第一話 開戦
戦争が始まった。太平洋上の二カ国、北大帝共和国と四徴連邦の間で戦争が始まったのは、宣戦布告文が手渡された1945年の5月4日のことである。
宣戦布告文が四徴の大使館から手渡されたとき、外務省は、蜂の巣をつついたようだった。玄関の目の前の中央階段を、多くの官僚が上り下りしていた。文を受け取った小見外務次官でさえも苦い顔をしていた。いよいよ来たか、と彼は呟いた。外務省の人間として、外交で解決できなかったことを第一に恥じた。
この情報は、即座に陸海軍に渡った。陸軍の外務省連絡将校である大友大佐は、車に乗るのも忘れ、一目散に陸軍省へ駆けだしていた。少なくとも、電話よりは確実であったし、盗聴の危険性もないからだ。
軍帽が落ちないように手で押さえつけながら、全力疾走していた。そうして、混乱の中野第一報が陸軍にも知らされた。それからというもの、陸軍総司令部から文書が上から下へ、下から上へと止めどなく動き始めた。
政府も同じである。外務省からの第一報を受けた桜山大統領は、すぐさま閣僚を集めた。大統領官邸の大会議室には整然と椅子が並べられ、そこに閣僚が座っていた。
「君たちに集まってもらったのは他でもない。単刀直入に言おう。四徴連邦からの宣戦布告を受けた。」
ざわめいた。会議室がざわめきで揺れたようでもあった。桜山が汗を拭いつつも右手を挙げ、これを止めた。
「これは事実だ。しかも、四徴のレバン大統領が決めたことだ。覆りはしないだろう。つまりだ。やるしかない。」
四徴の独裁者レバンが決めたことは覆らない。世界ではこれが共通の認識であった。結局、議会でも承認を取り付けて戦争に突入することを北大帝側も認識。これにより、正式に戦争が始まったのだった。
翌日 5月5日――
「で、最初の目標をどこにする?先手を打っておきたいが」
陸軍参謀総長の村上が言った。その後ろには、作戦部長の島津少将が立っていた。
「我々が既に作戦を立てております。」
「ほう?」
「四徴領ファーザ島に上陸するのです。」
「ほう、なるほど」
北大帝本土と四徴本土の間に広がる島嶼部、この最前線となっている四徴領ファーザ島に上陸するという作戦を立てていた。
「よろしい、実行してくれ。」
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