第三話 上陸開始
上陸作戦時のこのとき、空はやはり曇っていた。太陽の光が遮られて、若干暗かった。その空を背景に、海兵隊艦隊の第一戦隊所属、戦艦「
「主砲撃ち方始め!」
という声が艦内に響いた。主砲管制装置の主砲発射引き金が引かれ、直後に40cm連装砲の爆音が轟いた。鋼鉄の巨体が大きく揺れる。大海が震える。発射された砲弾は、ヒュルヒュルと音を立てながら、島に向かって飛んで行く。そして一気に着弾。巨大な土の柱を巻き上げた。続けて、砲弾を撃ちまくった。
「敵は大打撃を食らったな」
と、上陸する兵士が思えるほどの凄まじい砲撃である。両艦は、数百発ほど島に撃ち込んだ。島に硝煙が上がっている。木々が生い茂っていた緑の島は、瞬く間に岩山になってしまった。この砲撃の最中に、上陸支援艦艇は沖に集結していた。兵士達は上陸用舟艇に乗り込み、荒波に揺られていた。一気に前進し、上陸まであと僅かだった。
なお、この作戦の筋書きは以下の通りである。まず、天川、台川の二隻が艦砲射撃、続いてA、B、Cと、大まかに3つに分けた上陸地点に、海兵隊が一気に上陸する。後方では、橋頭堡を築き、野砲を置いて砲撃支援が出来るようにする。
砲撃が終わって10分ほど、上陸用舟艇は、更に白い航跡を曳きながら島に接近し始めた。何百もの上陸艇は、所狭しと並びながらゆっくりゆっくり沿岸に接近している。上陸艇の兵達は、緊張のためにこわばった面立ちだったり、そのすごい揺れのために、吐き気を催す者もいた。
海岸から50mほどのところまで近づいたとき、上陸艇の艇長が叫んだ。
「上陸開始1分前!障害物に注意せよ!武運を祈る!」
そして上陸艇は着岸した。艇長が、ハンドルを回してハッチを開けた。そして、ぞろぞろと上陸を始めた。7時22分、Aビーチに海兵隊第1師団が上陸。B、Cビーチにも海兵隊が上陸を始めた。長い小銃を握りしめ、前進を開始した。
ウェント率いる四徴軍は、飛行場を守るようにして陣地を敷いていた。北部の山――北大帝軍はリタルダント山と呼称していた山にトーチカや塹壕を堀り、そこに機関銃を設置し、防御を固めていた。対戦車砲を幾つも設置し、北大帝軍を海岸線で迎え撃つ、いわゆる水際防御だった。
「走れ走れ!止まってると撃たれるぞ!」
小隊長が叫びながら走ってゆく。ヒュン、ヒュンという音を立て、弾がひっきりなしに飛んでくる。敵は狂ったように撃ってきて、狙わずに撃っているようにも思えた。着弾する度に地面が大きく揺れ、そのたびに悲鳴が響いた。
Aビーチでは、海岸より50mほど進んだところで、陣地の砲撃が開始された。山の陣地の20cm砲である。次々に砲弾が飛来し、爆発して破片をまき散らした。この砲撃を合図にして、さらに砲撃が激しくなった。着弾音が響き渡り、クレーターが空き、土煙が上がった。
「畜生!砲撃が止まない!」
「本部に通信!砲撃が激しい!前進は困難!」
小隊長が通信手に叫ぶ。報告のように、前進は砲撃で一時困難となった。凄まじい砲撃で、水際防御の典型例と言えるものと言っても良いだろう。友軍の兵士が吹き飛んでいる地獄の様を見せられて、兵士たちはここが地獄であることを思い知らされた。
本部も、この状況を打開しようと、上陸準備を行なっている陸軍の第11連隊に榴弾砲を付けた。更に艦砲射撃を継続。対空機関砲も動員し、山は爆発に覆われていた。
そこに陸軍第23師団の第11連隊が上陸。榴弾砲を持ち込み、海兵隊に続いた。海兵隊は、その少し前にある、すこし盛り土、というよりは土手のようになっているところまで到着した。
このぐらいの距離になると、頭上をヒュンヒュンと飛んでいく弾の送り主、機関銃の連続して光るマズルフラッシュ(銃を撃ったときの閃光)が見えるようになっていた。
先ほどより巨弾をこちらに送り続けている、砲兵陣地も見えた。そこには、37mm対戦車砲が巧みに隠されており、その姿は大岩のようであった。これが、戦車ではなく歩兵に向けて放たれまくっているのである。
「あれが厄介だな…」
本部にいる第11連隊長が呟いた。頭を出したら蜂の巣になる、そんな状況がしばらく続いた。
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