第10話 凛音の失った過去


私は...凛音を絶対に許さない。

正直言って彼女の過去がどうであれ。

先輩を不幸にした。

私を不幸にしたという許されざる事をした。

そう思いながら私は家に帰って来る。


「凛子。お帰り」

「...お母さん?」

「...凛音ちゃん。ちゃんと届けた?荷物」

「あの人から受け取ったから」

「...そう」


ゴミ捨て場にでも私の物品を捨てるかと思ったが。

流石に凛音も自分の状況が悪くなると悟ったのかそれはしなかった。

私はお母さんを見る。

お母さんは「...」という感じで沈黙してから「その。...凛音ちゃんと凛子に確執があるのは分かるけど...もう一度話し合いとか出来ない?」と言ってくる。


「...それは無理だね。あの人はもう私の姉と認識できない」

「...そう。分かったわ。じゃあ貴方の意思を尊重する」

「...あの人の過去は知っている。...母親が最低だってのも知っている。...そして...一番歪んだ原因も知っている。...あの人の受け入れてもらえなかったギフテッドの弟さんがイジメられた挙句、自殺したのを知っている。...だけどそれで私に当たるのはおかしくない?」


そう。

あの人がおかしくなっているのは母親。

だがその母親は病気で亡くなった。

その前に母親が狂ったのはあの人の弟さんの自殺だった。


母親はそれまではそんなに厳しい人間では無かったそうだ。

つまり弟さんが全ての始まりと言える。

だがそれがどうした。

それで私達が何でこんな目に遭わないといけない。

お姉ちゃんの気持ちは重々に分かるが。

私の父親も自殺したからだ。


「...そうね」

「...そうだよ。お母さん。私がおかしいの?違うよね?」


私は母親に聞いてみる。

すると母親は私を抱き締めた。

それから「間違っては無いけど一つの望みをかけたの」と言いながら私を強く抱きしめてくる。

私は「どう考えても望んでも無理だよ」と答えながら私は怒る。


「あの人に何十回も説得を試みた。それは全部失敗した。...それどころか全て破壊して無いものにした。...私は...仮にも...信じてはいた。...それでもお姉ちゃんを」


そう言いながら私は複雑な顔をする。

それから「クソッタレだよ。信じたのが」と答えた。

そして私は「二階に上がって勉強する」と母親を離した。

母親は頷く。


「そうね」

「...お義父さんはお仕事?」

「そうね。今日は遅くなるみたい」

「...そう」


私が1人暮らしをするのに凛音の父親の彼は直ぐに同意をしてくれた。

それから資金も出してくれた。

私は感謝しか無いと思う。

いつかこのお金は絶対に返す。


「...ねえ。お母さん」

「...何?凛子」

「あの人は...反省という心があるのかな」

「...難しい質問ね。...私にもどうこう言える立場じゃ無いわ。私も...人だけど他人の心までは分からない。だから何とも言えないけど...」

「...」

「だけど反省という...心は持ち合わせているんじゃないかと思ってはいる。...彼女が全て悪いとは思えないから」


「この再婚が間違いだったのかもしれないけど。だけどそうは思いたくはない。だから...もう少しばかり...頑張りたいわ」とお母さんは言う。

正直治らないと思うが。

反省点も見られない。


「あの人は過去がどうあれ全てをぶち壊した。...先輩を容赦なく切り捨てた挙句に...イジメを誘発した...これで反省してくれるのかな」

「...今は難しい...のかもね。子供の心は...難しいわ。本当に難しいの。...ましてや他人だしね。私は。あの子を産んだ訳じゃ無いから...関わり合いは砂糖菓子の様ね」

「...」

「...貴方を傷付けているのは...もう反省しか無いわ。...貴方の事を一番に考えたつもりが...」

「それはもう良いよ。なってしまったものは仕方が無いし」


「ただ私は今からの事をどうするか考えたい」

そう言いながら私は話していると背後から「あれ?」と声がした。

そこに...凛音が居た。

私を見下す様な顔をしている。

相変わらずウザい。


「...凛音...」

「アンタもう帰ったんだ」

「...帰って来ちゃ悪いの。ここは私の家だから」

「...そうね」


そして私は凛音を見る。

怒りが包むがそれ以前に聞いておきたい事がある。

私はグッと拳を握ってから開いた。


それから「ギフテッドの弟さんの自殺。...貴方を狂わせた最大の原因は貴方も母親も愛でしょ?」と聞く。

するとまさかの事で逆鱗に触れたのか。

凛音は眉を顰めた。

私を睨んだ。


「...今それを出す理由は?」

「...貴方もお母さんも。2人とも弟さんが好きだったんだよね?愛していたんだよね?」

「...何が言いたいの」

「貴方の事を知りたいから」

「私の事を知って何になるの?」

「...仮にも私の家族だし」


そう言いながら私は凛音を見る。

凛音は睨むのを止めなかったが...最後に「止め止め」とニコニコし始めた。

私は顔をしかめたまま凛音を見る。

凛音はそんな私に「...私の前で弟の事をもう出すな」と脅すような言葉を笑顔で言ってくる。


一連の流れを見ていた母親はあたふたしていた。

私はその姿を確認してから凛音がリビングに去ったのを確認して壁を殴った。

本当に忌々しいというかもどかしいというか。

私は何がしたいのか...。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る