第6話 信頼とは勝ち取るためにある

「先輩」


それから翌日の話だが俺の家に土曜日もあって朝早くから凛子が来た。

凛子はニコニコスマイルで俺を見る。

そんな姿に俺は赤面する。


「...なあ。...凛子」

「何でしょうか」

「...俺を好きになっても仕方が無い。かつてみたいな栄光は無い」

「先輩。私は先輩が中学校の時に生徒会の副会長だったって事で大好きになった訳じゃないですよ。私はあくまで先輩に救われたから恩返しがしたかっただけです」

「...何でそこまで」


俺は困惑しながら凛子を見る。

凛子は靴を脱いでからニコニコしてくる。

今日は母親は仕事の日だった。

だから俺と...凛子しかこの室内には居ない。

それもあって緊張感が増す。


「...私は先輩を好きになった。...あの人以上に」

「...俺はお前を信用しても良いのか」

「信用なんて所詮は...私が信頼出来る事をしないと勝ち取れません。だから私の事は信頼しないで下さい。今は」

「...凛子...」

「私は貴方が好きです。ただそれだけは知っておいてほしいです」


凛子は「あ。そうそう。今日は片づけをしましょう」と言ってくる。

「先輩のお部屋って散らかってますよね?」という感じでだ。

俺は「まあそうだが。...だけど男の部屋だぞ。嫌気が差さないのか」と言う。

すると凛子は首を振った。


「何も嫌な事は無いです」

「...」

「...エッチなものでも置いてあります?」

「多少はな。言っておかないと大変な事になりそうだ」

「いえいえ。ドン引きしませんよ。だって...先輩の事ですから」

「...だがエッチなものが置いてあったら普通は引いて当然だ」


だけどまあそれは片したけど。

思いながら「そうですか?」と言う凛子を見る。

凛子は胸を持ち上げる。

いやいきなり何をしているんだ。


「これぐらいのエッチさですか?」

「何をしているんだお前」

「いや。...先輩のエッチなのってどれぐらいかって思って」

「...俺の性癖はどうでも良い。...下品な事をするな」

「えー?先輩に言われたくないです」


「そうだな...まあそうだけど」と返事をしながら俺は赤面しながら横を見る。

それから「お前は年頃の女の子なんだからそういう事はしない」と強く言った。

すると凛子は顎に手を添える。

そうしてから首を傾げた。


「でも先輩となら」

「...は!?」

「いえ。冗談です。流石に恥ずかしいです」

「...お、お前。心臓が」

「えへへ。先輩のエッチ」

「...」


全くコイツは。

そう思いながら俺の部屋に入る凛子。

それから部屋を見渡して驚く。

「片付いていますね」という感じでだ。


「片付けでもしました?」

「...嫌なものを見つけて途中で止まった。だけど半分は片した」

「嫌な物?」

「...アイツとの記憶だ」

「...ああ。あの人の」


そして沈黙する凛子。

するとそのタイミングでメッセージが入る。

それを見る凛子。

それから真顔になった。


「...ちっ」


舌打ちをしてスマホをポケットに直した。

俺は目線だけで見ながら「どうした」と聞く。

すると「あの人ですよ。...嫌ですけど通信だけはしているので。何かあったら大変だって事で」と答える。

何が来たのだろう?


「...(帰りにソース買って来て)だそうです。...何を偉そうに言ってんですかねこのクソアマ」

「ハハ。大変だな。お前も」

「...私はあの人が嫌いです。だけど...母親とかがですね」

「気持ちは分からんでもない。...つまり連絡手段を断つなって言われているんだろ?」

「正直、あの人と話す事なんて何も無いんですけどね。ソースぐらい自分で買えって感じです」


イライラしながら凛子は親指を噛む。

そして俺の視線にそれを直ぐに止めてから「...すいません。キレてしまって」と言ってくる。

俺はその姿を見ながら「まあ取り敢えず座らないか」と言う。

凛子は「そうですね」と返事をした。


「...先輩」

「...何だ」

「先輩は2次元が好きなのですか?」

「...それはな。...クソアニオタだし」

「じゃあ先輩。今度コスプレしてあげます」

「いや何でだよ。良いよ」


「だって私は先輩が好きですし」と言いながら胸を張る凛子。

俺はその姿に「だが」と言うが。

凛子は「私がコスプレしたいんです」と笑顔になる。


そして目の前の壁のポスターを見る。

そこにはアニメの女の子のポスターが貼られている。

丁度...凛音に「キモイ」とかつて言われたポスターである。

まあその。

友人の自殺で頭がおかしくなった時に破った。


「私、あの人を超えます」

「...お前...本当に変な奴だな」

「恋する女の子を舐めては困りますよ~」

「...だからと言って...」

「私はコスプレを見てもらいたいです。先輩に」


「今度私、アニメショップに行って来ます。そしてコスプレ用品買ってきます」と満面の笑顔になりながらポスターを直す凛子を見る。

俺は目を閉じてから開けた。

「...まあもう自由にしてくれ」と言いながらだ。


「...何度でも言いますが私は先輩が好きです。だから先輩の好きな事は何でもしたいです。これはチャレンジです」

「...本当に性格が真逆だな。アイツと」

「そりゃあの人とは所詮は義の関係です。先輩への愛が深いとこうなります。...あの人は...到底理解出来ないクソの馬鹿野郎です。頭おかしい野郎です」


そしてセロハンテープで直しながら凛子は「ジャーン」と言う。

それから破り捨てられていたポスターが直る。

俺はその姿に苦笑した。

「全くな」と言いながらだ。


「ああ。そうそう。先輩。...お昼ご飯食べるとしたら何が食べたいですか?」

「...ん?お前料理出来るのか?」

「出来ないから練習しました。私は...自立する為に」

「...そうか」


そう返事をしながら俺は凛子と一緒に片付けを始める。

それから俺は...過去を忘れる為。

全てを捨て払った。

過去と決別する為もあってだ。

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