第13話 篤那川攻略作戦 前編

前回までのあらすじ

 星霊隊に敗れたノルズとジスタが率いる悪魔軍は霊橋区から後退した。

 星霊隊には新たに、輝夜、紅葉、明宵、水咲の4人が加わり、さらにノルズたちが拠点としていた場所の調査に乗り出した。



1日前 白鷺町

 市川いちかわ四葉よつばは、高校の生徒会室で、椅子に腰掛けながら昨日起きた事件の記事の切り抜きを見ていていた。

『謎の悪魔が街に出現!!』

『星霊隊は今度もお手柄!!』

『清峰侯爵とそれに仕える女性たち』

 四葉が見ている新聞の切り抜きには、日菜子の姿が映っていた。

(この人が…星霊隊のリーダー…桜井日菜子…私を助けてくれた人…)

 四葉は日菜子の写真を見ながら、昨日、自分が日菜子に救われた時のことを思い出していた。

(見ず知らずの私でも命懸けで助けてくれた…あの時は危険だったから逃げてしまったけど、でも、今度こそ…!)

 四葉が誰もいない生徒会室で、内心強い決意を抱いていると、生徒会室の扉が突然開いた。

 四葉が立ち上がってそちらの方に振り向くと、彼女が呼び出した女子生徒が3人、立っていた。

「四葉、連れてきた」

 呼び出された3人の中で最も背の高い女子が言う。四葉はその女子に対して小さく礼を言った。

「ありがとう、ひかり」

 四葉に礼を言われた背の高い女子生徒、剛金つよかねひかりは、無言で頷く。

 しかし、すぐに呼び出された3人のうちの1人が手を挙げて尋ねた。

「ねぇねぇ生徒会長、私たちなんで呼ばれたの?」

 質問された四葉は、真面目な表情で話し始めた。

三鱗みつうろこ心愛ここあさん、あなたはこの学校でも指折りに強力な霊力の持ち主です。そちらにいる、剛金ひかりも、そして槍川やりかわ二菜になさんも同じです」

 四葉はそう言って、眼帯をつけた女子生徒、二菜の顔を見る。二菜は得意げな顔をしていた。

「ふっ…さすがこの学校の真なる支配者…眷属けんぞくたちが持つ各々の色をよく知っているな…」

「なんて?」

「二菜はこういう子なんだ」

 二菜の発言の意味が理解できない心愛が尋ねるが、ひかりが軽く答える。心愛は納得できなさそうな状態のまま、四葉に尋ねた。

「ま、いいや。で、私たちが呼ばれた理由は?」

 心愛に尋ねられると、四葉ははっきりと言い切った。


「この4人で星霊隊に加入したいと考えてます!」


 四葉の発言に、心愛と二菜は目を輝かせ始めた。

「星霊隊!前から興味あったんだー!」

「噂に聞く悪魔たちを穿つ者たちか…!ふふふ…私の右手の力を使う機会が来たようだな…!」

 心愛と二菜が嬉々としている様子なのに対し、ひかりは1人冷静に四葉に尋ねた。

「四葉、君が星霊隊の人に救われて、そういう考えに至ったのはわかる。しかし、そんなに安易に動いていいのだろうか」

「大丈夫、星霊隊は一般人からも隊員を募集中らしいの。だから私たちでも応募すれば通してくれると思う」

「星霊隊は悪魔と戦う部隊だ。命に関わる危険が多いと思う。みんな覚悟の上で言っているのかい?」

 ひかりは他の3人に尋ねる。3人は先ほどまでの元気を失い、静まり返った。

「…私はできてる」

 ひかりに対して、四葉は言う。それから少し遅れて心愛と二菜も賛同した。

「…なら、私も行こう。3人とも、守ってみせる」

 ひかりは女性にしては低い声で言う。他の3人もそれに喜んだ様子でひかりに寄って抱き合った。

「それじゃあ、早速だけど、明日のお昼に星霊隊の拠点に行ってみよう!それで話を通せば、星霊隊として採用してくれるはず!」

