第3話 断じて許さない


私の姉に当たるあの人は浮気をした。

浮気というか最低最悪の事をして先輩を捨てた。

あの人を、あの日を決して忘れない。

私はいつか殺してやる勢いで怒りを覚えていた。


私の大切な先輩を蔑ろにした挙句。

捨てた様な奴を絶対に許さない。

そう思いながら私は怒り交じりに先輩を洗った。

それから先輩の対面に腰掛ける。


「...色々とすまないな」

「私は何もしていませんよ。当たり前の事しかしてないです」


そう言いながら私は持っていた水筒のお茶を飲む。

そして私は笑みを浮かべて先輩を見た。

すると先輩は「...コーヒーでも飲むか」と聞いてくる。

私はその言葉に目をパチクリする。


「...でも先輩の手間じゃ」

「せめてものお礼をさせてくれ。...俺はお前にお世話になったしな」

「そんなの良いんですよ。先輩。私は当たり前の事しかしてないですから」

「...」


先輩は「そうか。でも...俺も飲みたいしな」とそのままキッチンに向かう。

だったら私も手伝おう。

そう思いながら私は立ち上がってから先輩を手伝う。

インスタントコーヒーを淹れる。

すると先輩が私を見ているのに気が付いた。


「...お前何でそんなに嫌がらないんだ?」

「アハハ。気分です。...良いじゃないですか何でも」

「...だが俺が気になる」

「気持ちは分かりますが...私にも分かりません」


いや。

正直...何となく察してはいるが。

だけどこれが合っているかどうか分からない。

そもそもの話でだ。


そう思いながら私はお湯を沸かしながらインスタントコーヒーを淹れる。

すると先輩が「ここからは自分でやるから」と手を動かした。

それからコーヒーを直そうとする。


そんな姿に「待って下さい。私も」と言ってから先輩に縋った。

次の瞬間。

靴下で滑った。

そして私は思いっきり背後に倒れようとした。

その姿に先輩が「!!!!!」となって私に寄り添って倒れる。


「...」

「...」


結果。

先輩が私を押し倒す形になった。

私はその事に「う、あ」と言いながら先輩を見る。

そして急速に真っ赤になっていく私。

すると怒鳴り声がした。


「お前何をしているんだ!!!!!危ないだろ!!!!!」


という感じでだ。

だがそれを言ってから直ぐにハッとした先輩。

それから私から立ち退く。

そして周りに落ちている品物を手に取る。


「...先輩。有難う御座います」

「...何が」

「...先輩が頭を守ってくれなかったら私は頭を打っていました」

「そうだな」

「...だから感謝します」


私はその言葉を言いながら先輩を見る。

先輩は「...もう死人を見るのは御免だからな」と言いながら品物を拾ってからそのままシンクに置く。

それから私の手を握る。


「起き上がれるか」

「勿論です」

「...危ない真似はするな」

「はい。すいませんでした」


やはり私は...この人が気になる。

それもこの優しさに惹かれているのだ。

周りが「そんなの止めておけ」というかも知れないが。

私はきっと彼が。


「...何だ。ジッと見て」

「あ。す、すいません。先輩」

「...全くな。お前もおっちょこちょいだから。...気を付けてくれ。頼む」

「...そうですね」


そして私は立ち上がる。

それから私達は改めてコーヒーを淹れてからそのままリビングに戻った。

私はそんな先輩に近況の話をする。

先輩は興味を持ちながら聞いてくれた。



「先輩」

「...何だ」

「今日は楽しかったですね」

「...恥ずかしい事ばかりだったけどな」

「お風呂また入りたいですね」

「お前と一緒に入らない様にする。...頑張る」


恥じらう感じを見せる先輩。

私はその姿にきゅんとしながら先輩を見る。

そして先輩は笑みを浮かべた。

「でも楽しかった」と言いながらだ。


「...先輩」

「...何だ。凛子」

「今度で良いです。...コンビニだけでも行きませんか。外に出ませんか」

「...だが俺は...」

「先輩とデートがしたいです」

「冗談でも言うな。好きな男じゃ無い奴に」


そう言いながら私に怒る先輩。

私はその言葉に「ですね」と苦笑した。

だけど違う。

それは...うん。

好きでは無い人じゃないかも知れないからその言い方は間違っている。


「...先輩。...今日は有難う御座いました」

「俺は何もしてないぞ。お前に完全に流された」

「流されましたね。確かに。アハハ」

「...だけどお前のその明るさに救われているから。...有難いけどな」

「...ねえ。先輩」


私は顔を上げる。

それから先輩を見るが...うーん。

やっぱり今度にしよう。


「?...どうした」

「何でも無いです。アハハ...アハハ...」

「...?」


私は顔を離しながらそのまま「じゃあまた」と言いながらドアノブに手をかける。

それからそのまま出ようとした...時に。

「そうだ」と言ってから私は振り返った。

そして「先輩」と言う。


「またこの場所に来ても良いですか」

「...え?いや。それは...まあ良いが...?」

「分かりました。有難う御座います」


そして私はそのまま帰宅した。

足が軽い。

まるでスキップできる様な。

空に舞うぐらいの軽さだった。

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