いなくなったルナ

その夜。やけに村が騒がしかった。

いつものカエルの声と共に、大声で騒いでいる人の声が聞こえてくる。

「なんだ?」

浴衣姿で寝ころんでいた父親が、むくりと起き上がり庭へと出る。隣で本を読んでいた僕も、本を放り出し後を追うようにして一緒に出た。

庭に出ると、騒いでる声が少し鮮明に聞こえてくる。何を言っているのかまでは分からないが、何やらせっぱつまっているようだ。

「なんだろう。誰が騒いでるの?」

「分からん。ちょっと行ってみるからお前は家の中にいなさい」

そう言うと父親は、軒先にあった懐中電灯を手に取り走って行った。

家にいなさいと言われて、はいそうですかとはならないのが僕だ。僕はこっそりと父親に見つからないよう後をつけた。

街灯もない田舎の夜は真の闇に包まれる。月でも出てくれていれば多少明るいのだが、あいにく今日は雲が多く月どころか星さえ見えない。

僕は、父親の懐中電灯の明かりを目印に慎重に進んでいく。

「知らんかね!誰か知らんかね!」

次第に誰かが必死に叫んでいる声が聞こえてきた。ガラガラとした声。どこかで聞いたことがある声だ。

「帰ってこんのじゃ!ルナが帰ってこんのじゃ!」

(えっ!!!)

息が止まるほど驚いた。

ルナが帰ってない?え?どういう事?あの時いなかったから、てっきり家に帰ったものだと思っていた。じゃあ今叫んでいるのはことり祖母ちゃんか・・・

「知らんかね!誰か!」

暗闇の中、懐中電灯を手に持つ何人かの黒い人影が見えてきた。

「うちの子に聞いたけど知らないって」

「うちもだよ」

「家の中をちゃんと探したのかい?」

「厠にでもいってるんじゃないのか?」

そんな声が聞こえてきた。騒ぎを聞きつけた近所の人達だろう。

その後もことり祖母ちゃんの悲痛な叫びが続いたが、黒いシルエットが一人減り二人減りと終いには小さな黒い塊だけが残る。

「おおおおおうううう。おおおおううう」

低くくぐもった唸り声のような声が聞こえてくる。小さな黒い塊がさらに小さくなり、遂には岩のように地べたにうずくまる。

泣いているのだ。

地響きにも似たその声に、急に恐ろしくなった僕は音を立てないようゆっくりとその場を離れると、最後は一目散に走って家へと戻った。

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