 四葉が言うと、他の3人も、声を上げ、拳を上げた。



現在 霊橋区 市庁舎

 幸紀は任務から戻ってきた星霊隊の12人の女性たちを出迎えていた。

「みんな、ご苦労だった」

「幸紀さん!星霊隊12人、無事に帰還しました!」

 幸紀の挨拶に対し、日菜子が大きな声で報告する。幸紀もそれに対して頷くと、メンバーたちは市庁舎の中へと進んで行った。

「それで、敵の拠点はどうだった」

 市庁舎のホールに差し掛かると、幸紀は日菜子に尋ねる。日菜子は自分たちが探索した場所の風景を思い出しながら話し始めた。

「それがですね」


「お邪魔します!」


 市庁舎の扉が開き、聞いたことのない女性の声が聞こえてくる。幸紀と日菜子が思わず振り向くと、若そうな女性が4人、そこに立っていた。

「どちら様?」

 日菜子が尋ねると、4人のうちの1人、赤い眼鏡をかけた緑色の髪をした女性が声を張った。

「私たち、白鷺しろさぎ第一高校の者です!星霊隊に入りたいと思ってここに来ました!」

 眼鏡の女性がそう言うと、星霊隊のメンバーたちはざわめく。日菜子は状況を理解すると、指示を始めた。

「じゃあ、焔さんと幸紀さんは一緒にきてください。珠緒はみんなを連れて侯爵に報告をお願い」

「はい、わかりました」

 日菜子の指示を聞き、焔は日菜子の方へと進む。珠緒は残りの全員を連れて清峰が控える執務室へ歩き始めた。

 そんな一団にいた美雲が、ふとやってきた4人の顔を見て、日菜子の耳元に寄った。

「ねぇお姉ちゃん、あのピンクの髪の子、三鱗心愛ちゃんじゃない?」

 日菜子は美雲に言われて改めて4人の顔を見る。ピンクの髪をツインテールにしている女性が確かにおり、4人の中でも一際美人なように見えた。

「えーと…有名人なの?」

「めっちゃ有名人だよ!最近人気のアイドルの子!」

「そうなの?じゃああの眼帯の子も、アイドルのコスチューム?」

 日菜子は心愛の隣に立つ眼帯の女性を見ながら美雲に尋ねる。美雲は肩をすくめた。

「さぁ、私は見たことないな。星霊隊を勘違いしちゃってる子かも」

「美雲さん。あなたの任務はこちらではないはずよ」

 美雲と日菜子の会話に、焔が静かに入ってくる。焔に注意された美雲は、残念そうに肩を下ろした。

「だってさ。じゃあね、お姉ちゃん、うまくやってね」

 美雲は軽い空気でそう言い放ち、手を振ってその場を去っていった。

 美雲がいなくなると、焔が日菜子と幸紀に話し始めた。

「彼女たちは事前の連絡もせずにやってきた。失礼にあたる行動よ。それに、あの服装、1人は露骨にふざけているとしか思えないわ」

 焔は眼帯をつけている女性をチラ見しながら日菜子に言う。さらに焔は続けた。

「敵にも動きがあった以上、冷やかしに付き合っている暇はないわ。また日を改めて来てもらいましょう」

 焔が冷静に言うと、日菜子は反論した。

「冷やかしなんて。それは話を聞かないとわからないんじゃないんですか?外見で人を決めるのは良くないと思います」

「確かにそれはそうかもしれない。でも、ちゃんと星霊隊の加入希望者用に電話番号はあるのだから、本当に入りたいならそこに電話しているはずよ」

 日菜子の言葉にも、焔は冷静に言い返す。日菜子はいい反論が思いつかず、幸紀に話を振った。

「幸紀さんも、せめて話は聞くべきだと思いませんか?」

 日菜子に話を振られた幸紀は、やってきた4人の姿を見て素早く脳内で考えを巡らせた。

(…これ以上星霊隊に人が増えるのは困る。ただでさえ月影の巫女と金刃財閥の一人娘が加わって面倒なんだ)

