落し物
「ルナちゃんこっち!」
「まって!」
「しんちゃんが鬼だよ!」
「違うよ。先に見つかったのは貴ちゃんだからな!」
「はははは!」
「おい!今度は俺が先だろ?」
「ねぇ、僕はどっちなの?」
笑いが止まらない友人や、順番を争う友人。夢中で僕達は遊んだ。
そんな中
「ねぇ!かごめかごめやらない?」
村の中で一番お洒落な由美が大きな声で言った。みんなツギハギだらけの着物を着ている中、いつも可愛らしい洋服を着ている女の子。髪の毛もボンボンのついた赤いゴムを使って二つに縛っている。何でも東京の親戚が服や髪留めを送ってくれるのだとか。
そんな由美は俺より一歳年下の女の子だが、体が大きくどことなく逆らえない雰囲気を出している。その為、自然と女の子の中心人物となっていた。何故か男の子よりも力が強く、いつか由美を倒してやると意気込む男の子も少なくない。
「いいね!やろうやろう」
「え~!かごめかごめ?俺はいいや」
「駄目よ。みんなでやるの!」
「ちぇ」
「早く輪っか作って!」
不承不承に呟く友人も仕方なく、由美の言う通りに輪っかを作る。かごめかごめは女の子の遊びだと思っていた僕は、少し恥ずかしく思いながらも、ルナがちゃんとみんなと手をつないでいるのを見てまた嬉しくなる。
(か~ごめか~ごめ、籠の中の鳥は~、いついつでやる~、夜明けの晩に、鶴と亀が滑った~、後ろの正面誰だぁ~れ)
単調な遊びだが、やり始めると意外に面白くなってくる。嫌がっていた友人もしまいには夢中になってきていた。暫くして、ルナが円の中心に座り目隠しをする番になった。みんなで歌を歌い同じ方向に回る。最後に、だ~れだと言った時、ちょうど僕がルナの後ろに来た。
(ルナは誰の名前いうだろう)
期待を胸に、僕はしゃがむルナの背中を見た。
その時だ。
「あ~っ!!!」
突然川の方から叫び声が聞こえた。
みんな驚いて声がした方を一斉に振り返る。そこには、いつの間にか円から抜けた由美が両手に口を当て真っ青な顔をして川の方を見ていた。
「どうしたの?」
「なんだ?」
「なになに?」
口々にそう言いながら由美のもとへバラバラと走り寄る。由美は黙って川を指さした。
見ると、連日の雨で水かさが増し濁流と化している川の中央に、上流から流れてきた太い枝が突き出ている。そこにかろうじて引っかかるように赤い毛糸で編まれた帽子があった。
「あれ、お前の?」
「そう。お祖母ちゃんが編んでくれたの。どうしよう・・・」
勝気な由美の目にうっすらと涙が浮かんでいる。余程大切なものなのだろう。
「どうにかして取れないかな」
「どうにかしてって言ってもな・・」
「長い棒とかないか?」
「石投げてみれば?」
「そんなことしたら流れて行っちまうぞ」
「諦めれば?」
「いやよ!!あれは、お祖母ちゃんが編んでくれた大切な帽子なの!」
「紐を輪っかにしてとれないかな」
「無理だよ」
僕達はあれやこれやと考え、一人の友人が長い棒を持ってきたので、それにひっかけて取ることにした。しかし目の前で堂々と流れる川は恐ろしく、少しでも気を抜くと滑り落ち流されてしまいそうだ。
「やっぱり駄目だよ。僕、大人の人呼んでくるよ。あそこに田島さん家があるから行ってくる!」
そう言った僕は、比較的近くにある家に助けを求めに走った。
丁度庭で作業をしていた田島のおじさんを連れて川に戻った僕は、友人達の間に広がる異様な雰囲気を感じ取った。
「どうしたの?」
「え?ううん。どうもしないよ?」
由美が取ってつけたような返事をする。おかしい。僕の顔を見ないのだ。何か変だ。他の友人達もどことなく居心地悪そうにしている。
(なんだ?)
おかしいと思いつつも、僕は田島のおじさんに帽子を取ってくれるよう頼んだ。
「ああ?帽子?どこにあるんだそんなもん」
おじさんは太い首を伸ばし川を見ながら怒ったように言った。
「え?あそこに・・・あれ?」
突き出た流木に引っかかっていたはずの帽子がない。もっと言えば、流木ごとないのだ。
「え?あれ?帽子は?取れたの?」
僕は由美に聞いた。
「ああ、帽子ね。あれ流されちゃった。もういいわ。諦める」
由美はそう言うと、他の友人達と一緒に歩いて行ってしまった。呆気にとられた僕は、こちらを振り返ることもせず歩いていく友人達の背中を見ていた。
「川はあぶねぇから近づくんじゃないぞ。流されて死んじまうからな」
田島のおじさんはそう言って、ガシガシと僕の頭を撫でると帰ってしまった。
由美の奴、目に涙をためるほど慌てていたのになんだよ。と、面白くなかった僕は「ちっ」と舌打ちをして足元にあった石ころを蹴飛ばす。コロコロと転がった石ころは、音もたてずに川の中に消えた。
「あれ?」
その時気が付いた。
ルナがいない。
辺りを見回してもどこにもルナの姿がない。由美たちと一緒についていったのか?それとも先に帰ったのだろうか。
余計つまらなくなった俺は「ちっ!」とさっきよりも大きく舌打ちをすると、家へと帰った。
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