吊り革


 吊り革が届いた。

 差出人の住所はクソ適当である。


 ただ、名前には見覚えがあった。

 自宅に吊り革を設置している知り合いだ。


 よく分からん趣味だが、握っていると安心するらしい。

 電車でも、座るよりも吊り革を握っていたいから立っているんだと。

 休日は一日中、吊り革を掴んで立っているそうだ。


 さて。

 そんな奴から届いた吊り革である。

 素直に不気味だ。ただ、捨てるにも困るので、とりあえず物干し竿にぶら下げておいた。


 送る前に磨いたのか、持ち手の部分は綺麗になっていたが、革ベルトの部分は経年劣化でくたびれている。

 そのままぼんやり眺めていると、一日が終わった。


 天井の奴らが全部、吊り革に群がっていった。

 まあ、室内にいるよりはマシか。


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