 幸紀は脳内で短く結論を下すと、日菜子に考えを伝えた。

「いや、俺も冷やかしだと思う。追い返そう」

「幸紀さん!?」

 幸紀の意外な言葉に、日菜子は驚く。幸紀は淡々と付け加えた。

「今俺たちは忙しい。侯爵の命令次第では悪魔を追撃できるチャンスだ。また改めて来てもらおう」

 幸紀に押し切られるような形で、日菜子も折れた。

「…わかりました。あの子たちに伝えてきますね」

 日菜子がそう言うと、焔と幸紀は頷く。日菜子は気まずそうにしながら4人の前に出て話し始めた。

「星霊隊のリーダーの桜井です。みなさんの気持ちはわかったんですけど、今私たち、忙しいんですよね…だから、日を改めてもらってもいいですか?」

 日菜子は丁寧に応対する。言われた4人の女性は不満そうな表情をしたが、その中のリーダー格である眼鏡の女性が4人を代表して話し始めた。

「わかりました、また違う日に来ます」

「しばらくは私たちも忙しいと思うから、事前に連絡とかしてね」

 日菜子が彼女たちにそう言うと、彼女たち4人はおとなしく引き下がり、日菜子に背を向けて歩き始めた。

 4人を見送った日菜子は、焔と幸紀のもとに戻ってきた。

「素直に帰ってくれました。本当に冷やかしだったんですかね?」

「わからんが、我々には任務がある。そちらを優先してくれ」

 疑問を抱く日菜子に対し、幸紀は冷静に言う。日菜子はそれに従うと、焔と共に他の仲間のいる作戦室へ歩き始めた。



 四葉、ひかり、心愛、二菜の4人は、星霊隊に加入しようとしたものの、面接すら受けられずに追い払われた。

「はぁ…失敗した…電話なんてあったの…?」

 四葉は道を歩きながら反省する。そんな四葉の背中を、心愛が軽く叩いた。

「別に大丈夫だよ、四葉ちゃん!心愛もね、たくさんオーディション落ちてるし、また受ければいいんだよ!」

「可能だろうか」

 心愛の言葉に、ひかりがふと呟く。心愛はひかりに対して明るく注意した。

「こらぁ、ひかり!そういう後ろ向きなこと言わない!」

「でも聞こえてしまったんだ。『服装がふざけてるとしか思えない』だとか、『冷やかしだと思うとか』…印象は良くはないだろうな」

 ひかりが低い声で言うと、心当たりのある二菜が申し訳なさそうに俯いた。

「わ、わたしのせいか…ごめんなさい…」

「ちょっと!誰が悪いとかやめよ?みんな明るくいこうよ!」

 暗くなりそうな空気を心愛が明るくしようとする。

 同時に、四葉も何かを思いついて声を張った。

「よし、決めた!」

「どうしたの?」

 四葉は3人の前に立つと、自分の考えを話し始めた。

「たぶん、このままだと話を流されそうな気がするの。だから、私たちの方から活躍してみせて、星霊隊に入れてもらおう!」

 四葉がそう言うと、心愛はすぐに雰囲気を盛り上げるために明るく声を出した。

「いいね、それ!心愛も大賛成!やろうやろう!」

「しかし四葉、どうやって活躍するつもりだい?」

 明るい心愛とは対照的に、ひかりは冷静に尋ねる。四葉は少し考えると、二菜の方を見た。

「二菜!あなたはパソコンに詳しいのよね?だったら星霊隊の作戦室を盗聴とかできない?」

 四葉の提案に、他の3人は驚いて言葉を失う。二菜も動揺してしどろもどろになりながら話し始めた。

「えぇっと…できないことはないと思うんだけど…そんなことしたら法律とか、色々触れちゃうから、逆に星霊隊に入るのは難しくなっちゃうんじゃないかな…って」

「二菜ちゃん普通に喋れるんだね」

 二菜の言葉を聞きながらも、四葉はさらに続けた。

「大丈夫、全部私のせいにしてくれていい。警察にも星霊隊の人にも私のせいって言うから」

「いや…そんな…」

「ひかりと心愛も。私のせいにしてくれて全然構わないから!」

 四葉は1人で熱くなる。それを制止するように、ひかりは落ち着いた声で四葉に声をかけた。

「落ち着いて、四葉。私たちは皆で動くんだ。その責任はひとりひとりにある。君1人に背負わせるつもりはない」

「そうだよ!4人で頑張ろうよ!」

 心愛も四葉に言う。さらに、二菜も眼帯を付け直して話し始めた。

「ふ、ふぅん、そうだな。助けが必要とあらば、私という隻眼の天使も手を貸すのは、やぶさかではない」

「みんな…ありがとう!」

 四葉は他の3人の思いを聞くと、礼を言う。そして四葉は改めて指示を出した。

「それじゃあ、ネットカフェに行こう!二菜、向こうについたら、ハッキングをお願い!」

「引き受けよう」

「出発!」

 四葉は他の3人を引き連れて街へ歩き出した。



霊橋区

 星霊隊のメンバーたちは作戦室に集まり、清峰の前に立っていた。

「以上が、今回の調査の結果です」

 メンバーたちの最前列に立ち、珠緒が報告する。清峰は珠緒たちから報告されたことを、メイドたちにパソコンと手書きのメモにそれぞれ記録させていた。

「なるほど、すでに悪魔たちは退却、前線基地はもぬけの殻、か」

 清峰は珠緒から聞いた言葉を繰り返す。そうしていると、作戦室の扉が開き、日菜子、焔、幸紀が入ってきた。

「侯爵、遅くなりました!」

「日菜子か」

 清峰は日菜子が入ってきたのを見て、日菜子に話しかけた。

「珠緒からひと通り報告は聞いた。悪魔たちは篤那川あつながわの近くにある拠点まで後退したらしいな」

「はい、悪魔たちは橋を渡ったあと、橋を壊したみたいで、それ以上は追跡できませんでした」

 清峰は日菜子の報告を聞き、頷いた。

「篤那川の拠点は、何度となく我々の中央方面軍を苦しめてきた。篤那川自体の激流と、拠点の周りの険しい山、さらに交通の便も悪いことから、攻略はおろか偵察すらも上手くいっていなかった」

