第十三話 第一次南方海戦 2
参謀総長より、タンドリー諸島に接近中の敵艦隊の迎撃の命令が出た。猫田は、すぐに青葉少佐と有馬少佐の参謀二人に、連合艦隊が停泊する南出野軍港へと向かわせた。車で軍港へと向かい、そのまま内火艇で旗艦『天神』に乗り込む。
その頃には、すっかり夜になっていた。軍港は、ライトで照らされている。そんな中、天神は夜であるにもかかわらず、ものすごい存在感を放っていた。
「見事だな」
と、有馬少佐も思わず言ってしまうほど、大きかった。「城」と言うべきなのかもしれない。
内火艇から艦へと上がり、甲板をしばらく歩いてから艦橋へと入り、エレベーターで上へと上がり、長官公室へと入る。途中で、青葉は兄の青葉勇参謀長と会ったりしたが、急ぎだからと、話を後にした。
作戦会議室には、中澤幸雄長官、青葉勇参謀長、副丸肇主任参謀といった連合艦隊の幹部の面々が、机の一列目に並び、その後ろに、『天神』の沖田友作艦長、『神鷹』の東雲総司艦長などの、数百もの
この猛者たちを前にして、二人は説明を始めた。敵の暗号通信を傍受したこと、タンドリー諸島に艦隊を送り込むという内容だったこと…ここにいる軍人たちは、タンドリー諸島の重要性を十分に理解していたため、これが重大な危機であるということを瞬時に理解した。そして、作戦の概要が説明された。それで終わった。
二人が退艦した。その間も、出港準備がされた。各艦、燃料や弾薬の最終補充などを行っている。出撃の時間は、刻一刻と迫っている。
二人の参謀が退艦してから30分もせずに、全艦出撃準備が完了した。
「艦隊に出撃を命令します」
と、青葉参謀長が、中澤長官に出撃の許可を請うた。
「よろしい。全艦出撃。」
天神の第一艦橋(羅針艦橋)では、出港のために、慌ただしく人が動いていた。
「出港用意!」
沖田が叫んだ。と同時に、ラッパ手が、出港ラッパを響かせた。
「両舷前進微速、面舵15°」
「りょーげんぜんしんびそーく、おもーかーじ」
「回転安定しました」
「よろしい。各艦に伝達。『天神』、これより出港する。我に続け。」
そうして、天神はゆっくりと前進し、港を出た。
「両舷前進半速!」
そして、全艦が出港した。このまま、針路を南にとり、タンドリー諸島への航行を続ける。しかし、そのまま真っ直ぐいくのではなく、潜水艦などに補足される危険性から、艦隊はしばらく南に航行したのち、東側に進む、欺瞞航路をゆく。
同刻、四徴連邦海軍、タンドリー諸島制圧艦隊…
「タンドリー諸島を制圧してしまえば、一気に我が方優勢に傾く。」
艦隊司令に任命されたトーチ中将が、コーヒーカップを片手にして言った。
「しかし、奴らに気付かれた可能性があるとしたら…」
と言いかけたところで、参謀長が口を開いた。
「暗号解読をされているか、それか、まだ我が国の制海権海域なので無いと思いますが、潜水艦によって補足されているか、この二つですね。」
と言い、続けた。
「しかし、哨戒機も敵潜水艦を発見しておりません。心配はご無用かと。」
「そうか…」
艦隊は、まさか暗号が解読された上に、連合艦隊が出撃しているなど知るよしもなかった。それも知らずに、大海に白い航跡を残して進んでいた。
10月23日、連合艦隊…
「観測機発艦!」
天神の後部カタパルトから、観測機が勢い良く射出された。艦隊の捜索を主任務として飛び立っていった。そろそろ、タンドリー諸島に近づいてきた。つまり、それは敵艦隊との距離も狭まっているということである。
「最悪、そろそろ接敵してもおかしくはないですね。」
青葉が月光のスポットライトに照らされた艦橋の中で言った。夜の大海原は、極めて静かで、艦が波を蹴って進む音しかなかった。
同時刻、『天神』
薄暗い部屋に、レーダー類の画面が光っている。数百mの感覚で描かれた同心円には、まだ何も映っていない。そんな時だった。突如、三列の大艦隊が映った。
「敵艦隊を発見!」
すぐさま、戦闘情報室の一人が、艦橋へと繋がる受話器を取って叫んだ。
「南東約8000mにいます!」
とも聞こえてきた。
「総員戦闘配置」
「総員戦闘配置!」
「全消火装置配置完了!」
「全主砲配置完了!」
「両舷両用砲配置完了!」
各部署の配置完了の報告が入ってくる。
「総員、戦闘配置につきました。」
天神の松島副長が、沖田に向かって報告をした。『天神』の乗組員は、実によく訓練されており、ものの3分程度で戦闘配置が完了する。
-同時刻、四徴タンドリー諸島制圧艦隊…
「トーチ中将、我が艦隊は補足されました!」
参謀の一人が言った。
「敵のレーダーを逆探知で観測、この推定距離からだと発見されたことになります!」
「クソッ、敵に発見されてたか」
トーチが、チェッと舌打ちをした。そして、
「敵艦隊の発見急げ!逆探知で敵の正確な位置を特定しろ!」
と命令した。そして、
「敵は暗号を既に解読しているのか?それとも、たまたまか…?」
と、拳を机に叩きつけた。
「しかたがない、砲撃戦に持ち込む。総員戦闘配置!」
二つの艦隊が衝突しようとしている。
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