第11話 夏休み、お姉さんと昼寝する
夏休みも終盤に近付いてきた。そろそろ現役生が受験に本腰を入れる時期であり、浪人生の俺も負けてはいられない。今日は朝からケイさんの家に行き、しっかりと勉強している。
しばらく集中していたら、昼飯の時間になった。俺はあらかじめコンビニで買っておいたおにぎりを食べ、すぐに勉強に戻る。ケイさんも朝からずっと勉強しており、さっとお茶漬けを用意して昼飯を済ませていた。こんなに真面目なケイさんは珍しいな、流石にそろそろ気合いが入ってきたのか――などと感心した、数分後。
「マサくん、眠いよぉ~」
……例のごとく、駄々をこね始めた。
「さっき昼ご飯食べたばっかじゃないですか」
「だから眠いんだよお」
「も~~」
この気だるい声を聞いていると、こっちまで調子が狂う。俺はペンを動かす手を止め、ケイさんの方を向いた。
「そんなに眠いなら、少しだけ寝たらどうですか?」
「ふむ。悪くないな」
「はい、おやすみなさい」
ケイさんはベッドに上がり、布団を被った。やれやれ、三十分くらいしたら起こせばいいかな。とりあえず、これで勉強に集中――
「マサく~ん! 眠れないよお~!」
この人、わざとやってるんじゃないだろうな。ベッドの方を向くと、ケイさんがぱっちり目を開いている。
「眠いんじゃなかったんですか」
「いざ布団に入ったら眠れないんだよお」
まあ、気持ちは分からないではない。夜とか、眠くて布団に入ると全然寝付けないって経験は誰にでもあるもんだよな。でも、勉強の邪魔だからさっさと寝てほしい。
「わがまま言わないで寝てください」
「ねえ、マサくん」
「なんですか?」
「……一緒に、寝てくれよ」
ケイさんはこちらを向き、布団を少しめくり上げている。……本気なのか?
「ケイさん、いくらなんでもそれは」
「私がいいのだから、いいだろう?」
「ダメですって」
「……私のこと、嫌いなのかい?」
ずるい。嫌いなわけないのに。
「そんなわけないじゃないですか」
「じゃあ、寝て」
「……はい」
根負けした俺は、仕方なくベッドに上がった。布団に入り、ケイさんの隣に寝転がる。なんだかいい匂いがするし、何より距離が近い。
「ありがとう、マサくん。これで寝られそうだ」
「どういう原理ですか」
「別に、なんでもいいじゃないか……」
などと問答しているうちに、ケイさんは眠りについてしまった。本当に寝ちゃったよ、この人。まあいいか、俺も朝からずっと勉強して眠かったし。ああ、だんだん眠くなっていく……
「……くん、マサくん!」
ケイさんの声で、ハッと目が覚めた。あれ、もう三十分くらい経ったみたいだな。さ、起きて勉強しないと――
「ちょっと、どきたまえ……」
「えっ?」
ふと気がつくと、ケイさんは顔を真っ赤にして俺の腕の中で縮こまっていた。……どうやら、俺が寝ぼけて彼女を抱きしめていたらしい。
「わっ、すいません!!」
俺は慌てて身を引き、ケイさんから離れる。ケイさんはまんざらでもないといった感じでもじもじとしており、なんだか可愛かった。
「じゃあ、僕は勉強に戻りますから」
「むう、そうか」
ケイさんはなんだか不満そうにそう答えた。俺はベッドから降りて、ちゃぶ台に向かって参考書を開く。その瞬間、後ろから抱きしめられた。
「わっ!」
「スキあり!」
そのまま強くがっちりとホールドされ、身動きが取れない。
「ちょ、どうしたんですか?」
「仕返し」
「え?」
「さっきの仕返しだよ、マサくん」
ケイさんはいたずらっぽい声でそう囁いた。くそう、このまま調子に乗らせるのも腹が立つな。俺はケイさんの腕を掴むと、そのままベッドの上まで引っ張り上げた。そして一緒に布団を被り、彼女を抱きしめる。
「ま、マサくん? また寝るのかい?」
「いえ、違いますよ」
俺は困惑するケイさんの頭を撫で、静かに囁いた。
「……ここからの続き、しませんか?」
「!!」
あっという間にケイさんは赤くなっていき、耳まで紅潮していた。そして俺をベッドから突き飛ばすと――
「ま、まだ早いよマサくん!!」
「え、『まだ』ってことはいつか?」
「そ、そういうことじゃな~~~~い!!!」
などと叫んでいるのだった。ああ、やっぱりこの人は面白い。後期の授業もよろしく、ケイさん――
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