第十四話 第一次南方海戦 3
四徴タンドリー諸島制圧艦隊が、戦闘状態に入った。これで、両者が互いの存在に気付き、砲撃戦が行われることとなった。
「序列を崩さずに、対水雷警戒を厳となせ。」
そうして、艦隊はタンドリー諸島へと艦首を向けて、突入を開始した。
「さあ出てこい、青星野郎どもが」
両艦隊は、月光に照らされながら接近中である。両者、レーダーと逆探知を使用し、手探りながらも互いの大まかな位置を把握している。そんな中、連合艦隊を率いる中澤は、先手を打っておこうとした。
「一水戦、二水戦に雷撃命令」
レーダーの情報を用いて、夜間雷撃を行うこととした。第一水雷戦隊(旗艦軽巡『治山』 司令官、春馬元忠少将)、続いて第二水雷戦隊(旗艦軽巡『大岩』 司令官、常田勇作少将)が、艦隊より分離して、魚雷を発射しようと散開した。
「魚雷発射」
魚雷発射管より、魚雷が一斉に発射された。そして、一水戦と二水戦は、気付かれることなく雷撃を終えた。
数分後、四徴タンドリー諸島制圧艦隊、旗艦『モツツァレア』…
ソナー室では、ソナー員が、両耳のヘッドフォンから来る音に、全神経を集中させていた。そのヘッドフォンに、僅かだが音が聞こえて、目の前の画面に音波が表示された。ソナー員は、瞬間、その音の正体が分かった。と同時に、目を大きく見開いて、受話器に叫んだ。
「魚雷音!方位60°!1000ヤード!本艦に命中コースです!」
と同時に、右舷見張り員が叫んだ。
「雷跡発見!魚雷数、19…20!20本です!」
「面舵一杯急げ!」
「両舷前進微速!」
操舵員が、全力で操舵輪を右に回した。魚雷は、その隙間を抜けていった。魚雷は、海中を滑るように進んでいく。その第一波を回避したときであった。
「第二波が来ました!被弾コース!」
と、悲鳴のような声で見張り員が叫んだ。甲板上で、警報音が響く。
「取舵!急げ!」
「ダメです、艦長、間に合いません!」
その時だった。
「こちら駆逐艦『カラシーニ』!我が艦をもって盾となる!」
と無線音声がかかり、モツツァレアの右舷にひっついてきた。
「おい、カラシーニ!まて…」
トーチ中将が、聞こえないとは重々承知の上で駆逐艦に向けて叫んだ。しかし、駆逐艦は勿論離れない。フジツボのようにひっついている。
「武運を祈る」
それが最後の通信となった。魚雷が艦中央部に二発命中。月光に照らされた、青白い駆逐艦は、瞬く間に真っ赤な炎に包まれ、そののち折れて沈んでいった。
「…」
モツツァレアの艦橋は、沈黙に包まれた。燃えさかる炎の赤色が、トーチ中将の顔にうつっていた。
「右砲戦、敵艦隊を発見次第攻撃を開始。逆探知を続けて敵艦隊の詳細な位置を報告せよ。」
と、静かに命令された。
「全艦艇に通達、我に続け、最大戦速、通信管制を維持せよ!」
その瞬間だった。
「逆探知成功!敵艦隊発見!」
逆探知レーダーが、敵艦隊の詳細な位置を特定した。
「でかした。我が艦隊は、これより敵艦隊への砲撃を行う。逆探知の情報を緒言にせよ。」
「了解しました。面舵10°、斉射角を維持!」
「射撃を開始します。」
砲術長が砲撃の許可を請い、許可が出された。
「射撃用意!砲旋回急げ!目標、敵戦艦!」
砲撃の準備が整った。
「主砲射撃用意完了!」
「射撃開始!」
砲撃音が、静かな海の空気をかき乱した。艦橋が、地震のように揺れた。
同時刻、連合艦隊旗艦『天神』
「敵艦隊発砲!砲火が見える!」
見張り員が叫んだ。ピカッと光ったのが見えた。
「面舵一杯、左舷前進強速、右舷後進微速!」
今の状況としては、双方右砲戦を取る状況になっており、つまり双方反対側に進んでいる。沖田は、取舵をきるとともに、スクリューも使って全力で転舵した。
「敵弾接近中、到達まで20秒」
ここあたりで、ゴオォォォォという飛翔音が聞こえてきた。皆が生唾を飲み、参謀長は、右手で握っているノートを更に強く握りしめた。
「敵弾来ます!」
音が更に大きく聞こえる。弾はまっすぐ、天神に向かっていた。
「着弾します!」
弾が海面に叩きつけられた。次いで、ガタッと少し揺れた。
「…今、揺れましたよね?」
と、小規模の地震のような揺れを感じ取った後に報告が来た。
「右舷装甲帯に敵弾命中!しかし、不貫通により被害はなしです!」
天神の最も重厚な装甲帯である、40mm装甲に敵弾が
「反撃を開始する。砲撃戦用意、右砲戦、目標敵戦艦!」
先ほど飛ばした観測機が既にデータを集めていて、そのデータを諸元にして砲撃を行う。
「射撃用意ヨシ」
戦艦群が交互射撃を行った。砲撃目標は敵戦艦『チェダー』。先ほどの砲撃後の陣形変換のために、前に躍り出てきていたためである。この戦艦に砲弾が向かっていった。しかし、初弾で中てるということはとても難しく、全弾海面に叩きつけられた。
「全弾遠弾です」
「射撃弾道修正」
交互射撃の、第二射目に入った。
「軌道修正よし、射撃用意ヨシ」
「主砲、撃ち方はじめ」
今度は、極めて正確な弾道を通って弾が飛んでいった。勿論、チェダーへと向かっている。チェダーは、速度方位そのまま前進している。
「
海面に叩きつけられた大量の砲弾で、水柱が林のように立っている。その林で、艦が見えなくなった。そののち、黒い煙と破片が宙を舞ったのが見えた。
「チェダーに命中しました!」
見張り員の双眼鏡には、炎が上がっているのが見えた。しかも、右側に傾斜している。チェダーの第二主砲は、砲身の油圧装置が破壊され、甲板にめり込んでいるという状態であった。第三主砲は、砲身がへし折れて消えていた。それから数秒後、大爆発を起こし、そのまま海中に引きずり込まれていった。周辺にある全てを巻き込んで沈んでいった。
「チェダー級戦艦、一隻、撃沈ですね。」
参謀長が静かに言う。艦首の紅色を見せて沈んでいくチェダーがある中、砲術長が
「砲撃目標変更」
を指示した。
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