第3話 アルビノのユキ ver.2.0

 あれから60年ほど経ったのか……今思えばやりすぎだ。復讐として足や腕をもいでも、命まで奪う必要はない。バイクを押しながらそんなことを考えていると、老婆の山小屋が見えた。


 扉には簡易的な南京錠がかかっていたが、ルルが一蹴りすると壊れて外れる。室内には老婆の死体はなかったが、血が染みになっていた。ルルはその跡を手でなぜてから、手を合わせる。埃や砂がひどかったが、雨風は凌げるからありがたく使わせてもらおう。


 60年前も使った布団に横になると、眠気が押し寄せてきた。安心したからかもしれない。


 外は吹雪いているようであった。ゴーゴーという音がし、ドアや窓の隙間がガタガタと音を立て冷たい風が入ってくる。老婆が焚いてくれた暖炉の火が恋しい。


 ◆


 翌日の夜。一面、雪景色と化していた。夜であるにも関わらず、ぼんやりと明るい。ルルは人間よりも夜目が利くためよりいっそう明るく見えた。


 視界に一つの物体が映り込んだ。周りに液体、いや血を流している。駆け寄ってみるとそれは白く、大きなクマだった。アルビノであろうか。散弾銃で撃たれたのか、傷は広範囲に渡っていた。


 一瞬、ルルは自分と重ねた。頼る先もなく、ただ雪道を歩いてきた自分。それを快く迎え入れてくれた老婆。今度は自分が逆の立場になろう。


 ルルはクマに牙を立て、血を吸うとともに自分の血液を流し込んだ。クマが吸血鬼化すれば生きながらえるだろう。


 息を吹き返したクマを背負って山小屋に入ると、部屋に血と獣の臭いが立ちこめる。裏に回って辺りを探すと雪のなかに薪があり、家にもどって燃やす。


 その夜はずっと火を絶やさないように見守り続け、日が昇った。


 クマの出血が止まり、傷の状態も悪くない。手をウイスキーで軽く洗ってから、弾丸の破片を取り除いてやると、クマも静かにしている。


 数日経つとクマも立てるようになり、歩けるようになり、走れるようになった。ルルは彼女(メスだった)を「ユキ」と名付けることにした。


 ユキはルルに助けられたことを理解しているようで、かつ自分が吸血鬼になったことも理解しているのか、全身で喜びを表現するように振る舞う。


 したがって昼間は2人とも寝て過ごし、夜に活動するのがおきまり。


 ルルはユキが人間を襲わないようにと、動物を狩りするように教え込んだ。手振り身振りで人を襲うなと伝え、二度と撃たれないように人里へも降りないように注意した。


 老婆の影響だろうか……無駄な殺生も禁じた。遊び半分で殺さぬよう、食べる分だけを殺すように。


 言葉は通じないから、ユキが理解しているかは分からなかったがユキはルルが話すときは耳をピンと立て、その透き通った目でルルを見つめるのだった。


 ユキはルルの体質も分かっているようで、よく兎を狩ってきては、それを2人で生のまま食べることもあれば、火を通してから食べることもあった。


 ユキは人間ではないものの、人間ではないからこその居心地の良さがある。言葉は交わせないが、心の交流があった。


 ルルはここまで来てよかったと心から思えたし、ユキも助けてもらった恩を返すため毎日のようになにかを狩ってきた。


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