第8話 原稿用紙と静かなる怒り
☆
俺達は自宅を片付けてから一服していた。
するとその中で凛子は俺を見てから「すいませんでした」と言ってくる。
俺は「?」を浮かべて凛子を見た。
凛子は「...暴走し過ぎてる様な気がして。私...あの人の件で」と目線を淹れている紅茶に向ける。
「...確かにな。でも正直、分からんでもない」
「...先輩?」
「俺も強い怒りが湧いているから」
そう言いながら俺は目線を周りに向ける。
そして立ち上がってから原稿用紙を取り出した。
それから凛子に見せる。
100枚ぐらいの原稿用紙だ。
「...取り敢えず落ち着かせよう。今まで新聞を切り抜いて勉強した分で小説を書いてみたんだ。...俺の人生の小説をな」
「先輩...」
「それで書き溜めてようやっと原稿用紙が100枚になったんだ。正直、母親にも言ってない」
「...何でそれを私に?」
「お前が俺を信頼するって言ってくれただろ。...だから俺もお前を信頼してみようって努力したくてな。...その一歩目だよ」
その言葉に凛子は「先輩...」と涙を浮かべる。
それから涙を拭う凛子。
そして「先輩。もし良かったら読んでみて良いですか。時間がかかりますけど」と言ってくる。
俺は「ああ。...その間、片づけをする」と話した。
「...先輩」
「何だ」
「...有難う御座います。本当に。先輩は憧れの存在のままですね」
「こんな俺に憧れても仕方が無いけどな。...でも有難う」
そして俺は掃除用具を持ってから室内を清掃する。
それから2時間ぐらいが経った時。
「先輩」と声がした。
俺は顔を上げてから凛子を見る。
「...」
「...読んだのか。全部」
「はい...こんなに悲惨な人生を送られているとは思いませんでした」
「...悲惨かどうかは分からないな。...だけど...お前が言うなら悲惨なんだろう」
そう言いながら横を見る。
そうしていると原稿用紙を置いてから俺を抱き締めてくる凛子。
俺は「お、おい」と言うが凛子は「少しだけハグさせて下さい」と言いながら俺を抱き締めてくる。
「...私...何も知らないですね。先輩の事」
「そんなもんだよ」
「私は...先輩が何故こんな目に遭う理由が分かりません」
号泣する凛子。
それから嗚咽を漏らす。
俺はそんな凛子の背中を叩いてあやした。
そうしてから俺は凛子を見る。
「...お前は本当に優しいな。凛子」
「私は...何も知らなかった...ごめんなさい。先輩」
「...落ち着いて。大丈夫だからな」
そして俺も涙を浮かべる。
それからまた凛子を抱き締めた。
凛子はただゆっくり俺に縋る。
そうしてから泣く。
3分ぐらい経った時に凛子は離れた。
「...落ち着きました」
「多少なりとも落ち着いたんなら良かったよ。悲しいばかりじゃ...世の中は生きられないからな」
「...先輩。...お友達はイジメに遭ったって言ってましたね。...その...」
「アイツがイジメられていたから庇ったんだ。そしたら俺もイジメを受けたんだが...まあ俺はマシだったよ。だけどアイツは死んだ」
「...屋上からの飛び降りですよね」
「そうだな。それで精神がやられたんだがその後にお前の姉に嵌められたんだよな。それで再起不能まで貶められた」
「私は...そんな真似を平然としきるあの人が良く分かりません」と言いながらぐしゃっとスカートの布を握り締める凛子。
その怒りに。
俺は「...実はな。...俺、退学しようと思う」と言葉を発した。
するとバッと凛子が顔を上げた。
「このままじゃもう何もかもに迷惑を掛ける羽目になるしな」
「だけど先輩。それじゃ退学者になっちゃう」
「...もう良いんだよ。俺は。...あの学校に行っても不幸しか無いし」
「...じゃあその分私が養います」
「あ!!!?!」
俺は驚愕しながら凛子を見る。
凛子はグッと拳を握り締めながら「私は先輩を養う義務がある」と言ってくる。
「もし退学しても。どうあっても。私は先輩を責任もって養いますから」と力強く宣言する様な感じも見せる。
「...姉の尻拭いをする気ならそれは止めてくれ。俺は...お前にそんな苦労は掛けさせたくない」
「尻拭いじゃないです。半分は確かにあてられましたけど私は...ただ単に先輩が心配なだけです」
「...」
「まともな正常な人生を送る筈だった先輩の事が心配で仕方が無いだけです」
そう言いながら凛子は涙を浮かべる。
そして拭いながらまた抱き締めてきた。
それから俺達は部屋を片付け終えて...から。
俺は凛子を見送る為に下の階まで降りて...凛音に遭遇した。
怒りが静かに湧く中。
凛音曰く。
「面倒臭いけどアンタの引っ越す為の荷物を母親に言われて持って来たんだけど」だそうだった。
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