第二話 ファーザ島の戦い 1
1945年5月6日…
四徴が北大帝共和国に宣戦布告をしてから4日が経過した。それまでに、四徴海軍の駆逐艦と、北大帝海軍の哨戒艦艇が、小規模な砲撃戦を演じたこともあったが、ここまで大規模な戦闘は起こっていなかった。なので、北大帝は、陸軍参謀本部で研究されていた、「対四徴戦指導要領」に従って、先手を打つこととした。
対四徴戦指導要領、その内容としては、北大帝と四徴の間に広がる諸島部、これに上陸して補給線を確保、そのまま四徴本土に上陸する、というものである。それに従い、北大帝と四徴の海上境界線を越えて、向こう側の島に上陸してしまうのだ。
5月8日、陸軍の待機部隊である、第23師団と第25師団、第26師団を南出野軍港に集結させた。港内には、大量の輸送船がある。一個師団が2万人なので、6万人である。その大量の兵士が、輸送船団に乗り込んだ。この大部隊を満載した輸送船団は、夜更けと共に出港する。向かう先は、四徴領の最前線、ファーザ島である。
参加兵力は、三個師団6万人、贅沢に、戦車師団を1個と工兵大隊3、砲兵大隊2で、これに海兵隊2個師団が先導して上陸する。また、海兵隊は、独自に「海兵隊艦隊」と称する艦隊があり、砲撃支援用の戦艦も二隻保有している。この艦隊も参加する。対して、ファーザ島は、ウェント中将の指揮するファーザ守備隊の2万人である。戦車部隊が付随しており、また、島は砲台とトーチカで固められていた。まさに、ハリセンボンのようであった。
5月9日、朝、船団は滞りなく航行している。連合艦隊から引き抜かれた、第34、45水雷戦隊が護衛としてついていて、その護衛艦が潜水艦警戒のために、先行して進んでいる。空は曇っていて、外は少し寒かった。兵員たちは、皆緊張しきっていた。なにしろ、皆、初の実戦なのである。ましてや、行く先は死ぬか生きるかの狭間にある戦場である。覚悟は決めていたからといって、その心情は普通ではないだろう。
5月10日、ファーザ島が見えてきた。同時に、ファーザ島の観測所の兵の双眼鏡には、海面一杯に船団が映った。ウェント中将は、
「総員戦闘配置」
を命じた。この日の島は、これから激しい戦いの舞台となるとは思えぬほどの静かさに支配されていたのだった。
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