第13話 フラン村

 

 冒険者として初の依頼を受けた俺たち一行は、魔導機に乗ってモンスターの被害があったという村へと向かっていた。



「ねぇ、ロロルさんや。この魔導機、知らないうちに座席が増えてませんかね?」


「あら、今頃気付いたの? 最新式のこの魔導機は、使用者の意図に合わせて自由に変形できるのよ。まぁ積載量が増えれば必要なエネルギーも増えるけど」



 MDマジックディスクの音楽を大音量で聴きながら、アクセルベタ踏みで魔導機を飛ばすロロル。


 周囲の景色があっという間に過ぎ去っていく。体感的に時速百キロは優に超えていると思うんだけど……こんなにスピードが出てるのに、ロロルは平気でよそ見をしていたりするので、どうしても運転に不安を覚えてしまう。


 ……もしこの乗り物が免許制だったら、間違いなくロロルは落ちている気がする。そのうち事故を起こしてしまうんじゃないか?


 などと考えていると、進行方向に人影が飛び出してきた!




 ――ザシュッ!!!




 あっと声を出す間も無く。

 その人型モノは何かに上下に切断され、魔導機がその上を通り過ぎた。



「ロロルさぁぁぁあん! いた! 今誰か轢いたよね!? ど、どうしよう。警察? 今なら証拠隠滅できるか? い、いや、轢いたのは俺じゃない。俺は悪くない悪くない悪くないぃぃい!!」


「うっさいわね! 今のはモンスター! ゴブリンよ。それに轢いてないわ。MDを射出して斬り殺したのよ」


 は? え? MDを飛ばした?


「私専用にカスタマイズしたこの魔導機には、各種戦闘システムが搭載されているわ。今のはMDを高出力で飛ばしてダメージを与えるシステムよ!」


 MDってただの音楽用ディスクだよね? モンスターに当たったのに、ブチ抜いてそのまま消えていったよ?


「ふえぇっ異世界こわいよぉぉ」


「ちっ、ふぬけ勇者が!! ほら、いいからジールお金を回収してきなさい! もちろんMDもよ! お気に入りのヤツだったんだから!」


「勇者使い荒すぎィ!」




 ◆◆◇◇


 そんなこんなで無事(?)に初戦闘(?)をこなした俺たちは、依頼のあった村に到着した。



「ククックー。ようこそフラン村へ。ワシは村長のディカプリオ・ディ・デル・ピロール・ダ・フランですじゃ。クルルッ」


「(なんだか子泣き爺みたいな奴が来たんですけど……)」


 依頼者がいるという家に向かうと、そこにはハゲた小さい爺さんが居た。


「実はコイツが村を襲うモンスターなんじゃなかろうか(ヒソヒソ)」

「ちょっと、失礼でしょ! ……気持ちは分かるけど(ヒソヒソ)」


 ていうか名前なげーよ、ダ・ヴィンチの本名かよ。

 ピカソよりも短いからまだいいけど。

 ていうかその語尾どうなってるんだよ。



「初めまして、依頼を受けて冒険者機関から参りました、アキラと申します。早速ですが、詳細を伺ってもよろしいでしょうか?」


「ククッ。ご丁寧にどうもですじゃ。ではさっそく……」



 村長の話によると、十日ほど前からこの村で飼育している香辛鳥こうしんちょうが、数羽ずつ飼育小屋から忽然こつぜんと消えたそうだ。


 もちろん戸締りはしっかりしていたし、盗賊やモンスターがやってきた気配もない。香辛鳥はこの村の大事な特産であるため、村人たちで相談して機関に調査を依頼することにした――ということらしい。



「つまり、香辛鳥が居なくなった原因は分からない、と?」


「クククッ。申し訳ない限りですじゃ。小屋の前に見張りを立てても、朝には香辛鳥が居なくなっているのが現状で……」


 くるるる……としょんぼりする村長。

 いや、しょんぼりされても可愛くないし。

 "〜じゃ"なのか"ククク"なのか口調がハッキリしない爺さんだな、という言葉は心の中にしまっておく。



「取り敢えず、現場を見せてくれますか? その香辛鳥というのも見てみたいですし」


「おぉ、どうぞ。こちらですじゃ。クルック」



 案内されたのは小屋と言うより、大きな馬小屋だった。てっきり鶏小屋を想像していた俺は驚いたのだが、それよりも実物の香辛鳥を見て驚いた。


「うーっわぁ! でっかいなーー!」



 それはダチョウほどの大きさの巨鳥だった。

 白く立派な脚に、まつ毛が長くキリッとした目、鋭いクチバシ。相手は鳥なのに、なんだかイケメンに見えてくる。



「ふぉー! カッコいいなぁ! チョ○ボみたいだ! 乗れたりするのかな?」


「今はゴーレム馬車があるから乗る人は少ないけど、昔はよく馬代わりに乗っていたわよ」


「すっごく大きくて立派です〜! アキラ様よりカッコいいであります!」


 人の言葉を理解しているのか、くるるる!と得意顔をする香辛鳥。ヤバイ、可愛い。



「この鳥は今では食用として育てておりますじゃ。卵はもちろん、食肉としても出荷してましての。特にコイツの肉は塩や調味料が無くても、焼くだけで美味しいのでこのような名前が付けられたそうですじゃ。クルルル」