 清峰の口から告げられる事実を聞き、メンバーたちの表情は硬くなる。清峰はそれを見ながらも話を続けた。

「しかし、星霊隊ならば、君たちならば攻略が可能だと信じている。よって、私はここに、篤那川の攻略を命令する」

 清峰からの命令が下ると、星霊隊の女性たちは背筋を正し、了解と声を張った。

「さっそく作戦の立案を」

 清峰がそう言うと、日菜子は他のメンバーたちに声をかけ、作戦会議用の長机を全員で囲んだ。

 長机は電気式のモニターにもなっており、このあたりの地図が表示されていた。

「ここがさっき調査した拠点で、こっちが敵が逃げ込んだ拠点ですね?」

 輝夜が二ヶ所を交互に指差して尋ねる。日菜子が頷くと、紅葉はアゴに手を当てながら呟いた。

「川を挟んで5kmくらい?市庁舎からだったら6、7kmくらいの場所だね」

「…最短距離ならば、ですが」

 紅葉の言葉に、明宵が呟く。それを聞いた雪奈が尋ねた。

「どういうことですか?」

「川を渡るための橋がないんです...しかも川の流れもすごい激しいから、泳いで渡ったり、ボートで渡るのも難しそうです…」

 雪奈の疑問に、珠緒が答える。そんな状況を聞いて、水咲が呆れたように呟いた。

「あれもできない、これもできない、何もわからない、星霊隊は随分と優秀な組織みたいね」

「なんだよ、文句じゃなくてなんか提案しろよ、おばさん」

 水咲の皮肉に対し、稲香が食ってかかる。水咲は肩をすくめるだけであり、そんな水咲を稲香は睨みつけた。

「お姉ちゃん、提案いい?」

 美雲が手を挙げて日菜子に尋ねる。日菜子は美雲に話させ始めた。

「どうぞ、美雲」

「うん。普通にさ、一回偵察送ってみたらどう?」

 美雲はあっさりとした様子で言う。すると、六華がそれに賛成した。

「あ、じゃあ私が行くよ!」

「六華じゃ川越えられないでしょ?私はね、風花に行ってもらうのがいいと思うんだー」

 美雲はそう言って風花の方を見る。他のメンバーたちも一斉に風花に視線を送った。

「…え?」

「風花は空を飛べるでしょ?空中から基地とかの周りの写真を撮って、弱点とか調べてみてほしいなぁって」

 美雲の提案に、その場にいた全員が納得したような声を上げる。風花は自信なさそうな表情をしたが、日菜子がすぐさま風花の手を取り、頼み込んだ。

「お願い風花、あなたしかいないの。敵の基地の偵察、任せてもいい?」

 日菜子に尋ねられると、風花は戸惑いながらも、頷いた。

「…わかりました…がんばりますぅ…」

「ありがとう、風花!」

 日菜子は風花に対して改めて礼を言う。同時に、他のメンバーたちも風花を応援するように声をかけ、風花は自信なさげに微笑んだ。


 数分後、準備を整えた風花は、空を飛んで敵の基地の上空に行くために市庁舎の屋上に来ていた。

 幸紀も風花を見送るために屋上まで来ており、風花にカメラを手渡すと、風花は小さく微笑んでいた。

「…なぜ笑っているんだ?」

 幸紀はふと風花に尋ねる。風花は幸紀に尋ねられると、意外そうに眉を上げた。

