近くて遠い

たい焼き。

とりあえず、仕切りは大事

「……」


 微かな物音が聞こえてくる。

 窓際で陽の光を浴びながらうたた寝していたあたしの耳が、つい反応してしまう。


 こんなのは無視がいちばん。

 物音のする方向から顔を背けるようにして、体勢を整える。


 コツコツ。


「……」


 しばらくすると、ベランダが少し騒がしくなってきた。

 痺れを切らして、ベランダの方にチラリと目をやると丸っこい鳥が三羽ほどいた。


 三羽の鳥は、ピーピー鳴きながらベランダで遊んでいるようだった。


 ……うるさい。

 少し脅かせばどっかいくでしょ。


 楽しい日向ぼっこの邪魔をされ、少し機嫌が悪いあたしはヤツらを脅かしてやろうと、のそっと窓際へと向かう。


 ヤツらはあたしの事になど気がつく様子もなく、ピーチクパーチクと騒いでいる。


「うるさいにゃ!どっか行け!」


 気持ちを込めてカカカッと威嚇する。

 ピーチクパーチク騒いでいた鳥のうちの一際丸っこいヤツが、一瞬ビックリした顔をしてこちらを見た。


 が、あたしと目が合うとフンと鼻で笑ってまた騒ぎ出した。


 な、何なの!

 生意気!


 あたしとアイツらの間には透明な板があって、直接攻撃することが出来ない。


「んあーお」

「チュンチュン」


 あたしが窓際に張り付いてアイツらに文句を言っていたら、いつの間にかウチムラがやってきていた。


「ミーコ、外の鳥が気になるの?」

「んなーお」


 気になるって言うか、ムカつくのよ!ピーピーうるさくてゆっくり昼寝も出来やしない!


 ウチムラに抗議の声をあげて、アイツらをどうにかしてもらおう。

 あたしの安眠を妨げるものを排除するのも、ウチムラの立派な仕事。


 ウチムラはあたしをじっと見ている。


「うーん……窓を開けて鳥さん達と交流させるわけにもいかないしなぁ。ごめんね、窓越しの交流で」

「んなーお」


 交流なんてしない!

 この透明な板さえなければ、あたしが飛びかかってアイツらを排除してやるのに。

 ウチムラはまだまだ召使いとして半人前だわ。あたしの言ってることがわからないなんて!


「私がミーコを抱っこしたら鳥さんに会えるかな?」


 ウチムラが言いながら、あたしを抱えあげる。

 その状態で、ゆっくりと透明な板を横にスライドさせてベランダへ出る。


 あたしはいつでも飛びかかれるように、一番丸っこい鳥を睨みつけていた。



「チチッ」


 ウチムラがベランダに出ると同時に三羽の鳥はどこかへ飛び立っていった。


「あ、行っちゃった」


 ウチムラはあたしを抱えたままベランダで陽の光を浴びると、そのままあたしの頭に顔をくっつけてきた。


「ん〜今日も可愛いね、ミーコ。トリさんには会えなかったけど、また窓越しで交流してね」


 あんなヤツら相手にしないわ。


 ウチムラに撫でられてるうちにそんな事どーでもよくなって、いつの間にかウチムラの腕の中で微睡んでいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

近くて遠い たい焼き。 @natsu8u

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