第16話 (貴方)という宝物
☆
凛音の事はあまり考えない様にした。
彼女が狂おうが狂うまいが。
今の俺に関係しない。
俺はあくまで彼女に浮気された身分であるのだ。
どれだけ言っても。
そう思いながら新聞を切り抜く。
「...」
それからその切った新聞を紙にはっ付けていく。
世間では今は児童虐待の話で議論になっている様だ。
そればかりニュースが入っているから。
俺はその話題を見ながら「...」と考える。
アイツ...凛音はどう行動するだろうか。
そして凛子は...どう接するのだろう。
考えながら俺は眉を顰める。
それから新聞を切り抜いていく。
すると「小太郎」と声がした。
部屋のドアが開いており母さんが顔を見せている。
「...ああ。母さん」
「大丈夫?」
「...つまらない事しかしてないから大丈夫だよ」
「つまらない事じゃないわ。...それもまた復帰の第一歩よ」
「...」
いつも母さんはそういう感じだ。
俺はその姿に苦笑してから複雑な顔をする。
「母さんはどう思う?俺の姿」と聞いてみた。
すると母さんは「貴方は偉いわ。勇敢な姿よ」と言いながら頭を撫でてくる。
その事に少しむず痒くなる。
「いい。小太郎。この世には人間は必ず大切なものを持って生まれてきているの」
「...」
「...私は貴方を尊敬するわ。...私は貴方を息子として誇りに思う」
「母さんらしいね。...有難う」
「貴方がどんな形であれ今は学校に行けないならそれでいい。...その分、私が支えるから」とニコッとする母さん。
俺はその言葉に涙が浮かぶ。
それを拭いながら目の前の新聞を見る。
「でもそれはそうと。...今日は大変だったわね」
「そうだね。母さんにも迷惑を掛けたよ」
「良いのよ。...それにしてもそんな事態になるとは思わなかった」
「...そうだな。俺も予想外だから」
そう言いながら俺は母さんを見る。
母さんは「聞いた話だと貴方は...凛子ちゃんの為に立ち向かったって話だけど」と言ってくる。
俺はその言葉に「...よく知っているね」と答える。
すると母さんは笑顔になった。
「母親だから。...それにしても偉いわね。良く立ち向かったわ」
「それを褒める母親も如何なものかと思うけど」
「私は純粋に貴方を褒めているわよ。如何なものとしても偉いわ」
「...母さんらしいね」
俺は苦笑いを浮かべる。
すると母さんは俺を抱き締めてきた。
俺はその姿に母親の母性を感じ取った。
それから暫くはされるがままで居た。
「...小太郎」
「...何。母さん」
「私、お父さんに会いたいな」
「...そうだね」
そんな会話をしながら複雑な顔をする俺。
それから母さんを見る。
「確か学生時代に知り合ったんだっけ?」と聞いてみる。
すると母さんは「そうよ。...小説で知り合って。そして文芸部に入って。そして...結婚した。貴方はようやっと授かった第一子だった」と言う。
俺はまた「...」と考え込む。
「...そんな人間が今この様だから。悩むんだ」
「私は貴方を...責める気は無いわ。本当に貴方はよくやっているわよ。...貴方らしく生きなさい。この先も」
「...本当に母さんは母さんらしいね」
「私はあくまでお母さんだから」
「...」
俺はその言葉に思いを伝える。
高校を退学しようと思う、とか。
すると母さんは「そうね」と笑みを浮かべる。
そして俺を真っ直ぐに見てくる。
「...高校は色々な意味で行った方が良いと思うけど...だけどそうしたいならそうしなさい。今は学校より体調の問題ね」
「...だけどあまり甘やかすと引き籠りとかになるよ。俺」
「あら。その心配はないわ。だって...貴方は精一杯頑張っているのだから」
言いながら俺をよしよししてくる母さん。
俺はその姿に「やれやれ」と言いながら苦笑した。
母さんはニコニコしながら俺を見てくる。
「でも高校を辞めても今は色々あるから。きっと大丈夫ね」と言いながら柔和になってから俺を見てくる。
「...夜間学級とか?」
「違うわ。通信制とかよ。だけど今は体調を安定させるのが最優先。...ね?」
「...そうだけど」
「何も出来ないのと何もしないのは違うわよ。天地の差があるわ」
「全て見透かされているね」
「そうね。母親だし。二回目だけど」
母さんはそう言いながら立ち上がる。
それからまた笑みを浮かべた。
「貴方は必死にもがいている。その事を...忘れないで」と言いながらだ。
俺はその言葉にグッと握りこぶしを作る。
「じゃあ料理してくるからね」
「...母さん」
「何かしら?」
「...俺、頑張るよ」
「アハハ。でもボチボチで良いのよ。それは。...でも貴方がそうしたいなら...頑張ってみなさい。だから貴方は...絶対に引き籠りにはならないわ。その感情がある限りはね」
「...」
俺は手を振って去って行く母さんを見る。
そして唇を噛んだ。
それから意を決して前を見る。
このままでは絶対にいけないと。
そう思いながら。
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