのさ。確かに昔の妹は泣き虫だったけど、今はわたしに対して素っ気ない態度とってくるからそんな顔を見ることはなくなったのに。相当ショックだったんだろうね……そんな反応されるとわたしもショックだよ。

「もしかして……好きな人いるの?」

「なっ……」

 愛梨沙は驚いたようにわたしを見る。え、なにその反応!? まさか本当に好きな人いるの? 

「好きな人なんていないし!!」

「その反応は嘘だよね!?」

 明らかに顔が真っ赤だし動揺している。愛梨沙の表情の変化に気づかぬ姉ではない。

「うっさいバカ……もう振られてるんだよ」

 愛梨沙は涙目で睨みつけてくる。そして言葉を続けた。

「だって私とキスしてもなんとも思ってないんだよ?」

 ……ん? 妹とキスしたのってわたしだよね……あれ?

「は? 今なんと?」

 聞き間違えたかと思った。だってそれじゃあ愛梨沙の好きな人って――

「好きな人ってわたし!?」

「お姉ちゃんの鈍感!! バカ!!」

「え、ファーストキスが大事だったから怒ってたんじゃないの!?」

「そんなの別にどうだっていいの!!」

「よくないよ!?」

「言うつもりなんてなかったのに……」

 愛梨沙がこんな苦しそうな顔をしてるのに……ああ、どうしよう。すごく嬉しい。でもやっぱりわたしは愛梨沙の笑った顔が一番好きだから。

「わたしも愛梨沙が好きだよ」

「嘘!!」

「嘘じゃないから!ずっと前から好きだよ!!」

「だって平然としてたじゃん」

「は? 舐めんなよ? 妹が好きだって自覚して片思い五年!! 無自覚な時を合わせたら十三年のわたしがどれだけ平静を装うに苦労したのか!!」

「無自覚なときって私が産まれたときだよね!?」

 そこでドン引きしたような顔をする愛梨沙を見て泣きそうになる。いつから恋心だったのかは定かではないけど、最初から愛梨沙が好きだったわけだし!!

「とにかくわたしは最初から愛梨沙が好きってこと!!」

「ほんとうに?」

 ︎︎愛梨沙はそう言って不安そうな顔をする。さっきまでの強気な態度が嘘のようだ。

「好きならキス……してよ」

 ︎︎愛梨沙は消えそうな声でそう呟いた。久しぶりに見る妹の弱々しく照れた表情。破壊力抜群だった。

 は? 可愛いんですけど!?

 ︎︎あまりの可愛さに固まっていると、

「やっぱりキス嫌なんだ……」

 ︎︎と泣きそうな顔をする愛梨沙。妹を不安にさせてしまったことを反省し、食い気味に否定する。

「嫌じゃない! ︎︎むしろしたい! ︎︎愛梨沙が可愛いすぎてフリーズしてしまっただけだよ」

「お姉ちゃん真顔でそういうこと言わないで」

 ︎︎愛梨沙は怒ったように言う。でもただの照れ隠しってことは赤らめた顔を見れば明らかだ。

 そんな愛梨沙を見て愛おしさが込み上げてくる。そしてわたしは妹の頬に触れた。ゆっくりと顔を近づける。

「……んっ」

‌ ︎︎そっと唇を重ねた。

 ︎︎愛梨沙とは三回目のキス。一回目の記憶はあやふや、二回目は感触を感じる余裕なんてなかった。

だからようやく感触を堪能できる。

く唇は柔らかくて、気持ちよくて好きな人と触れられる幸せな気持ちで胸がいっぱいになる。このまま離したくない。

 ︎︎今まで我慢していたせいで、そのタガが外れてしまったようだ。どれくらい唇を重ねていただろうか?

‌ ︎︎愛梨沙の顔が見たくなって一度唇を離す。愛梨沙は潤んだ瞳でわたしを見つめていた。そんな可愛い顔されたらわたしの理性は持たない。

「おねえ……んっ」

 ︎︎衝動のままもう一度唇を重ねる。

 ︎︎どうやらもう止められそうにないみたいだ。グッバイわたしの理性――

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