第5話 母親の気持ち

俺を救う為なのだろうか。

アイツ。

つまり凛子が右隣に引っ越して来る。

正直に言って俺は嬉しい気持ちとかは無い。

何故なら...まだ告白されたからと凛子を完全に信頼しきっている訳じゃ無いからだ。

だからこそ俺は考えていた。


「...」


俺はアルバムを見ない様にしながら叩きつける様に捨てた。

それから眉を顰める。

前に進まなきゃ。

そういう思いで全てを片していた。


そして日が暮れる。

俺は落ちていく陽を見ながら「今日も終わりか」と呟いた。

それから俺はゴミ袋に入っているゴミを片しながら溜息を吐く。

だけどよく考えたらこれはゴミじゃ無い。

汚物だ。


「...時間の無駄だった」


そんな事を呟きながら俺はゴミ袋を見る。

それからまた溜息を吐きながら片していると玄関が開錠される音がした。

つまり母親が帰って来たのだろう。


「母さん。お帰り」

「ただいま!遅くなったね」

「遅くなったってまだ19時だ。大丈夫だよ」

「うん。でも早く小太郎に会いたかったから」

「恋人じゃ無いんだから。母さん」


俺はそう言いながら母さんを見る。

杉山奈々美(すぎやまななみ)をだ。

黒の長髪。

顔立ちは美人。

年齢は40代だが素顔が30代と言っても差し支えない若さがある。


すると母さんは俺を抱きしめてきた。

「恋人以上に大切なものがあるよ」と言いながらだ。

俺はその言葉に母さんを見る。

母性あるよなこの人。

そう考えながらだ。


「...色々あるけど負けない様にしないといけない。だけど貴方は休み休みで良いからね」

「...母さん。だけど俺、葛藤だよ」

「分かる。貴方が悩んでいる事はね。だからこそ貴方は休み休みで行けば良い。何かあったら大人に頼りなさい。大切な事は溜め込まない事。キチンと吐き出して」


俺はそんな母親の言葉に涙が浮かんだ。

それから涙を拭いながら母さんに縋った。

「実は」と言いながら全てを吐き出す。

すると母さんは「うんうん。そうなのね」と話を全て聞いてくれた。

俺はその言葉に「俺はどうしたら良いかな。生きるの」と言う。


「...貴方は休み休みでここまで来た。だから体調崩したら全部がおじゃんだから。だからこそ今はなるだけ考えない様にしないと。そっちは。今は楽しい事を考えれないと思う。私、その分...貴方を楽しませるから」


「今度、川に釣りに行かない?」と母さんは俺を見てくる。

釣りか。

だけど役立つの俺が外に出ても。

それに足が竦む。


「勿論、決して無理は言わないわ。だけど貴方の気が向いた事がしたいしね。その事は知ってね」


母さんはいつもこんな感じだ。

こうして俺に。

俺なんかという生き物に寄り添ってくれる。

大切な事をいつも教えてくれる。

俺は...そんな母さんの希望すら...応えられない最低最悪の野郎だから。


「今、生きちゃいけないって思った?」

「...よく分かったね。母さん」

「よく分かるよ。貴方の事は。私を何だと思ってる?母親だから。貴方の事はよく分かるの。手に取る様にね。貴方は...大切な人だから」


そんな言葉に俺は肩をすくめる。

それから母さんを見た。

母さんは笑みを浮かべながら俺を見てくる。

そして頭を撫でてくる。

俺はそんな母親の仕草に感謝しながら頭の手に俺の手を乗せる。


「ねえ。母さん」

「何?」

「凛子に。知り合いにプレゼントを買いたい」

「そう。じゃあ出かけましょうか。今度」

「どんなプレゼントが良いと思う?」

「私は選べないわ。貴方が凛子さんに買いたいと思ったものを買いなさい。それが一番よ。私が選んだらプレゼントじゃ無くなるわ」


「でも俺は選べない。母さん」と言うと母さんは「そうね。彼女が好きなものを聞いてみなさい直接。それぐらいなら察されないわよ」と母さんは笑みを浮かべる。

それから俺を見ながらニコッとする。


「でもそれをやる前に本当に分からないのか考えてみなさい。彼女の事はよく知っているでしょ?」

「いや。そんなには彼女を知らないけど...」


俺は赤面する。

それから告白の事。

一緒に風呂に入った事を思い出した。

俺は首を振る。

それから母さんを見た。


「でも考えてみる。俺だけで。...頑張ってみる」

「それが良いわよ。絶対にね。頑張って」

「...母さんはいつもそんな感じだ」

「お母さんは後悔だけはしたく無いからね」

「...母さんも後悔が?」


「それはそうでしょう。私は...ね」という感じで母さんは落ち込む。

それから母さんは「私は...亮二さんを...」と言ってから俺を見る。

ハッとした。

それから苦笑する母さん。


「いけないわね。私も。甘いわ」

「...」

「貴方の前では絶対に絶望しないつもりだったから。ゴメンなさい」

「それは決して悪い事じゃないよ。母さん」


俺達はマジに傷だらけだな。

そう考えながら俺は...考え込む。

そして俺は母さんを抱きしめながら笑みを浮かべつつさっきしてくれた様に母さんの頭を撫でた。


傷だらけであり。

俺は...どうしたら良いかも分からない。

だけど...だ。

今は死ぬ訳にはいかない。

そういう事だ。

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