「えっ、私、笑ってましたか?ごめんなさい、ニヤニヤしてて気持ち悪かったですよね…」

「そうは言ってない。なぜ笑っているのかが気になっただけだ」

 幸紀が言うと、風花はおどおどしながら答えた。

「いや、その…みんなから、『頼んだ』、なんて言われて、期待されるっていうのが初めてで…ちょっと嬉しかったんですぅ…」

 幸紀は風花の答えを聞くと、内心さまざまなことを考えながら微笑んで言葉を返した。

「そうか。なら、みんなの期待に応えられるよう、頑張ってくれ」

「はいぃ!」

「気をつけて行ってこい」

 幸紀は優しく声をかける。風花は覚悟を決めると霊力で風を起こし、空高く飛び上がると、悪魔軍の基地を目指して飛び始めた。

 風花を見送った幸紀は、自分の端末で悪魔軍に情報を送り始めた。



篤那川 悪魔軍基地

 地下1階、地上3階建ての堅牢な建物の一室で、ここの全体を指揮する将軍であるノルズは、幸紀から送られてきた情報を確認していた。

「・月影輝夜(19歳)

・強力な霊力と戦闘力を持つ月影の巫女、日本刀を使用

・長い黒髪に、赤い瞳

・戦闘中も冷静な要注意人物


・日垣紅葉(19歳)

・炎の霊力を持ち、ヌンチャクを扱う

・日に焼けた肌と紅色の短髪

・高い身体能力と義理堅い性格


・金刃明宵(18歳)

・強力な霊力で影から作った獣を使役する

・黒い前髪で目を隠している

・霊力や魔力に関して造詣の深い、要注意人物


・星海水咲(23歳)

・水の霊力を持ち、鞭で戦う

・紺色の髪色をしている

・高圧的な性格だが、追い詰められると感情的になる」


「これはこれは…また厄介なのが星霊隊に加わったな…」

 ノルズは幸紀から送られた情報を見て呟く。そのまま画面を下にスライドさせていると、さらに幸紀からの情報があったことに気づいた。

「ん?『星霊隊の1人が偵察に出発、上空に注意されたし』…か」

 ノルズは幸紀から送られたその文言を確認すると、すぐ近くにあった通信機に声を張った。

「おいジスタ、対空砲は用意してあるか」

「デカい声を出すなよ、うちの『娘』が驚くだろ?」

「さっさと答えないともっとデカい声を出すぞ」

「はいはい、バッチリですよ。ハエにカラスにヘリコプター、飛んでるものならなんでも撃ち落とせるさ」

「よし、今すぐ起動しろ。ヌセル、星霊隊の女が飛んでくる、撃ち殺せ」

 ノルズは部下に指示を出し、部下はそれに答えて対空砲の下へと走り出した。部下が走って行ったのを見届けたノルズはジスタへの通信を続けた。

「ジスタ、お前の『娘』はどうだ、使えそうか」

「無理。まだ調整不足。人間になって日が浅すぎる」

「そうか。星霊隊の連中が攻めてくる日も近い、備えろ」

「努力はしまーす」

 ジスタは作業をしながら答える。ノルズは雑な答えを返してくるジスタに頭を抱えながら、すぐにでも起きるであろう星霊隊との戦闘に備え、地図を見ながら作戦を練っていた。

(この地形…奴らのやりたいことは想像に難くない…さぁ、次こそは小娘どもに地獄を味わわせてやる…)


 その頃、風花は風に乗って篤那川の上空までやってきた。

「あれが事前に悪魔が壊していった橋…で、あれが篤那川…」

 風花はカメラで写真を撮っていく。

 そのまま風花は川を渡った先の方へと目をやった。

 太い激流の川の途中には、数人程度なら立てそうな中州があり、その中州には橋がかけられている。その橋を渡った先には、安定した陸地があり、平地が広がっている。

「それで…この広場の先に基地があるんだよね…ん…?」

 風花はそのまま基地の上空まで行こうとしたが、その直前に、平地の横にある山と、その山の横に数人しか通れなさそうな細い道があることに気がついた。

「この道、基地に伸びてる…なにか使えそう…!写真撮っておこう…!」

 風花はそう思うと、カメラのシャッターを切り、データに収める。しっかりとカメラの中にその写真が入ったのを見ると、風花は基地の上空を目指して移動し始めた。

「一応この移動過程も、動画にしておいた方がいいかな…」

 風花はそう思うと、カメラで録画を開始する。平野を越えて進んでいくと、基地が見えてきた。

「川を渡ったあたりから録画をしています…この広場を抜けた先、3kmほど先に敵の基地が見えます…もっと上空から映しますね」

 風花はそう言うと、風に乗ってさらに上空へ上がっていく。そうしてカメラに、先ほど風花が見つけた細い道が映るようになってきた。

「上空から映すとこんな感じです…基地のこちら側には平野が広がっていて、横は山で塞がれているので、正面から攻めるのは難しそうな地形です。でも」

 風花が山道の話をしようとした瞬間だった。


 鋭い痛みが風花の腕を掠めた。


「!?」

 風花は痛みで腕を抑える。

「なに!?なんなの!?」

 風花は痛みの正体がわからず、周囲を見回す。そんな風花の脇腹を、何かが貫いた。

「いやあぁっ!!」

 風花は悲鳴をあげて地上に落ちそうになる。同時に、カメラと視線を、風花を落としたその痛みの正体へ向けた。

 基地の近くに設けられた、禍々しくすら見える砲台だった。

(あれ…マシンガン…!?そんな、悪魔はそんなものを使えないんじゃ…!?)

 風花がそんなことを考えていると、その砲台が動き、風花を真っ直ぐに捉える。風花は危険を察知すると、背中を向けて仲間たちの下へ戻ろうと移動し始めた。

(逃げなきゃ…!殺される…!)

 恐怖に押しつぶされそうになりながら、傷を負った脇腹を庇って空を飛んでいく。

 しかし、そんな風花の逆の脇腹を、次の銃弾が貫いた。


「あぁああっ!!」

 

 風が止まり、風花は地面に叩きつけられるようにして落ち、泥にまみれる。

「うぅっ…!」

 風花が痛みを感じている暇もなく、彼女の耳に、なにやら足音が聞こえてきた。風花は顔を上げ、足音が聞こえてきた方へと目を向けると、無数の悪魔たちが迫ってきていた。

「…!!」

「活きのいい女だぜぇ!!」

「霊力取ってやれぇえ!!」

 風花は恐怖で動かなくなりそうな足を無理やり動かし、同時に、霊力で風を巻き起こして空へと飛び上がった。

「おい待てよぉ!!」

「ひぃっ!?」

 空中にいる風花の足を、悪魔はジャンプして掴む。風花はその手を振り払おうとしたが、悪魔の力は強かった。

「やめて!離して!!」

「そう言うなよぉ!!霊力くれよぉ!!」

 風花の足を掴んでいた悪魔は一体だけだったが、徐々に増えていく。


「いやああああ!!」


 風花が絶叫すると、風花も予想だにしないほどの竜巻が起きる。その竜巻で悪魔たちが吹き飛ぶと、風花はその間に全速力で霊橋区へ飛んで行った。



 ものの数分で風花は霊橋区の市庁舎まで戻ってきた。屋上で偵察をしていた六華は、持っていた通信機で全員に報告を始めた。

「風花ちゃん帰ってきたよ!」

 六華はそれだけ言うと、風花の着陸を誘導するために、大きく手を振った。

「風花ちゃん!!こっち!!」

 しかし、六華の誘導も虚しく、風花は市庁舎の屋上ではなく、1階の入り口の扉の前に墜落し、転がり込むようにして倒れた。

「風花ちゃん!!」

 六華は風花の名前を叫びながら、屋上の配管にしがみつきながら地上へ降りる。市庁舎の中から出てきた他のメンバー全員とともに、風花の下へ駆け寄った。

「風花!!しっかりして!」

「珠緒!治療キットを持ってきなさい!!」

 日菜子が風花を抱きかかえ、焔が珠緒に指示を出す。六華、輝夜、稲香が周囲を警戒し、その間に風花は日菜子に話しかけていた。

「日菜子…さん…」

「風花…!」

「偵察できました…カメラに全部入っています…」

 風花はそう言うと、血に汚れた手でカメラを差し出す。日菜子はそのカメラを受け取ると、そのままカメラを美雲に手渡した。

「日菜子さん…私…役に立てましたか…?」

「うん…!完璧だよ…!だからこれからも…!役に立って…!!」

 日菜子は風花の傷を見て、感情的になって叫ぶ。その間に、珠緒が治療キットを持ってやってきた。

「日菜子さん、今治療します!」

「お願い珠緒!!」

 日菜子は珠緒が治療しやすいように向きを変える。

 そんな日菜子の背中から、幸紀がやってきて声をかけた。

「日菜子」

「幸紀さん!風花が…!」

 動揺した様子の日菜子に、幸紀は冷静に言い放った。

「風花の治療は珠緒と焔に任せるんだ。日菜子たちは風花が持ってきたデータを分析するんだ」

「そんな!」

「日菜子にはやることがある。悪魔たちを倒さなきゃならないんだ。そのためには、一刻も早く情報を分析した方がいい」

 幸紀の言葉に、焔も賛同した。

「幸紀の言うとおりよ。ここは私と珠緒に任せて、あなたはみんなと作戦立案を」

 焔からも冷静に説得されると、日菜子は焔に風花を渡して頭を下げた。

「風花をお願いします…!」

「任せて」

 焔はそう言って風花を受け取る。同時に、日菜子は全員に指示を出した。

「六華は偵察を続けて!他のみんなは作戦室に!幸紀さんも来てください!」

 日菜子の指示を受けて、全員機敏に動き始める。焔と珠緒が風花を連れて動いていくさまを、日菜子たちは横目で見ながら作戦室へと向かった。



作戦室

 美雲は風花が使っていたカメラから記録データを抜くと、作戦室の一角にあったモニターに、それを映し出す。薄暗い作戦室で、全員がそのモニターを注目していた。

「順番に映していくね」

 美雲はそう言いながらモニターに映す画像を操作し始めた。

 モニターに1枚目の画像が映る。中州の一方に橋がかかっており、中州のもう片方の橋は壊れていた。

「これは、さっきの調査で見た場所ですよね?」

「そうだね。基地の先の壊れた橋だと思う」

 雪奈の質問に、紅葉が答える。美雲は次の画像を映した。

 2枚目の画像は、画像の中央に山があり、右側に平地があり、その山の左に細い道が見えた。

「この画像はなんでしょう…?」

「中州のあたりから撮ったんじゃねぇかな」

「だとしてこの写真の意図はなんなのかしらね」

 輝夜、稲香、水咲の3人が口々に言う。美雲は気にせず次の画像を映そうとした。

「あ、これ動画だ」

 美雲はそれに気づくと、動画を再生する。モニターから風花の声が聞こえ始め、動画が始まった。

 風花の声が入りながら、動画は上空からの視点になった。

「『上空から映すとこんな感じです…基地のこちら側には平野が広がっていて、横は山で塞がれているので、正面から攻めるのは難しそうな地形です。でも』」

 風花の話を遮るように、動画の中から謎の音が聞こえてくると、動画にマシンガンの銃身が映し出された。

「風花はあれに撃たれたんだ…!」

 美雲は驚いたように呟く。動画はそれも気にせず進み、風花の悲鳴が響いて、地面に落ちると、風花に悪魔が迫る場面で動画は終わった。

「カメラに入ってるデータはこれで全部っぽい」

 美雲はそう言ってモニターの電源を切る。日菜子は部屋の電気をつけると同時に、美雲に礼を言った。

「ありがとう、美雲」

「どういたしまして」

「…」

 日菜子はそのまま浮かない表情で黙り込む。そうしていると、作戦室の扉が開き、焔がやってきた。

「焔さん!風花の容体は…」

「無事よ。深い傷じゃなかったから、しばらく静養すれば大丈夫。念のためお医者様も呼んだから、問題はないと思うわ」

 日菜子に状況を聞かれ、焔は落ち着いて答える。日菜子がひと安心していると、焔は尋ね返した。

「それで、風花が持って帰ってきたデータで何かわかった?」

「いろいろ」

 焔の質問に、美雲が突然答える。全員が美雲の方を見ると、美雲はモニターの電源を入れて話し始めた。

「まずこれ、2枚目のやつね」

 美雲はそう言って山、細い道、平野が映った画像を見せる。

「それは?」

「たぶん中州から見た基地までの風景。で、この次の動画と合わせようか」

 美雲はそう言うと、次の動画を再生し、上空から基地、山、平野、そして細い道が映る場面になったところで動画を停止した。

「画像で映ってた道が、この場面でいうところのこの道。これ、基地の後ろまで繋がってる。この道を使えば、敵を不意打ちできそうじゃない?」

 美雲が言うと、その場にいたほとんどが納得したように声を上げる。しかし、すぐに水咲から美雲に対して反論が飛んできた。

「いいアイディアね。できないけれど」

「へぇ?」

「道がある場所は川の中でも特に激流。ここから向こう岸に渡ろうとすれば、まず流される。さて、どうするのかしら?」

 水咲は嫌味っぽく美雲に尋ねる。美雲が黙っていると、明宵が口を開いた。

「…できますね。水咲さん、あなたの霊力は水を操るもの…私が強化を施せば、一定時間激流を抑えることは可能でしょう」

 明宵は前髪で隠れた目で日菜子を見ながら言う。日菜子はそれに対して頷いたが、水咲は反論を続けた。

「その時間無防備になれと?向こうだってバカじゃない、気づかれるに決まってるわ」

「それじゃあ、囮を出そう」

 水咲の反論に対し、日菜子は提案し、すかさず話を続けた。

「輝夜、紅葉、水咲さん、明宵の4人で細い裏道を目指す。その間に、残りで一斉に正面から攻撃をしかけて、敵の注意を引く。これでどう?」

 日菜子は地図を指しながら言うと、美雲も賛成した。

「アリだと思う。悪魔はリーダーが倒れると弱いから、輝夜たちが倒してくれさえすれば、勝てるね」

「他のみんなはどう?」

 日菜子は改めて全員に尋ねる。否定の意見はなく、全員引き締まった表情で頷いた。

 部屋の隅で壁に寄りかかっていた幸紀も、しっかりと立って日菜子に尋ねた。

「否定意見はないようだ。日菜子、この作戦、いつ決行する?」

「今夜にでも仕掛けたいです」

 日菜子の言葉に、幸紀は頷いた。

「わかった。ならもうみんなは休んで戦いに備えるんだ。俺と侯爵は準備に入る」

「了解です!」

 幸紀がその場を仕切り、日菜子も元気よく返事をする。そして日菜子は全員の方へと振り向き、改めて声を張った。

「みんな!危険な任務だけど、みんなならできるって信じてる!力を合わせて頑張ろう!」

 日菜子が言うと、全員拳をあげて応えるのだった。



同じ頃

 白鷺町のネットカフェで、四葉、ひかり、心愛、二菜の4人は、ひとつのパソコンを囲んでそのモニターを見ていた。

「作戦決行は今夜、らしい」

 ひかりはパソコンのモニターに映っていた星霊隊の会議の結論を聞いて呟く。同じく話を聞いていた心愛も、明るい表情で話していた。

「あれならきっと星霊隊が勝つよ!また少し平和になるね」


「絶対ダメ…!この作戦には穴がある…!」


 四葉は1人真剣な表情で首を横に振っていた。そんな四葉の姿を見て、他の3人は驚いていたが、気にせず四葉は荷物をまとめ始めた。

「四葉ちゃん、どこ行くの?」

 二菜が思わず素で尋ねると、四葉は言葉を返した。

「星霊隊を助けに行く!みんな、手伝って!」

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