第五話 ファーザ島の戦い 4

 歩兵が、リタルダント山に登り始め、機関銃陣地を制圧した。しかし、砲兵陣地は健在で、今、全力で砲を旋回させて、歩兵達に砲撃をしようとしていた。砲塔が、ゆっくりと旋回している。


 実は、陸軍は、この戦いにとある兵器を投入していた。対戦車ロケット弾である。北大帝陸軍の兵器開発局である、陸軍開発局が開発した対戦車ロケット携帯発射器、通称「アーチャー」が投入されていた。この兵器は、全部隊に配備されていた。なので、勿論この連隊にも配備されていた。そして、突撃中のこの兵の中にも、このロケットを持った兵がいた。

 

 これが、砲兵陣地最大の不幸であった。兵達が駆けていく中、このロケット兵が一人ロケットを構え、発射した。砲台が派手に吹き飛んだ。砲はやられて、砲身が地面に刺さっていた。そして、轟轟と炎を上げていた。そして、とどめに兵が砲兵陣地に登っていって制圧射撃をかました。止めようと、陣地とつながる地下通路から兵が出てきたが、山に登っていく兵の勢いを止められず、逆に制圧された。


 Aビーチは多数の死傷者を出しつつも突入に成功したが、B、Cビーチはどうだったかというと、やはり苦戦を強いられていた。両上陸地点も、上陸した途端に猛烈な砲撃や銃撃にさらされ、足止めを受けた。全然進めず、死傷者が増えてAビーチ、いやそれ以上の苦戦を強いられた。


 B、Cビーチどちらにも、V字型の防御陣地が築かれていた。それに守られた兵が、機関銃を撃ちまくっているので、なかなか進めずにいた。この橋頭堡には、四徴陸軍の第16連隊が防備についており、ウェイク連隊長が指揮を執っていた。味方砲台より砲撃支援を受けつつ、塹壕にいる歩兵が攻撃を行っていた。


 砲撃と銃撃により、Bビーチ、Cビーチの海兵隊と陸軍兵は、海岸線での応戦を余儀なくされた。幸い、援護のもと砲兵大隊が上陸したので、すぐに反撃の開始が出来た。ここから、互いに砲撃戦を展開していくこととなった。


 また、陸軍開発局が新開発した、多連装ロケットランチャーを投入した。甲高いキャタピラ音を流して上陸したのは、自走多連装ロケット砲「ワルキューレ」である。30連装のパイプ型ロケットの回転式砲座を、主力戦車「陸虎」の砲を取っ払って設置した物になる。このワルキューレで構成された第一ロケット大隊が上陸したのである。


 上陸するなり、しばらく前進して、横一線に展開した。即座に照準を、第16連隊の主力が結集しているV字型の巨大橋頭堡に向けた。以下、V字橋頭堡とその関連陣地を、「リタルダント陣地」と呼称する。

 

 リタルダント陣地は、トーチカや障害物が多いから、歩兵が直接塹壕に出て攻撃をしていた。しかし、これからはこのロケットランチャーで、一気にこれらを吹き飛ばして障害物も破壊してしまう。このロケット攻撃は、5月12日に決行されることが決まった。


 5月12日、午前5:00… 戦場には、薄く霧がかかっていた。その時、昨日の戦闘が幻であったような静かさの中に、兵達はいた。本当に静かな朝だった。そんな中、ロケット攻撃を開始するために、兵達が微調整に微調整を重ねていた。だいたいの調整は、ものの数分程度で終わった。そして、

「決行」

 という声が、車内の無線電話に聞こえた。作戦開始の合図である。搭乗員が、砲塔に入り、発射のトリガーを引いた。


 ロケットが、勢いよく発射された。レールから、次々に発射された。爆音と共に、一瞬炎を上げ、連射されていく。その様子を、前線にいた兵士達は見守っていた。ロケットは、全力で上昇し、最高度まで到達すると、やがて降下を始めた。


 発射して数十秒がたち、連続して爆発音がきこえてきた。霧で視界が遮られ、状況が確認できなかったので、何が起こっているのか、しばらく不明であった。結論から言うと、四徴側はなんとも悲惨なことになった。橋頭堡付近に張り巡らされていた塹壕には、多くの兵がいたのだが、ここにロケットが降り注いできた。歩兵は、なすすべもなく全滅、連絡通路を兼ねていた塹壕は穴だらけになり、炎が立ちこめていた。


 また、対戦車用障害物を爆破することも成功。戦車での進攻を可能にした。B、Cビーチを守っていた第16連隊は総崩れとなり、北大帝に最後の反攻もかけたが、逆に圧倒的な砲火に防がれ、退却を始めた。と同時に、海兵隊が進攻を開始、リタルダント山は3方向からの進攻を受けて陥落した。


 残る部隊は、中央の飛行場を防衛する第18連隊と、敗走してきた第16連隊の兵たちである。飛行場の後ろには、北大帝軍の手に陥ちたリタルダント山がそびえ、反対側には、北大帝に占拠された海岸がある。つまり、飛行場は包囲されている。リタルダント山からは、北大帝陸軍が持ってきた野砲による定期射撃の砲弾が着弾し、海上からは戦艦による砲撃が、陸上からは、第23師団がジワジワと飛行場に迫っている。


 この、実質的に詰んでいる状況で、活路を見いだそうとしたウェント中将であったが、この絶望的状況では活路を見出すことは到底不可能である。が、ウェント中将は、この状況でも作戦を立てていた。彼が出した結論、それは強襲夜戦である。飛行場を包囲する部隊に対して、夜に強襲をかけるのである。早速、準備に取りかかった。この戦いで、北大帝に一矢報いるための作戦が開始された。

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