結婚


 ヅラ上司が結婚するらしい。

 何もめでたくねえが、とりあえず祝っておいた。


 嘘だ。

 祝いたくねえからいっそ退職してやろうかと思ったくらいだ。


 ヅラの上司が捕まえた女は二十五歳年下で、女子大を卒業してからはガラス製品の会社の事務をしているんだそうだ。


 新居の購入がどうだとか、式場がどうだとか、仕事中の人間を捕まえてはあれこれと話している。

 五十近い性格の終わったハゲがはしゃいでいるのは悲しいものがある。

 間違いなく結婚詐欺な辺りが特に悲しい。


 上司はウキウキしながら『子供』の話をしている。

 反吐が出る。


 こいつは社長の靴を舐め倒す勢いで媚びへつらい、ありとあらゆる労力を賭して仕事をサボり続け、全ての部下の功績を己のものとして現在の立場を得た。

 そんなハゲが唯一手に出来なかったのが、社長の主催するクソッタレのパーティへの参加権だ。


 『子供を産んだ妻』がいなければ、呼ばれることはない。

 パーティの雑用ではダメなのだ。このハゲは、もっと強く、間違いなく、社長の信頼を勝ち取りたいと思っている。


 キショすぎて涙が出てきた。

 嘘だ。こんなことで泣いてる暇はない。


 ハゲは自慢げに『妻』の写真を見せびらかしている。

 こんなに可愛いのに僕が初めてなんだよ、などと言っている。

 キショすぎて涙が出てきた。

 あと絶対初めてじゃねーだろと思った。

 んな訳あるかボケ。

 黒髪ロングストレートなんてもはや逆に清楚が突き抜けてて怪しいだろ、などという話ではない。


 見せられた写真の全てで、顔面に赤ん坊のなり損ないが張り付いていた。

 女優の誰々似だとかいうご尊顔が全く見えない。

 全ての怨念を込めたように、小さな手でしがみついている。


 上司はだらしのない面とうっとりとしたキモい声で、『百戦錬磨の僕の素晴らしい手解き』について語り始めている。

 

 化け物vs化け物の様相を呈してきたな。

 どっちが勝っても全く嬉しくない。


 これ以上聞きたくもないので、俺はクソッタレパーティの準備があるので、とヅラ上司の話を雑に切り上げた。



 どうでも良い話だが、社長はなんだかんだと先輩がお気に入りだったようで、『木之内くんは戻ってこないのかい』なんて、たまに聞いてくる。

 そこまで気に入ってたなら、秘書にでも抜擢してやれば良かったのに。


 『まさか亡くなってたりしないだろうね』と平静を装って聞かれたので、どうでしょうねえ、とだけ答えておいた。

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