第6話 過去の残余 ver.2.0
少女の遺体を埋めた翌日、まだ日が落ちきっていない頃合い。
山小屋の扉がドスドスと低い音でノックされた。
来客であるはずがない。山狩りだ。いつも気怠そうなルルは素早く飛び起き、身構えた。カーテンをチラとずらし外を見たが、まだ日が出ていた。不用意に飛び出せば焼かれる。
うまく話して帰ってもらうしかない。扉に近づくと向こうから微かに鉄と火薬の臭いがする。山狩りの狙いはクマだから、ユキを見せなければ問題ない。ユキに近寄り、シーと指を立てて合図をしてから扉をほんの少し開けた。
猟銃を肩にかけた屈強そうな男が2人立っていた。年齢は70近くだろうか、顔は長年の寒さのためか赤く腫れ上がり、皺は深く刻み込まれている。
「あんた、どこから来た? こんなところに勝手に住んじゃいけねぇよ」
こんばんは、の挨拶もない。ぶっきらぼうな言い方だったが、たしかにその通りではある。
「すみません、道に迷ってしまい少しお借りしていました……」
ルルはさも真面目で、申し訳なさそうに、そして幸薄い感じを装った。色が白く、背も高くない少女という外貌を利用したのだ。
男たちも2人で顔を見合わせて、しょうがないという表情を浮かべた。
「そんならいいけどよ、ただ、この家はいわくつきだからよ。早々に引き上げんだよ? 若い娘が1人で過ごす場所じゃねぇ。悪いことは言わねぇからよ」
ルルは内心「よしよし」と思った。もちろん目の前の男2人くらいなら格闘になっても難なく倒せるだろうが、大事にはしたくない。ユキが心配そうに立ち上がるのを横目で見て、伏せの合図を出す。
「すみませんでした。天気のよい日に出ます」
「うんうん。そうしな。あっ、そうだ。忘れるところだった。いま俺たちクマを探してんのよ。人食いクマ。白くてでっけえって話だからよ、お嬢ちゃんも気をつけるんだよ」
「それは怖いですね、気をつけます」
ルルが扉を閉めようとすると、奥にいた男が近づいて来た。
「お前さん、どっかで……」
男はその後の言葉を続けられずに、悲鳴をあげた。
「こ、こいつ、あんときの化け物だぁ!」
慌てて猟銃を構えたが、ルルはそれを奪い取ると腕力だけでへし折った。
「あんとき」とは60年前だろう。当時の子どもか……。
目の前の男を殺そうかとも思った。だが銃さえ奪ってしまえばなにもできまい。無駄な殺生はしないとユキにも教えたばかりだ。半分に折った銃を目の前に突き出すと、男は尻餅をついてぎゃーぎゃー騒ぐだけの存在になった。
もう1人の猟銃も奪いたかったが、男はちょうど夕日のなかにいて、わずかだが届かない。
乱闘音に驚いてユキもルルの元へ来ていた。
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