居酒屋

「それで?」

男は、箸につまんだほっけをそのままに眉を寄せ話の先を促した。

「ルナの目が真っ黒でした。白目の部分がなく、全て真っ黒。眼窩の全てが真っ黒だったんです」

足元からヒンヤリと冷たくなってくる。さっきから酒を飲んでいるのに中々体が温まらない。

「ほう。目が真っ黒に。その後、ルナはどうしましたか?」

男は箸でつまんでいたほっけを、ポイっと口に放り込む。

「そのまま消えてしまいました」

「消えた?」

「ええ。外の闇に溶け込んでいくようにじわじわと消えたんです」

ストーブの上にあるやかんが、カンカンという音からじぃ~と虫のような音に変わる。それに気がついた大将はやかんを取り、水を入れるとストーブの上に置いた。じゅわっと水が蒸発する音と共に白い湯気が立ち昇る。厨房に戻る際、大将はこちらを怪訝そうな顔でチラリと見た。

男二人がぼそぼそと何を話しているのだろうかと訝しんだのだろうか。

ふと外を見やると、降っていた雪がいつの間にかやんでいる。

「ふん。それで?次の日の御地家の子祭りはいかがでしたか?」

男は、ルナが家に来た事や消えてしまったことには触れずに話を進める。

「・・・・・」

「どうしました?」

男は、黙ってしまった俺を覗き込むようにして見た。俺は、この男は俺を試してるんじゃなかろうか。と一瞬思った。こんな不気味な話をしても平然と聞けるなんておかしいからだ。信じず馬鹿にするか、気味が悪いと怖るのが普通だと思うのだが、この男は淡々と話を聞いていく。まるで、知っている話をさせているかのように。

一体この男は何者なのか。

俺はゴクリと唾を飲み込み、残りの酒を一気に煽る。

「祭りは、朝早くから始まりました。日の出と共に・・・」

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