第十一話 北方海域海戦 5

 この海戦は、現在接近戦に入っている。といっても、北大帝側が一方的に十字砲火を浴びせかけているというものだが。その距離、僅か6995m。戦艦同士の砲撃戦では、超近距離戦である。右舷側の副砲、両用砲が次々に射撃を開始した。


 この主砲弾と副砲弾の弾幕を前に、四徴側は回避も何もなかった。右に舵を切っても、左に舵を切っても被弾する、そんな絶望的状況にあった。一秒間に、数十の砲弾が飛んで行く。


 15時56分、重装甲打撃艦「神鷹」の50cm主砲弾が、アーソンの司令塔に命中した。そして、そのまま信管が作動して炸裂。司令塔は、破壊された。中にいたフーズ中将、艦長、司令部要員が、二人を除き、全員死傷した。艦は、艦の上層部が壊滅して、混乱状態になった。すぐさま、副長が指揮をとりはじめた。


「ありゃあ、沈みますね」

 と、副丸大佐が、双眼鏡でアーソンを見ながら言う。砲弾が喫水下に直撃して穴が空き、浸水が始まって、右舷側に傾き始めていた。主砲は沈黙し、作戦行動は不可能となっていた。傾きながらも進んでいる。そこに、容赦なく弾が降り注ぐ。かなりのダメージを受けて、アーソンは撃沈された。


 「砲撃目標変更、後続の『カタパル』級へ」

 砲術長が指示をした。そして、後続の『カタパル』も、猛烈な砲撃を受けた。第3主砲のバーベットを貫通した弾が内部で爆発、弾薬庫にも達して大火災が発生した。そして、第3主砲の弾薬庫に緊急注水、第3主砲は使用不能になった。しかし、第2主砲に弾が命中した。甲板を貫通して、弾と発火薬が大量においてある弾薬庫で、信管が作動した。


 カタパルは、一瞬、一筋の閃光が見えたかと思ったら、大爆発を起こした。第2主砲が吹っ飛び、そこから巨大な火柱が吹き上がった。同時に、第1主砲も吹き飛んだ。そのまま、艦は司令塔のところで二つに割れ、最後にもう一発爆発して、それが沈没に拍車をかけることとなり、これまたすぐに沈んだ。


「これは…」


 天神の司令塔で、青葉参謀長が、かがんで小さい窓から、沈みゆくカタパルを見て、唖然として言った。そして、最後の大爆発の爆炎に、後続の戦艦『コルタ』が包み込まれた。カタパルがまき散らした破片を受けて、炎から出てきたときには、甲板は炎に覆われていた。そして、破片が落ちたときの海水が、霧雨のように降り注いだ。


「反撃せよ!砲戦用意!目標、敵戦艦『天神』!目標距離6500!」

「砲戦用意!距離6500!」

 炎を纏いながら、コルタが反撃を始めるために、砲の微調整を始めた。その時だった。


「だーんちゃく!」

 神鷹の砲術科将校が、右手の秒時計を見ながら言った。そして、旋回を開始していた第2主砲の天蓋に命中した。天蓋に黒く穴が空いた。それを見た、司令塔にいた艦長のユトリ大佐が、間に合わないと覚悟しつつも、弾薬庫に注水を命じようとした。


「弾薬庫にk…」

 間に合わなかった。天蓋を貫通した弾は、そのまま弾火薬庫までいった。そして、直後に、水中で大爆発が起こった。司令塔が、すさまじい破片の嵐と、爆炎が司令塔の小窓から入り込み、司令塔はなんとも酷い惨状となった。皆が何かしらの傷を負った。艦長も重傷を負い、救護室に運び込まれた。そして、第1主砲も誘爆し、艦首が切り離された。その切り離されたところの断面から、中に一気に水が流れ込んだ。そのまま、前にのめり込むようにして沈んだ。


 そのコルタの第3、第4主砲が、沈み行くなかに最後の砲撃をした。目標は、やはり『天神』である。この二つの主砲は、硝煙を吐きながら沈んでいき、砲身から海水が逆流していった。


 その弾が、天神の右舷第4副砲に命中して、これを破壊した。最後の最後に天神に打撃を与えて、第一軍の戦艦・重巡部隊が壊滅した。残された駆逐戦隊と軽巡部隊は、統制がとれずに逃走を始めた。それを逃す連合艦隊ではない。


「追撃を開始せよ」 

 と、中澤が命令をした。第三艦隊と第一、第二艦隊が、逃走中の部隊を挟み込んだ。そして、またもや容赦の無い砲撃を浴びせた。シャワーのような弾幕を受けて、第一軍は殲滅された。


「戦闘を終了する」

 天神のマストに、高々と掲げられて日の光を浴びていた戦闘旗が、ゆっくりと降ろされた。

「戦闘終了!」

 戦闘中は、艦橋内で息が詰まっていたが、それが解放されて、肩の荷が下りたように、皆が脱力した。青葉と副丸が、共にタバコを吸い始めた。そして、一斉回頭し、北大帝の南出野軍港への帰航の途についたのであった。

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