第六話 ファーザ島の戦い 5

ウェント中将は、完全に包囲されたこの絶望的状況で、夜戦強襲をかけることとした。せめて、最後に一矢報いようとしたのである。強襲をかけるのは、北大帝の部隊が展開している、弾薬集積陣地である。ここに、砲撃を食らわせて、一斉攻撃を行う。


 決行は5月25日。それまでに、兵を集積陣地に、隠密で集めていた。北大帝側は、四徴側の動きがなく、油断しきっていた。それをウェントは狙っていた。


5月25日、午後12時39分…

 突如、戦場に砲声が連続して鳴った。これに、寝ていた第23師団の幹部は飛び起きた。司令部から出ると、何が起こっているのかが一瞬で理解できた。集積陣地から火が上がっている。警備兵が何かを叫んで、あたりを走り回っている。敵襲である。


 すぐに伝令兵が駆け込んできた。かなり慌てた様子で、

「敵の砲撃です!集積陣地がやれらました!」

 ここまでは見えていた。

「分かっている!第32連隊を向かわせろ!」

 と指示を出した。現在不寝番の部隊である。すぐに、集積陣地のそばにある警戒陣地に向かった。


 遅かった。警戒陣地はすでに占領されていた。そのまま一気に前進され、北大帝軍は勢いを止められずに、撤退を余儀なくされた。ファーザ島守備隊の戦線が少し伸びた。結局、第32連隊もそのまま後退し、一斉攻勢のための立て直しを余儀なくされた。


 この集積陣地の破壊と警戒陣地の占領により、前線に置いておいて、一斉攻勢の時に使用するはずだった弾薬と砲弾は全て爆破され、それどころか、警戒陣地から撤退する際に放置した野砲5基と戦車2台が鹵獲されてしまった。どれも、飛行場にかける一斉攻撃のためのもので、結局、戦力を敵に提供してしまう形になってしまった。


 終わったことは仕方がないので、最後に、飛行場に全方位から一斉進攻するというこの作戦の最終段階に向けての攻勢の準備を始めることとなった。5月30日のことである。


 リトルダント山、つまり飛行場の北側に展開する海兵隊第一、第二師団と陸軍の第23師団、飛行場の南側、西側の海岸に展開している陸軍の第25師団、東側にいる第26師団が、戦艦の砲撃を合図に一斉に進撃を開始する。総攻撃の期日は、6月5日。

 

 6月5日、早朝… この日は、晴れていた。霧も出ずに、視界は良好であった。このリトルダント総攻撃を行うには最適の日となった。

「艦隊に連絡 作戦を予定通り実行 砲撃を開始せよ」

 

 沿岸でずっと待機していた海兵隊艦隊に、作戦実行の合図が出された。照準を、島の飛行場に合わせた。そして、斉射を始めた。砲弾が地面に突き刺さり、爆発する。これを、全部隊が確認した。そして、総攻撃に取りかかった。


 轟音が、止んだ。砲撃が停止された。攻撃開始ということである。

「全軍、総攻撃開始 各部隊は、所定の位置に向けて攻撃を開始せよ」

 と、全軍の無線に向けて、上陸司令部から入電があった。これに従い、全部隊が攻撃を開始した。リタルダント山からは、第23師団の第236砲兵大隊と、南と西からの第25師団の第367砲兵大隊と、東部海岸の第26師団の第153砲兵大隊による、一斉野砲砲撃が始まった。この援護砲撃を背中に、各師団の歩兵が前進を開始した。野砲による砲撃だけでもかなりの効果があった。しかし、それだけではトドメを刺しきれないので、歩兵による全方位からの一斉攻撃が必要になるのだ。


 そして、喚声と共に、兵が雪崩のように、全方位から流れ込んだ。北側は第16連隊が、東側は第11連隊が、西と南は第25連隊が守備についていたが、これらは先の戦いで後退してきたものの集まりで、兵も十分の数ではなかった。この中に、一気に突入する。守備隊も、総出で防衛に徹するが、圧倒的な砲火力と弾幕を張る北大帝軍には敵わず、一方的に攻められる構図となった。この戦いで、ウェント中将が機関銃の掃射の前に倒れた。部隊は総崩れとなり、降伏するもの、抵抗するが制圧されるものなどがいて、とにかく部隊は壊滅した。というより、北大帝軍によって殲滅された、という表現の方が正しい。


 結局、6月7日に、戦闘が止まった。それから、北大帝陸軍側は島の残党を探したが、見つからなかったため、正式に占領を宣言した。ファーザ島陥落である。リトルダント山に、北大帝国旗が高々と掲げられた。この戦争初の大規模戦闘は、苦戦を強いられながらも、なんとか辛勝できた。この勝利は、士気的なものでも重要な物となった。


 大手新聞のトップは、この記事が飾った。「ファーザ島陥落 我が軍勝利」という大見出しとともに、リトルダント山の国旗の写真が載っていた。

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