第四話 ファーザ島の戦い 3

「アレがやっかいだな…」

 四徴陸軍の37mm対戦車砲を、渡部連隊長が指を指して呟いた。そして、横の障害物に隠れていた通信兵に向かって、砲声にも負けない声で叫んだ。

「作戦指揮部に信号!敵の対戦車砲を発見!山の各砲撃陣地に設置してある!戦車の上陸は、砲を全て破壊してからが好ましい!」


 重い通信機を背負った通信兵は、アンテナを伸ばして、受話器に向かって同じ内容を叫んだ。その間にも、砲弾が着弾し、鼓膜を破られるような大きな爆発音が、常に戦場に響き渡っている。機関銃から、大量に飛んでくる機関銃が、歩兵に向けて飛んでくるので、外れた弾は地面に突き刺さり、小さく断続した土の柱が上がり、跳弾の音が聞こえる。


 そんな中、雨のように降ってくる弾丸を避けつつ、第23師団の第15連隊、第19連隊の兵が走ってきた。盛り土になっている影にうつ伏せになって、銃撃から身を守りつつ、反撃の準備をしていた。反撃は出来なくもないが、すさまじい砲撃と弾幕により、前進は困難となっていた。


 が、そんな兵達の頭上を、砲弾が飛んでいった。味方の砲撃陣地を、工兵が整備したのである。陣地、とはいっても、海岸の補給用のトラックや小屋などが集結している海岸堡から少し進んだ所に、土嚢を積んで砲をおいた、いかにも簡素なものであるが、それでも砲撃支援が行えるようになっただけましであろう。


 そして、簡易砲台から、野砲大隊による砲撃支援が開始されたのだ。使用している砲は、15cmカノン砲である。これが一斉に火を噴き、そこから連続砲撃が開始された。その砲弾は、先ほど述べた通りに兵達の頭上を高速で通過し、それが守備隊の陣地に着弾した。砲台やトーチカには効いていなかったが、山肌につくられた機関銃などをおいた塹壕の歩兵陣地には効いているようであった。


 また、砲撃に加えて助っ人が来た。20mm機関砲が到着したのである。車輪式の移動可能台座に載っていたので、上陸して、前線で戦いが始まった頃から整備を開始、完了したので前線まで持ってきたのである。しかも、ちょうど砲撃で機関銃が一時沈黙をしたという、素晴らしいタイミングでである。


 最前線に、数人で牽引されてきた機関砲は、後ろの牽引フックの部分を地面につけて、ジャッキを上げた。すぐに装弾し、ハンドルで角度と仰角を設定した。射撃手が、グッとトリガーを引いた。


 鈍く低い銃撃音が流れる。砲撃と同じく、歩兵陣地に向けてぶっ放した。結果として、再度立て直して機関銃で攻撃をしようとしていたところに銃撃を加えたので、塹壕の兵はひとたまりもなくやられた。トーチカも、先ほどの艦砲射撃で半壊し、壊滅していたので、制圧はたやすかった。銃撃も止んだ。渡部連隊長は、今だ、と判断した。

「この陣地を突破し、リタルダント山(北大帝側の呼称)を制圧する。前進するぞ!」

 それに合わせて、Aビーチ側では、歩兵陣地を突破し、山を登ろうと、兵が突撃をしていた。

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