「へぇ……ちょっと食べてみたいな」


「くるるッ!? くるるるるる!!!!」



 俺が食欲に満ちた目で見つめると、香辛鳥達が怯えた声で抗議する。あはは、冗談だってば。……たぶん。



「なんだか、アンタの方がモンスターより害悪な気がしてきたわ……」





 ◆◆◇◇


 一同は早速、小屋の中を調査しながら話し合い始めた。



「うーん、特に変わった物は無いんだよなぁ」



 餌箱や寝床を退かしたら抜け道があったり――なんてことは無さそうだ。



「そうねぇ、世話や見張りの人以外は立ち入らないって言うし」



 出入り口の扉はしっかりかんぬきで施錠でき、モンスターは入れそうにない。



「小屋の外には森しかないであります〜」



 木窓のわずかな隙間から外を確認していたリタがそんなことを言う。



「うぅーん。小屋の確認は一度これくらいにして、今度は村の人達に聞き込みをしてみようか」


「そうね、そうしてみましょう」



 フラン村は人口六十人ほどの小さな村だ。それでも子供達が広場で遊んでいたりして、賑やかで楽し気な雰囲気のある良いところだ。

 その広場で聞き込みをしていると、男の子と追いかけっこをしていた女の子が転んでしまったのが目に入った。



「ゔ、うぇーん。痛いよぉ……」


「おい、ココ! 大丈夫か?」


 どうやら足を怪我してしまったようで、女の子は泣いている。俺は慌てて駆け寄ろうとするが、その前にロロルが飛び出した。


「あら、おちびちゃん。怪我したの?」


 ロロルのやつ、どうする気だ?


「貴女はココって名前なのね? ホラ、この飴玉あげるから泣かないで。……ちょっと傷口見せてね」



 普段は見せない優しい口調で語り掛けるロロル。そしてカバンから水筒の水を取り出し、少女の擦り剥いた膝にかけ砂を落とす。そこへさらに清潔なハンカチで巻いてあげた。



「これでよし、と。後は『痛いの痛いの、飛んでけ〜』はい、これでもう大丈夫よ!」


「わぁ! 痛くなくなった! お姉ちゃんありがとう!!」


「良かったわ、もう転ばないように気を付けてね?」


 女の子は「はぁい!」と元気よく答えると、てててて〜と元気よく走って行ってしまった。



「……ロロルって意外に面倒見が良いんだな」

「おほほほ、私を女神様と讃えるがいいわ! ……なんてね。まぁ子供の扱いにちょっと慣れてるだけよ」


 へぇ、そうなのか。

 思っていた以上に処置も慣れていたし、そういう一面もあったんだな……。


「いやはや、ウチの子らがご迷惑をお掛けして申し訳ないです」

「うわっ、ビックリした……あなたは?」


 女の子たちを眺めていると、背後から全身真っ黒の服を着た大男が話しかけてきた。


「クククッ。失礼。僕はさっきの子供達の親で、クロウと言います。ご丁寧にハンカチまで使っていただいたようで、ありがとうございました。僕は香辛鳥小屋の見張り役でして。村長から冒険者の方が聞きたいことがあると伺ったので参りました。クルルルゥ」


「そ、そうなんですか」


 でも何故そんな真っ黒な姿なんだろう。

 夜の見張りで見つかりにくくするとかかな。


「そうだ。この村は宿も無いので、良かったら今夜はウチに泊りませんか?」

「え、いいんですか?」

「もちろんですとも! 先程のお礼もしたいですし。僕の奥さんの手料理は美味しいですよ~?」

「おぉ、それは楽しみだ!」


 こうして俺たちはクロウさんの家にお世話になることとなった。夕飯も自慢するだけあって、奥さん手作りの絶品香辛鳥料理を頂くことができた。


 なお、クロウさんにも犯人についての目星を聞いてみたのだが、手掛かりとなるような情報は得られなかった。


「ここまで調査をしても分からないのなら仕方がない。自分の目で確かめるしかないか……」


 日が落ち草木も眠る頃。俺たちは香辛鳥のいる小屋の中で息を潜め、標的が直接やって来るのをひたすら待つのであった。


 そして――。

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