先輩


 噂をすればなんとやら。

 とある日、家に帰ったら木之内先輩が居た。


 どうやら部屋の前で一日ずっと待っていたらしい。

 よく通報されなかったな。


 タオルちゃんが居なくなってしまって、探すのを手伝ってほしい、と言われたが、何のことかさっぱりだった。

 訳がわからん。

 マジで分からん。

 正直なところクソほど面倒臭い。


 が、先輩が自らの意思でまだ此処までやってきたことには敬意を表するべきだろう。

 腐っても先輩だったのだし。あまり何か学んだ覚えはないが。


 先輩曰く、タオルちゃんとは先輩が吐いた砂から生まれた存在だと言う。

 訳がわからん。

 なんだ? 相変わらず説明下手か?


 よし。

 三十分に渡る先輩のお話しを要約する。


 ①先輩は砂を食べていた

 ②先輩は砂を吐いていた

 ③先輩の吐いた砂が動き出した

 ④タオルちゃんになった


 は?


 いや、




 ハ?



 えー。

 ほら。

 とにかく、あれだよ。

 先輩にとっては我が子同然のタオルちゃんが、ペットホテルに預けてから居なくなってしまって、


 いや。


 我が子をペットホテルに預けるのどうかしてるよな。


 どうかしてるよな?


 なん


 何?

 マジで何?


 怖くなってきた。

 俺は今、これまでで一番怖い思いをしているかもしれない。


 だから、つまり、えーと、要するに、俺は、そう、タオルちゃんを探しに、ペットホテルに行かないとならない。

 そうしないと先輩は一生この部屋の前から動かないからだ。


 怖い。



 先輩、アンタそんな怖い人間のくせに、なんであんな会社にいる程度の輩の言いなりになってたんです?


 怖い。


 とにかく、行く。

 行かないと多分、恐ろしいことになるからだ。

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