第十二話 第一次南方海戦 1
1945年、10月18日…
「対潜警戒厳となせ」
青葉参謀長が、巻たばこ片手に言った。ここは、北大帝領タンドリー諸島より50海里ほどの、何もない海上である。ただ、水平線がずっと続いている、飽きてしまうほどの変わらない景色なのである。
ことの始まりは10日前、海軍の中枢、参謀本部の作戦本部の電話のベルが鳴った。これを、作戦本部第一課の、青葉二郎少佐が受話器を取った。なお、青葉少佐は、連合艦隊参謀長の青葉勇少将の弟である。
「こちら作戦本部第一課、青葉です」
電話の先は、同じく帝都にある、海軍春島通信所である。味方、敵の通信を傍受する任務に就いている。相手は、そこで勤務している通信士官の三田大尉であった。
「通信士官の三田大尉です。春島通信所で、敵の暗号無線を傍受、解読したので報告させていただきます。」
と、よほど興奮していたのか、早口になっていた。なお、この頃既に四徴の海軍暗号は解読されていた。北大帝海軍の参謀本部麾下の暗号局が、アメリカから招いた技術士官と協力して、この暗号を解読したのだ。
「分かった」
と青葉が返答すると、受話器の近くにあった鉛筆立てから、鉛筆とメモを取った。
「で、どんな内容だ?」
と言うと、
「読み上げます。」
と即座に返答がきて、ゴホンと一回咳払いをしてからしゃべり始めた。
「艦隊出動ス 目標ハ タンドリー諸島 敵ノ根拠地ヲ 制圧スベシ」
それを速記で書いていた青葉だが、『タンドリー諸島』のところで、忙しく動いていた鉛筆がピタリと止まった。
「タンドリー諸島!?」
と青葉が叫んだ。ガヤガヤした部屋が、シン…と静まった。
「はい。この通信文から見るに、制圧して拠点にして、シーレーンを潰し、制空権を握るつもりかと…」
三田が言ったとおりである。ここには、飛行場がある。港もある。島自体も、北大帝と四徴の間のちょうど、ど真ん中にある。シーレーンを脅かすには十分すぎる地理にあり、また制空権をとれてしまう可能性もあるのだ。
「わ…分かった…」
そして、ガチャッと受話器を元にもどして、大きくため息をついた。
「敵無線傍受です!タンドリー諸島に敵艦隊が来ます!」
と、部屋中に響く大声で、沈黙を破った。そして、すぐにその話題で持ちきりになった。
「タンドリー諸島か…」
「あそこをやられると厄介だな…」
すると、青葉の上司でもある、作戦次長、伊藤少将が、
「青葉、有馬、作戦考案に入れ」
と命令した。二人は姿勢を正し、敬礼して、
「了解しました」
と言い、自分の机に向かった。そして、一時間もせずに作戦概要を書き終えた。そして、それを持って作戦本部の本部長である、猫田一樹大将の執務室に入った。
「失礼します、青葉です。」
「同じく有馬です。」
ノックをして、返答があったのでドアを開けた。中には、椅子に座って、タバコを吸っている猫田がいた。
「作戦概要は書けたかね?」
と、二人が入るなり、タバコを灰皿に押しつけて言った。二人は、はい、と返答して、概要を書いた紙を渡した。一枚一枚、ページに目を通して、猫田はGOサインを出した。
話はすぐさま、参謀本部の白田正治参謀総長に通され、参謀総長の名で出撃命令が出された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます