第8話 ノルズの侵攻 後編

前回までのあらすじ

 星霊隊に稲香が加入して喜んでいたのも束の間、霊橋区にカザン率いる悪魔軍が侵攻してきた。星霊隊は苦戦を強いられるも、雪奈の強力な霊力により悪魔軍の撃退に成功する。

 しかし、悪魔軍の将軍ノルズはこれすらも計算に入れて作戦を立てていた。



 激戦を終えた星霊隊の女性たちは、市庁舎に仮設された医療室で治療を受けていた。

「いやぁ、みんな散々だったねー」

 美雲が日菜子の腹に包帯を巻きながら話を切り出す。日菜子は傷を抑えながら頷いた。

「でも、みんな、生きててよかったよ。今日が初めてだったって人もいるはずなのに、みんなよく戦ってくれた。本当に感謝だよ」

 日菜子は笑顔でみんなに言う。ほとんどは同意したような表情だったが、風花は俯いていた。

「ご、ごめんなさい…私、怖くて、ずっと空中で逃げ回ってるだけでした…だから、よく戦ってくれたなんて、そんな…」

「初めては、そういうものだと思います。私も、最初は怖くて逃げてましたから…」

 気弱になる風花に対し、珠緒が言う。2人は隣同士で座り合い、小さく微笑みあった。

「そうだよ、次がんばろーぜ、次」

 珠緒の励ましに、稲香もベッドに座りながら言う。そんな稲香の元に、包帯を持った美雲がやってきた。

「稲香、治療するから服脱いで」

「お、サンキュー」

 美雲に言われると、稲香は着ていたシャツを脱ぐ。

 稲香の上半身が露わになった瞬間、何人かが突如として目を逸らした。

「え、どうしたよ?」

「こちらがどうしたって言いたいわよ」

 稲香の疑問に対し、焔が冷静に言い返す。まだわからない稲香に対し、焔は呆れたように言った。

「どうしてあなたはブラジャーを付けてないの。女性としてのエチケットでしょう。もしかして露出狂?」

 焔に言われると、稲香は自分の胸を見る。そして少し赤くなって否定し始めた。

「いや!違うんだよ!オレ、元々男だったからさ、ブラジャーなんて着ける習慣がなくて、しかもこっち来てからもブラがなかったから!」

「せめて手で隠したらどうかしら。はしたないわよ」

 稲香の弁明も気にせず、焔は冷静に指摘する。稲香が隠そうとしたが、美雲がそれを止めた。

「あ、ちょっと、包帯巻くまで我慢して。ブラなら今度一緒に選んであげるからさ」

「すまねぇ美雲。オレ、ブラ脱がすのは得意だけど、着けるのはちっともわからなくてさー」

 稲香のくだらない冗談に美雲が笑っていると、突如として医療室の扉が開き、幸紀が入ってきた。


「日菜子、六華と雪奈だが」


「ちょおおっと待って幸紀さん!!」

 医療室の中の女性陣は大慌てで稲香の姿を隠し、日菜子は幸紀を医療室から押し出して医療室の扉を閉めた。

「はぁ…はぁ…」

「どうしたんだ?」

 息を切らす日菜子に訳がわからず、幸紀は尋ねる。日菜子は首を横に振った。

「いや、なんでもないです。それで、六華と雪奈がなんですか?」

「あぁ、雪奈の方が目を覚ましそうだ。日菜子も聞きたいことがあるだろうと思ってな」

 幸紀は至って真剣に日菜子に伝えると、日菜子も緩んでいた表情が真剣なものに戻った。

「わかりました、ありがとう、幸紀さん!」

 日菜子は幸紀に手短に礼を伝えると、別室で寝ている雪奈の元に走り出す。

 幸紀は廊下で1人になると、自分の端末にノルズからの連絡が来ているのに気づいた。

「…さて、仕事するか」

 幸紀は1人誰もいない倉庫の中に隠れると、事前に作っていた自分の分身に意識を移した。



悪魔軍霊橋区攻撃部隊司令本部 ノルズの自室

 コーキはカザンと共にノルズの前に出頭していた。すでにこの部屋にはノルズの部下と思われる悪魔が2体出頭しており、姿勢を正して立っていた。

「全員揃ったな。カザン、報告しろ」

 ノルズが言うと、カザンは報告を始めた。

「はい、200のうち生き残れたのは30です。序盤は調子良かったんですが、途中から急に氷柱の雨が降ってきて、そのせいでほとんどが死にました」

「下級悪魔がいくら死のうが問題はない。この女の動向について報告しろ」

 ノルズがそう言って、雪奈の写真を端末で見せる。カザンは報告を始めた。

「はい。そいつは建物の屋上に立ってました。急に血走った目になったと思うと、天気も悪くなって、それから氷柱の雨が降り始めました」

 カザンの報告を聞くと、ノルズは満足そうに微笑んだ。

「血走った目、か…ふふふ、これはこれは。予想通り、いやそれ以上の収穫だ」

 ノルズはそう言うと、ポケットから何かの瓶を取り出す。中には錠剤が無数に入っていた。

「これを頼んだ甲斐があったというものだ。さて、早速だが計画を立てるぞ。コーキ!」

 ノルズは錠剤を横に置くと、コーキの名を呼ぶ。コーキは姿勢を正した。

「は。なんでしょう」

「霊橋区における、人間側の防衛設備について報告しろ」

 ノルズに言われると、コーキは机に置かれた地図を指差しながら話し始めた。

「霊橋区への入り口は3つ。その全てに自動で開閉できる、鋼鉄製のゲートが設置されています。仮にそれが機能すれば、攻略には時間がかかるでしょう」

「自動開閉装置は事前に破壊できるな?」

 ノルズは確定事項のように尋ねる。コーキは胸を張って答えた。

「もちろんです」

「では我らは3方向から侵攻し、敵を押しつぶす。コーキ、そうなった場合、雪奈という女1人に1方向を任せる可能性は高いと思うか」

 ノルズは冷静に尋ねる。コーキは様々なことを考えて頷いた。

「非常に高いです」

「よし。作戦は決まった。この場にいる兵は少ないが、戦は拙速こそ最上だ」

 ノルズが言うと、その場にいた4人の悪魔は背筋を伸ばす。ノルズは生き生きとして作戦を伝え始めた。

「コーキ、カザン、ナパス、貴様らに300ずつ兵を与える。それぞれ北、東、西から霊橋区へ侵攻を開始しろ。サネガンは単独で動き、この錠剤を雪奈とかいう女に使え。作戦開始は22時、コーキはその前にゲートの開閉装置を壊しておけ。作戦は以上だ。質問は?」

 ノルズは作戦を通達し、部下たちに尋ねる。部下たちは質問がないと答えた。

「よし、準備を始めろ、作戦開始だ」

 ノルズはそう言ってニヤリと笑う。部下の4人は、敬礼をして去っていった。


 幸紀はコーキから意識を戻すと、ノルズから下された指令を改めて脳内で確認し、動き始めた。



19:00

 市庁舎の会議室を食堂代わりにして、星霊隊の8人と清峰、幸紀は、清峰邸のメイドたちが振る舞う料理を口にしていた。

 戦いの直後ということもあり、話題らしい話題もなく、8人の女性たちは黙々と食事をしていた。

「あのさー」

 そんな中で美雲がふと口を開く。周囲のメンバーたちは一斉に美雲の方を向いた。

「さっきの戦いで私らが勝てたのってさ、雪奈のおかげじゃん?だからさ、改めてみんなで礼を言っとかない?」

 美雲が言うと、何人かが確かに、と声を上げる。しかし、すぐに雪奈が首を横に振った。

「そんな必要ないです!私…怖くて、それで暴走してしまいました…!危うく皆さんのことも…」

 雪奈は俯きながら言う。しかし、すぐに日菜子が慰めた。

「それでも、私たちは助かった。結果としてそれでいいんだよ」

「でも」

「これは命令。気にしちゃだめ。わかった?」

 日菜子が言うと、雪奈は戸惑いながらも、はい、と答えた。

 空気を明るくするために、六華が話を続けた。

「それにしてもさ、雪奈ちゃんの魔法、凄かったと思わない?雪奈ちゃん1人であんなに倒しちゃってさぁ」

 六華の言葉に、稲香も乗っかった。

「そうだよな。雪奈、お前そんなにちっこいのに、霊力はすごいんだな」

 稲香は隣にいた雪奈に笑いかける。雪奈は少し膨れっ面になると、稲香に対して怒り始めた。

「稲香さん、ちっこいは余計です。すぐに成長期が来ますし、そうなったら皆さんみたいな素敵な女性になってみせますから!」

「じゃあ、この中だったら誰みたいになりたい?」

 稲香は雪奈に無茶振りする。雪奈はそれを聞いてひと通りメンバーたちの顔を眺めた。

「えー、私だよねー、雪奈?」

「わ、私みたいなのには、ならない方がいいと思うよ…」

「メイド長みたいな人がいいんじゃないかな…」

「侯爵のようになるべきよ」

 美雲、風花、珠緒、焔が好き好きに言う。雪奈は少し悩むと、正面を向いて堂々と言い切った。


「幸紀さんで!」


 誰も予想していなかった回答に、幸紀は思わず手からスプーンを落とす。そんな状況に女性陣は清峰も含めて大きく笑っていた。



21:30

 幸紀は市庁舎の1室にあるゲートの開閉装置の前までやってきた。

 ボタンが3個ついたパネルで、作業員たちが復興作業の片手間に作ったものなので、簡易的なものだった。

(直接壊すのも芸がないな。外見でわからないように配線を切ろう)

 幸紀はそう思ってズボンのポケットからペンチを取り出し、パネルの前にしゃがみ込んだ。


「そこにいるのは誰!?」


 幸紀の背後から声がする。幸紀はペンチをポケットに戻しながら声のした方へと振り向くと、日菜子が身構えて幸紀を見ていた。

「日菜子か」

 幸紀は平然を装いながら立ち上がる。日菜子も幸紀の顔を見て安心し、構えを解いた。

「幸紀さんか。よかった。何してたんですか?」

 当然本当のことを言うわけにはいかない幸紀は適当に嘘をつき始めた。

「点検だ。またいつ悪魔が攻めてくるともわからない。その時に閉められないと困るからな」

「そうだったんですか。動きそうですか?」

 日菜子に尋ねられると、幸紀は制御装置のボタンを操作する。窓の外に見える3つのゲートが閉まっていった。

「問題なさそうだな」

「はい!」

 幸紀が微笑むと、日菜子も安心したように微笑んだ。

「ところで幸紀さん、ちょっといいですか?」

 幸紀が工作に戻ろうとした瞬間、日菜子が話を切り出す。幸紀は疑われないために話を合わせ始めた。

「ああいいぞ。どうした?」

「さっきの戦いで、霊橋区のボスだったやつと戦ったんですけど、霊橋区の時より強くて…何か作戦はありませんか?」

 日菜子が話している裏で、幸紀は後ろ手でペンチを取り出し、霊力で電気を流していた。

「そうだな…基本的に、悪魔は勢いに乗ると強く、不意を突かれると脆い。だから、感情的にならずに、相手の裏をかく戦い方が重要だ」

「うう…確かに、あの時は稲香が踏みつけられてる姿を見せられて、感情的になってました…」

 日菜子が反省している間にも、幸紀は磁石になったペンチで装置を破壊しつつあった。

(よし、こうやって磁力で装置を狂わせれば、使えなくなるはずだ)

「相手の裏をかくっていうのは、新しい技を見せるっていうのでもできると思いますか?」

 日菜子の質問に対し、幸紀は工作を終えた手を顎に当てながら答えた。

「ああ。有効だろう。だが、すぐ作れそうなのか?」

「まぁ。氷柱の雨が降った時、霊力で少し身を守れたんです。これを応用して、相手の攻撃を受け止めながら反撃する技!とか使えると思いますか?」

 幸紀は日菜子の熱心な態度に内心感心しながら頷いた。

「危険だが、日菜子の素養ならその技も十分使いこなせると思う」

「本当ですか!」

「ああ」

 幸紀に言われると、日菜子は嬉しそうに笑顔を浮かべた。

「ありがとうございます!早速練習してみます!」

「疲れたら寝るんだぞ」

 日菜子は大きな声で返事をする。そのまま日菜子がどこかに去っていくと、幸紀は改めて開閉装置のボタンを操作する。

 静かにゲートが開いていくのを見た幸紀は、ゲートがある程度開いた時点で電流を過剰に流し、開閉装置をショートさせて破壊した。

(これでいい)

 幸紀はボタンを操作してもゲートが動かなくなったのを確認すると、すぐに制御室から外に出た。



21:40

 ノルズの前に900ほどの棍棒やその他の近接武器で武装した悪魔が整列し、さらにその悪魔たちの前には4人の悪魔が立っていた。

 ノルズは大きく息を吸い、悪魔たちに向けて声を張った。

「諸君!これより霊橋区を攻略する!北部や南部の戦線に比べれば簡単な戦ではあるが、気を抜かないように!」

 ノルズの号令に、悪魔たちは声を上げて答えると、カザンが率いる300から出発し、霊橋区を目指して歩き始める。

 ノルズはその様子を見ながら、自分の部屋へと歩き出し、持っていた端末で軍の様子を地図で確認していた。

(ゲートはコーキにより機能しない。そして今回の兵力は昼の5倍ほど。雪奈は薬で黙らせる。全ての敵の手は封じた。我々の負け筋などない)

 ノルズは勝利を確信しながら、地図に青色の点で示される味方の様子を見て、ほくそ笑んでいた。



21:50

 見張り役として屋上で待機していた六華は、少し離れた街から物影が上下に揺れてこちらに向かってきているのを見つけていた。

「…気のせいだといいなー」

 六華はそう呟きながら持っていた双眼鏡でもう一度状況を確認する。すると、夜の暗がりの中でもはっきりと棍棒を持って歩いてきている悪魔の姿が見えた。

「はぁ、やっぱりなぁ」

 六華はそう呟くと、持っていた通信機で報告を始めた。

「六華です!また敵が攻めてきました!」

 六華からの報告が、市庁舎にいた全員の耳に入る。緩やかだった空気が、一気に張り詰めたものに変わると、市庁舎の2階の作戦室にいた清峰が声を張った。

「非常態勢!焔、市内放送で一般市民を避難させろ!珠緒!制御室に行ってゲートを閉めるんだ!」

 清峰の指示に従って焔と珠緒が動き出す。2人と入れ違いざまに日菜子が作戦室に駆け込んできた。

「侯爵!」

「日菜子!敵が攻めてきた!今六華が屋上で見張りをしているところだ」

 日菜子と清峰が会話している間にも、美雲や稲香、風花、雪奈も作戦室に駆け込んでくる。そして、焔の声による市内放送も始まった。

 同時に、日菜子と清峰の耳に珠緒の叫びが聞こえてきた。

「侯爵!ゲートが操作できません!故障していて閉じられないです!」

「なんだと!?」

 日菜子も清峰も、珠緒の報告に驚きを隠せなかった。

「さっき幸紀さんと動くって確認したばかりなのに…!」

「六華、敵の数は!」

 清峰は冷静に六華に尋ねる。六華は双眼鏡で見える棍棒の数と肉眼で見える物影の数を確認した。

「ざっと1000くらいは居そうです!」

「さっきの5倍…!」

 日菜子は聞かされた数字に絶望しそうになる。その数字を聞いた他のメンバーたちも思わず息を呑んだ。

「遅くなりました」

 幸紀が焔や珠緒と共に作戦室に入る。清峰はそれを見て六華に返事をした。

「わかった、今後も動向があり次第報告してくれ!」

「了解です!」

 六華の返事を聞くと、清峰と星霊隊のメンバーたちは机に広げた地図を見下ろした。

「状況を確認する。悪魔軍が1000ほどの軍勢で攻め寄せてきている。さらには、ゲートも全て開いたままで、ここから操作はできなくなっている」

 清峰が現状を確認すると、星霊隊のメンバーたちは緊張した様子で地図を見る。そんな中、六華からの通信が入った。

「六華です、敵が3つに分かれました!3方向から攻めて来そうです!」

「そう来たか…あとどれくらいでこちらに着きそうか?」

「早い部隊はあと15分で来ると思います!東側です!」

 清峰は六華からの報告を聞き、地図の上に敵を模した赤い磁石を置いた。

「報告ご苦労」

 清峰は六華との通信を終える。幸紀は緊張している様子の星霊隊のメンバーたちを見て、1人冷静だった。

(すまんな。今日がお前たちの最期だ)

 幸紀がそう思っていると、日菜子が声を張った。

「皆で分担して、手動でゲートを閉めましょう!そうすれば、たとえここを奪われたとしても作業員の人たちを逃す時間は作れると思います!」

「しかし日菜子、それは…一歩間違えれば君たち全員が全滅することにもなるぞ」

「私たちは覚悟の上です!それでも皆を守るのが、星霊隊の仕事ですから!」

 清峰に忠告されても、日菜子は力強く言い切り、他のメンバーたちの表情を見る。他のメンバーたちも、日菜子と同じように覚悟を決めた表情をしていた。

「侯爵は作業員の人たちの避難誘導をお願いします!美雲、作戦考えて!」

「任せて、お姉ちゃん!」

 日菜子と美雲は明るくやりとりする。清峰は、日菜子の言葉に深く頷いた。

「それでは…ここを君たちに任せる」

「はい!」

 清峰は日菜子にそう言うと、作業員たちを避難させるために、作戦室を出て走り始めた。

 同時に、美雲が日菜子の方へ向いて話し始めた。

「お姉ちゃん、部隊を分けよう。西側のゲートは壊れてて入られたらまずいから、雪奈のさっきの魔法をアテにしたいな。どう?」

 美雲はそう言って雪奈に尋ねる。雪奈は緊張した面持ちで頷いた。

「はい!今度は暴走しません!頑張ります!」

 雪奈は真剣な意志を示す。美雲はそれを見ると、日菜子に話を続けた。

「残りは二手に分かれてゲートを閉めにいく。東側の敵が先に来るって話だから、足が速い人がいいかもね」

「わかった。じゃあ、私と、稲香と風花で行くね。残りは北側のゲートをお願い!行くよ!」

 日菜子が言うと、星霊隊のメンバーたちはおう!と声をあげて答え、それぞれ走り始める。しかし、日菜子は幸紀に気づくと、幸紀にも指示を出した。

「幸紀さんも協力してくれますか?」

「もちろんだ」

「じゃあ、状況に応じて、危険そうなところには手を貸してあげてください!怪我してても動ける範囲でいいんで!」

「了解した。危険な時には呼んでくれ」

「はい!」

 日菜子は幸紀と言葉を交わし、稲香、風花と合流して東側のゲートを目指して走り始めた。

 作戦室で1人になった幸紀は、日菜子や他のメンバーたちが目的地まで走る姿を窓から眺めていた。

(あの女たち、他人のためにこんな死地に飛び込むか…やはり、悪魔とは価値観が違うのだな)



 雪奈は屋上にやってくると、先にやってきて偵察役をしていた六華と合流した。

「雪奈ちゃん!私ら西側だよね?」

「はい!よろしくお願いします!今度こそみなさんの役に立ちますので!」

「うん!一緒に頑張ろう!」

 六華と雪奈は明るくやりとりして2人とも持ち場に着く。雪奈が西側のゲートの方へ身構え、六華は双眼鏡で偵察を続けた。


 日菜子、稲香、風花の3人は、東側のゲートに辿り着いた。しかし鋼鉄製の高さ3mのゲートは開いたままで、このままでは敵を防ぐ役割を果たせそうになかった。

「稲香、そっちのを!」

「おう!」

 日菜子と稲香は互いに別々のゲートの片方ずつを持つと、重いゲートを引っ張って閉め始める。

「風花…!上空から見張ってて…!」

「はいっ!」

 日菜子はゲートを閉めている間、風花に指示を出す。風花はその指示に従って風を纏って空へ飛び上がった。

 空に飛ぶと同時に、風花は声を上げた。

「日菜子さん!敵が近いです!あと100mくらい先にいます!」

「もうそんなに近づいてるの!?」

 日菜子は思わず声を上げる。稲香はゲートを閉めながら日菜子に尋ねた。

「どうすんだ日菜子!ゲート閉めるのは間に合わないんじゃ…!」

 日菜子はゲートを閉めながら周囲の状況を確認する。

「ゲートを閉めるのは中断!ここで戦う!」

「正気ですか!?」

「ええ!ゲートの内側で戦うよりも、外側の方が道が狭い分囲まれない!2人とも、力を貸して!」

 日菜子は風花に否定されそうになるが、自分の意見をはっきりさせる。日菜子の強い意志を秘めた声を聞くと、稲香と風花はそれに従った。

 敵の足音が近づいてくる。日菜子はそれにめげずに、稲香と風花の2人に声を張った。

「さっきの戦闘とは違う動きをして!悪魔たちは想定外のことには弱いから!」

「了解!」

 日菜子の言葉に、稲香と風花が答えると、カザンの声が日菜子たち3人の耳に聞こえてきた。

「進軍てぇーし!」

 日菜子と稲香は少し離れた正面から歩いてくるカザンを見て身構える。カザンの背後には大量の悪魔たちが控えていた。

「また会ったなァ!星霊隊の桜井日菜子!!」

 カザンは余裕たっぷりに日菜子たちの方に歩きながら語りかける。何も言わない日菜子に対し、カザンは棍棒をくるくると回しながら挑発し始めた。

「昼間、散々俺たちにいじめられたのに、まだやろうってんだな!バカだなぁ!」

 カザンが大笑いすると、部下の悪魔たちも合わせて大笑いする。稲香が感情的になりそうになるが、日菜子はそれを制止して言葉を返した。

「バカはそっちじゃない?1回勝てそうになったくらいで調子に乗ってさ。次負けるのは、あなたたちだよ」

 日菜子はカザンに対して煽り返す。カザンの表情から笑顔が消えると、カザンは部下を怒鳴りつけた。

「野郎ども!このバカ女を片付けろ!!」

 カザンの号令で50ほどの悪魔たちが日菜子を目掛けて走り出した。道が狭く、5体で横1列になりながら迫ってきていた。

 瞬間、日菜子は叫んだ。

「風花!」


 日菜子の掛け声に合わせて、風花は日菜子と悪魔たちの間に急降下して着地する。そして、自分の得物であるギターを力強く一度だけ掻き鳴らした。

 巨大な竜巻が巻き起こり、日菜子に迫っていた悪魔たちは一斉に宙に浮いた。


「稲香さん!」

「おっしゃ!」


 風花がその場から飛び退くと、稲香が風花の残した風に乗って、ちょうど風で浮いていた悪魔たちが落ちるところを目掛けて、巨大な電撃を纏った左ストレートを放ち、すかさず右アッパーを振り上げて、雷を悪魔たちに落とす。

 悪魔たちは空中で痺れて動けなくなっていた。


「日菜子!」

「任せて!」


 日菜子は稲香の声に合わせ、稲香の肩を踏んで空へジャンプする。そしてその場に残っていた雷を右手に纏わせると、目の前にいた敵の一体を捕まえ、そのまま地上のカザンを目掛けて急降下し始めた。


「なんだ…!?」


 カザンは恐怖で咄嗟にその場から逃げる。


 日菜子が敵の集団の中に着地すると、雷が周囲へ飛び散り、悪魔たちを一気に黒い煙に変えた。

「ナイスコンビネーション!」

「お見事です!」

 稲香と風花がハイタッチをする。この3人の連携に巻き込まれた87体の悪魔たちが黒い煙になっていた。

「お、おい、人間たちってあんなに強いのかよ!」

「えぇ!協力できれば悪魔なんか敵じゃない!」

 うろたえる悪魔たちに対し、日菜子は更に言い切る。そんな日菜子に対して戦意を失った悪魔たちが逃げ始めた。

「ダメだ!勝てっこねぇ!逃げるぞ!」

「お、おい待て!お前ら!」

 カザンは部下を止めようとするが、それも虚しく部下たちは逃げ始める。逃げなかった悪魔はカザンに指示を求め始めた。

「カザン様!ご指示を!早く!」

「こんにゃろう!自分で考えて動けってんだよ!アイツらを殺せ!早く!」

 カザンはイラ立ちながら部下を怒鳴りつける。そんな様子を見た日菜子は、稲香と風花に考えを伝えた。

「悪魔は指揮官がいないと弱いみたい。私が敵のリーダーを狙うから、雑魚はお願い!」

「任せろ!」

「了解です!」

 日菜子は指示を出すとカザンを目指して走り出す。途中に悪魔が何体か日菜子を止めようとするが、稲香の拳や風花の風によるカマイタチが飛び、黒い煙に変わっていく。

 日菜子はカザンまであと5歩の距離までやってくる。

「来るんじゃねぇ!!」

 カザンはトラウマが蘇りながら、恐怖心のままに棍棒を日菜子の脳天に目掛けて振り下ろす。

 しかし、日菜子はそれを回避せず、脳天に霊力を集中させ、小さなバリアーを作ると、その棍棒を受け止めた。

「なにぃっ!?」

 日菜子の見たことがない技により、カザンは完全に動揺しきった。


「『春雷拳しゅんらいけん!』」


 攻撃中の無防備なカザンの脇腹に、日菜子の強烈な右ストレートが叩き込まれる。日菜子はその拳でカザンのボディを貫くようにして拳を振り抜いた。


「うぐぅああああ!!!」


 カザンは大きく吹き飛び、地面に大の字になって倒れる。その様子に、悪魔たちは一斉に混乱し始めた。

「カザン様がやられちまった!どうすりゃいいんだ!?」

「逃げろ!勝ち目なんかねぇ!!」

「おい待て!戦え!女なんか囲んじまえ!」

 悪魔たちの間でさまざまな意見が飛び交う。その間にも、稲香や風花は混乱して無防備になった悪魔たちを攻撃して黒い煙に変えていた。

「ク、クソォ、覚えてろ!!」

 カザンは日菜子にそう言葉を吐き捨てると、日菜子に背を向けて走り出す。

「カザン様!待ってください!」

 悪魔たちは逃げるカザンを追うようにして共に逃げ始めた。


 悪魔たちが逃げていく後ろ姿を見て、日菜子は稲香と風花に頭を下げた。

「ありがとう!2人のおかげで勝てたよ!」

「いや、オレじゃなくて風花だよ。お前、あんなでっけぇ竜巻起こせるんだな」

 日菜子に言われ、稲香は風花を小突く。風花は照れくさそうに顔を隠した。

「そんな…普段役に立てないから…でも、日菜子さんが指示を出してくれたおかげで、頑張れました」

「これからもお願いね、風花!」

 日菜子は風花の肩を握って頼む。風花は日菜子の言葉に力強く返事をした。



 同じ頃、市庁舎の屋上では、六華が偵察を行い、さらに各方向からの報告を受け取っていた。

「焔です。北側のゲートの封鎖完了。このまま敵を待ち伏せます」

「日菜子です!東側の敵は撃退しました!」

 日菜子の報告に、思わず六華も驚きの声を上げた。

「六華です!まず、日菜子さんたち、お疲れ様でした!で、焔さん!北側の敵はもうすぐ来ると思います!西側はまだ少し時間がありそうですけど、私と雪奈ちゃんで上手くやります!」

 六華からの報告を聞き、日菜子も焔も短く返事をする。六華と雪奈は目を合わせると頷き合った。

「私たちももうすぐ出番だよ!頑張ろうね!」

「はい!」

 雪奈と六華は明るくやり取りをする。雪奈は西側のゲートに体を向けると、目を閉じ、ステッキを握って集中し始めた。

 その瞬間、屋上の物陰から悪魔の1人が躍り出ると、一気に雪奈の背後に回り込む。六華は足音を聞いて雪奈の方に振り向いたが、その時には遅かった。

「雪奈ちゃん!!」

 六華が絶叫する。悪魔は雪奈を羽交い締めにすると、背後から雪奈の口に何かを押し込んでいた。

「飲め!飲み干せ!」

 悪魔は邪悪に言う。雪奈は抵抗しようとしたが、それもかなわずに、何かを飲まされた。

「こんのぉ!!」

 六華は握っていたライフルを悪魔の眉間に向けて引き金を引く。銃弾を浴びた悪魔は、雪奈を離し、よろめきながら屋上から飛び降りた。

「『トラックシュート』!」

 六華は技の名を叫びながら銃の引き金を引く。放たれた銃弾は、逃げようとする悪魔を追跡し、その悪魔の後頭部を貫いて黒い煙に変えた。

 敵を倒したのを確認した六華は、すぐさま雪奈の方に駆け寄る。雪奈は苦しそうに咳き込み続けていた。

「雪奈ちゃん!大丈夫!?」

 六華は雪奈の背中をさする。雪奈は咳き込みながらも顔を上げた。

「大丈夫です…ごふっ、六華さん…うっ…!!」

 瞬間、雪奈がうめき声を漏らしながら下を向き、膝をつく。六華がそれを抱き抱えた瞬間、雪奈は顔を上げた。

 雪奈の瞳孔は大きく開き、顔は赤くなり、正気を失ったような表情で六華を睨んだ。


「うわぁあああああ!!!」


 雪奈の咆哮にも似た叫び声が夜空に響くと、同時に、雪奈の周囲から無数の氷柱が上空へと飛んでいく。

「雪奈ちゃん!?」

 声をかけた六華を、雪奈は軽く突き飛ばす。しかし、それでも雪奈の力は尋常ではなく、屋上の縁まで六華は吹き飛ばされた。

 雪奈は相変わらず叫び声を上げながら、四方八方へと氷柱を乱射する。この様子を見た六華はすぐさま日菜子に連絡を入れた。

「日菜子さん!六華です!雪奈ちゃんが暴走してます!これじゃ西側は守れないです!」

「っ!わかった!私たちで西側を守る!六華は雪奈の暴走を抑えて!」

「わかりました!」

 六華は日菜子からの指示を受けて、通信を切る。そして、目の前で暴れ狂う雪奈に対し、銃を後ろに回して向き合った。

「苦しいんだよね、雪奈ちゃん。すぐ助けてあげるから!」

 六華は覚悟を決めると、雪奈に向けて走り始めた。




 同じ頃、北側のゲートの外側で待機していた焔、美雲、珠緒の3人も、雪奈が虚空に向けて放つ氷柱を目撃し、六華と雪奈の通信も聞いていた。

「雪奈さん…すごい危険な状態みたいです、助けに行ったほうがいいんじゃ…」

 珠緒が焔と美雲に言う。しかし、美雲は少し考えてから首を横に振った。

「いや。私が敵だったら、私らがいないタイミングでゲートを抜ける。だからここは離れちゃダメだね」

「あら、あなたと意見が一致するとは思わなかったわ」

 美雲の冷静な言葉に、焔が感心したように言う。美雲はすぐに冗談めかして答えた。

「あはは、私も。年の割に頭柔らかいね、おばさん」

「私はまだ24よ、小娘」

 焔と美雲が言葉を刺しあっていると、それを笑う大声が響く。3人がそちらを見ると、コーキを先頭とした悪魔たちが整列して立っていた。

「ご歓談中申し訳ない。ここで会話も、お前たちも、終わりだ」

 コーキは冷酷な声で言う。美雲は鋭い表情になって焔に忠告し始めた。

「焔さん気を付けて。コイツ強いよ」

「ええ、よく知ってるわ」

 美雲の言葉に対し、焔はあっさりと答える。同時に、焔はコーキの前に出た。

「だからこそ、私がコイツと戦う。2人には他をお任せするわ」

「でも」

 反論しようとする美雲を、珠緒が止める。コーキも焔を見てニヤリと笑った。

「ふっ、粋がるのもそこまでだ!」


 コーキは凄まじい速さで焔に急接近すると、日本刀を抜いて焔の首を狙う。

 しかし焔はそれを右手に霊力を集中させて受け流し、蹴り返す。

 コーキはすぐさまそれをかわし、目にも止まらぬ速さで何度も刀を振るうが、焔はそれらを霊力を纏わせた腕や足で全て受け流していた。


「すごい、焔さん、あの悪魔相手に五分で戦えてる…!」

 驚く美雲に、珠緒が語った。

「メイド長は、本当だったらリーダーを任されるほどの実力者なんです。怪我さえなければ並の悪魔が束になっても、絶対に遅れを取らない…でも、そんなメイド長でも五分にしかならないのがあの悪魔なんです…!」

 珠緒が語る間にも、焔とコーキは激しく打ち合い、そして距離を取った。

「ちょっとは強くなったみたいだな、小娘」

「お褒めに預かり光栄だわ」

「かかれ!」

 コーキと焔が短く言葉を交わすと、コーキは後ろに控えていた部下の悪魔たちに指示を出す。悪魔たちは声を上げながら美雲たちを目掛けて走り始めた。

「こっちもやるわよ」

「はい!」

 焔の掛け声で、美雲たちも悪魔に対して身構える。

 激しい悪魔たちとのぶつかり合いが始まった。




 その頃、日菜子、稲香、風花の3人は西側のゲートに辿り着いていた。正面から迫ってくる悪魔たちの影が見えており、戦闘開始は時間の問題だった。

「風花!上空から敵部隊の後ろに回り込んで!合図があったら敵を襲って!」

「合図って?」

「悪魔の悲鳴さ!」

 日菜子と風花の会話に稲香が加わる。日菜子も、稲香の言葉に賛成すると、風花は指示通り風に乗って上空へとジャンプした。

「さて、やるよ、稲香!」

「っしゃぁ!」

 日菜子と稲香は快活にやり取りすると、正面から迫ってくる悪魔の集団へと走り始めた。

 悪魔の集団のリーダーであるナパスは、集団の先頭にいて日菜子と稲香が走ってくるのを見て、後続の部下達に声を張った。

「敵は2人だ、ゆけぇ!」

 ナパスの指示に従い、悪魔たちは日菜子と稲香たちへ走り出す。しかし、道が狭いために一度に襲いかかる悪魔の数は多くなく、日菜子と稲香はそれをものともせず悪魔たちを殴り倒し始めた。

「仲間の死を気にするな!敵はたったの2人!休む間を与えず囲み込め!」

 ナパスは日菜子と稲香が徐々に近づきつつある中でも一歩も引かずに部下の悪魔たちに指示を出し続けた。

 そんなナパスの耳に、背後から部下の悲鳴が聞こえ始めた。

「なにっ!?」

 ナパスが振り向くと、巨大な竜巻が部隊の背後から迫ってきており、既に何人もの部下たちが空へと巻き上げられていた。

「くっ…構うな!正面を突破する!全軍、生き延びたければ前へ進め!」

 ナパスは腰に提げていたサーベルを抜いて前を示す。しかし、そんなナパスにも、稲香が肉薄してきた。

「覚悟しな!」

 稲香は低い姿勢で一気にナパスに近づくと、左のアッパーカットを放つ。ナパスはサーベルでそれを受け止めたが、稲香の一撃でガードが崩れた。

「『雷光掌底らいこうしょうてい』!」

 すかさず電撃をまとった右のストレートがナパスのボディに突き刺さる。

「ノルズ様…!申し訳ありません…!うわぁああっ!!」

 ナパスは懺悔の言葉を言いながら、黒い煙になる。瞬間、悪魔たちの間で激しい動揺が流れた。

「ナパス様がやられた!」

「そんな!」

 悪魔たちは動揺して動きが遅くなる。日菜子はその様子を見て、声を張った。

「さぁ、片付けるよ!」



 西側のゲートの敵が殲滅されたころ、六華は暴走する雪奈を抑えようと格闘戦を仕掛けていた。

「落ち着いて、雪奈ちゃん!」

 六華は雪奈を羽交い締めにする。しかし雪奈は暴走したままで、六華の腕の中で暴れながら虚空に向けて氷柱を放っていた。

 六華はそんな様子の雪奈を見て、あることを思いついた。

(雪奈ちゃんが氷を撃つ瞬間、敵の方に向ければ…!)

 六華はそう思うと、雪奈を羽交い締めしながら通信機に声を張った。

「六華です!焔さんたち、ゲートの陰に隠れて!」

 六華がそう言っていると、雪奈の周りに氷柱が浮かび始める。六華はここだと思った。

「ごめんね!」

 六華は無理矢理雪奈の体を北側のゲートに向けさせる。そして後ろ髪を掴むと、北側ゲートに集まる悪魔たちに目線を向けさせた。

 瞬間、氷柱が発射され始める。その方向は、雪奈の目に映る悪魔たちの方向だった。



 焔、美雲、珠緒の3人は、悪魔たちとの戦闘を中断すると、ゲートの陰に隠れる。

 その瞬間、市庁舎の方から飛んだ青白い氷柱の雨が、無数の悪魔たちを貫いていた。

 ほとんどの悪魔たちは抵抗できずに黒い煙に変わる中、コーキだけは自分に飛んでくる氷柱を日本刀で斬り伏せ、悪魔たちの数を確認した。

「だいぶ減ったな…」

 コーキは雪奈の方を見上げる。どうやら雪奈は気絶したように、コーキの目には映った。

(さて、どうする、ノルズ)

 コーキは残り少ない自分の部下を抑えながら、じきにくるであろう通信を待つ。

 その通信は、コーキの想像よりも早くやってきた。コーキはポケットから端末を取り出し、自分の耳に当てた。

「はい、コーキです」

「ノルズだ。これより、撤退を指示する。繰り返す、現時点を以てそこから全軍を撤退させろ!」

「…かしこまりました」

 コーキはノルズからの指令をハッキリ聞くと、持っていた端末をポケットに戻す。

 そして焔と睨み合うと、コーキはニッと笑った。

「命拾いしたな、小娘」

 焔は片眉をあげて得意げな顔をする。コーキは部下たちに命令した。

「撤退だ!急げ!殿軍しんがりは俺がやる!」

 コーキの指示に従って悪魔たちは逃げていく。コーキはそんな悪魔たちの最後尾に立ちながら、焔たちを警戒しつつ去っていった。


「…防衛成功ね」

 焔が呟くと、美雲と珠緒は疲れがどっと押し寄せ、膝から崩れ落ちる。そんな様子を見た焔は、通信機で報告を始めた。


「こちら北側ゲート。敵は撤退しました」

「作戦成功です!みんな、お疲れ様でした!」


 日菜子の声が通信機から響く。星霊隊の女性たちは、その声に微笑むと、ゲートの内側へ戻っていった。

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