第12話 放課後、お姉さんと買い食いをする

 夏休みも終わり、後期の授業が始まってしばらく経った。九月になり、少しずつ涼しい日も増え始めている。そんなある日、俺は予備校の前でケイさんが来るのを待っていた。


「やあ、お待たせマサくん」


「あ、どうも」


「じゃあ行こうか」


 いつものように、俺たちはケイさんのマンションに向かって歩き出す。街行く人を見ると、長袖を着ている人が多くなったように見える。ああ、本当に秋が近づいているんだなあ。


「マサくん、あれをご覧よ」


「あ、もうそんな時期なんですね」


 ケイさんが指さす先には、公園の前に陣取る焼き芋の屋台があった。そうか、もう焼き芋を売るような季節なんだなあ。


「マサくん、食べていかないかい?」


「ええ、いいですよ」


 俺たちは屋台のおじさんに声をかけ、一本ずつ購入した。ちなみに、例のごとく俺が支払う羽目になった。ミカといいケイさんといい、自分で払う気はないのだろうか。


「いやあ、財布を持ってなくて悪かったねえ」


「そう思ってるなら今度返してくださいよ」


 俺たちは公園のベンチに座り、喋りながら焼き芋を食べていた。上を見れば、秋らしい空が広がっている。


「ああ、もう秋だねえ」


「ええ、本当ですね」


「……今年も、受験が近づいてきたねえ」


 ケイさんは、複雑そうな表情だった。二浪の彼女にとって、今年は受験生として三年目のシーズンだ。毎年毎年同じことをしていれば、思うこともいろいろとあるのだろう。


「ケイさん、別に成績は大丈夫なんでしょう?」


「マサくん、何も点数だけが問題じゃないんだよ」


「というと?」


「……いずれ、分かることさ」


 俺の問いかけに対し、ケイさんははぐらかす。詳しいことは分からないけど、ケイさんは志望校のことで何度か両親と揉めているらしい。「恋人」になれない、という話とも関連があるようだけど、俺は未だに聞けないでいるのだった。


「食べ終わりましたし、行きましょうか」


「そうだな、マサくん」


 焼き芋を平らげた俺たちは、ベンチから立ち上がって公園を後にした。再びマンションを目指し、歩いて行く。すると、横のケイさんが俺の手を掴んできた。


「ケイさん、どうしたんですか?」


「たまにはいいじゃないか」


 そのままほぐすようにして、ケイさんは俺の手を優しく包み込む。負けじと俺が握り返して、恋人繋ぎのような格好になった。


「カップルみたいだな、マサくん」


「……悪い冗談ですね」


 恋人になれないの、分かってるくせに。


 それからしばらく、二人で手を繋いで歩いていた。やがてマンションに着き、俺たちはエレベーターに乗る。密室で二人きりって、ちょっと気まずい時間だよな。


「……なあ、マサくん」


「えっ?」


 黙ってエレベーターに乗っていたら、唐突にケイさんが口を開いた。何を言われるのかと思い、身構える。


「私は……どうすればいいのかな?」


「どう、とは?」


「行きたい学部にも行かせてもらえず、君と結ばれることもない。何のために生きればいい?」


「どうしたんですか、変ですよ」


「なあマサくん、お願いだよ」


 その時、エレベーターが目的階に着いた。扉が開いて、ケイさんが歩き出す。外からの光が差し込み、逆光で顔がよく見えないまま、ケイさんは俺に向かってこう告げた。


「……私のことを、いつか連れ出してくれないか?」


 顔が見えなくて、むしろ良かったと思う。その時のケイさんは、きっと悲しい顔をしていただろうから――

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浪人生の俺、今日も怠惰お姉さんの自宅で自習する 古野ジョン @johnfuruno

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