居留守


 居留守に失敗した。

 生肉が元気に飛び出して行ったせいである。

 そのまま嬉しそうに連れてきやがったせいである。


 失敗したので、俺は生身のバカと対面する羽目になってしまった。

 もう二度と会うつもりはなかったし、そもそも一度だって会うつもりもなかったし、会いたくもなかったのだが、とにかく。


 バカはあれこれと意味の分からんことを言って、それから手提げの弁当を広げ始めた。

 人間は食わないと死ぬんだと。

 どんなバカでも知ってる事実だったので、当然このバカも知っていた。

 人間は食わないと死ぬんだと。

 へえ。

 人間は食わないと死ぬんだと。

 ああそう。


 そうだな。

 どんなバカでも知ってる。


 バカは来週も来るつもりのようだった。

 早急に引っ越した方が良いかもしれないが、もう手遅れだろう。


 だって生肉が見えている。

 見えているし、懐いている。

 もはや取り憑いている。


 来るなとは言わなかった。

 来なくて良いとは言った。

 

 どうせ来るんだろうな、とは思った。










 

「妹が、お礼を伝えておいてください、と」

「…………」

「僕からも。その、ありがとうございます」

「……………………」

「……本当に。ありがとうございます」

「……………………」

「じゃあ、また」


 とちとち とち とちとち


「またね、生肉」


 とちとちとちとちとち

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