ファーザ島の戦い
第二話 ファーザ島上陸戦
四徴連邦が北大帝共和国に宣戦布告をしてから4日が経過した。それまでに、四徴海軍の駆逐艦と、北大帝海軍の哨戒艦艇が小規模な砲撃戦を演じたこともあったが、ここまで大規模な戦闘は起こっていなかった。そんな中、北大帝は先手を打つこととした。
参謀本部が計画していた対四徴戦指導要領、その内容としては、北大帝と四徴の間に広がる島嶼部、これに上陸して補給線を確保、そのまま四徴本土に上陸する、というものである。それに従い、北大帝と四徴の海上境界線を越えて、向こう側の島に上陸してしまうのだ。
5月8日――
陸軍の待機部隊である、第23師団と第25師団、第26師団を南出野軍港に集結させた。港内には、大量の輸送船がひしめいていた。一個師団が2万人なので、6万人である。その大量の兵士が、輸送船団に乗り込んだ。この大部隊を満載した輸送船団は、夜更けと共に出港する。向かう先は、四徴領の最前線、ファーザ島である。
ファーザ島は、四徴本土と北大帝本土の間に散らばった飛び石のような島々、この最前線となっている。地理としては、北部に山があり、飛行場がある。飛行場がある時点で、今後の作戦計画の障害になるとし、すぐにでも除去することが望まれたのだ。
そのためにも遠征軍が結成された。司令官には、新進気鋭の瀬戸准将が就任。司令部の直属として、以下の部隊が上陸に参加する。
「絶対に攻め落とす。徹底的にやるぞ」
瀬戸は、戦いの前からそう言っていた。彼はこれでも冷静沈着な人物で、常にそれが顔に漂っているような人なのだ。そのような人が、ここまで闘志をむき出しにするのを、おそらく部下は初めて見た。
3個歩兵師団6万人が主力。その他にも贅沢に、装甲大隊を1個と工兵大隊3、砲兵大隊2で、これに海兵隊2個師団が先導して上陸する。また、海兵隊は、独自に砲撃支援用の戦艦を二隻保有している。この艦も参加する。
対して、ファーザ島は、ウェント中将の指揮するファーザ守備隊の2万人である。戦車部隊が付随しており、また、島は砲台とトーチカで固められていた。たやすく占領することは不可能だと言うことは明らかであった
5月9日――
朝、船団は滞りなく航行している。連合艦隊から引き抜かれた、第34、45水雷戦隊が護衛としてついていて、その護衛艦が潜水艦警戒のために、先行して進んでいる。
空は曇っていて、外は少し寒かった。一方の兵員たちは、皆緊張しきっていた。なにしろ皆、初の実戦なのである。ましてや、行く先は死ぬか生きるかの狭間にある戦場である。覚悟は決めていたからといって、その心情は普通ではないだろう。
5月10日――
ファーザ島が見えてきた。特徴的な北部の山が、ぼんやりとした輪郭であるが、うずたかくそびえているのが分かる。同時に、ファーザ島の観測所の兵の双眼鏡には、海面一杯に船団が映った。幾つもの艦影が見え、数百もの
「装備を確認しろ!ここで銃がジャムったら笑い事じゃないぞ!」
各舟艇で、指揮官が叫んでいる。そんな中、兵士は恐怖に震えていたり、聖書の一節を唱えている者もいたし、家族の写真を見つめている者も多くいた。無理もない。初めての実戦なのだから。兵たちは緊張で硬くなり、ただ前のみを見つめていた。
兵士たちは、家族に会いたいと思ったり、戦友と話して気を紛らわせたり、少なくとも、舟艇上は地獄でありながら、救いであった。
船団を四徴陣地も認めた。報告を受けたウェント中将は、椅子から立ち上がり、落ち着いた声で
「総員戦闘配置」
を命じた。この日の島は、これから激しい戦いの舞台となるとは思えぬほどの静かさに支配されていたのだった。これより戦闘が始まろうとしている。植物が全て消滅し、岩が剥き出しの採石場のような風貌を呈す戦場へと変貌を遂げようとしていた。
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