第12話 深夜の訪問者
「いらっしゃいませ〜」
「「「いらっしゃいませ!」」」
……なんかこう、思ってたの違う。
冒険者の溜まり場って、ウェスタンなスイングドアがあって、中にある酒場では男共が野卑な声をあげているイメージがホラ、ね?
それに職員さんのあまりにも揃った挨拶具合が、そこはかとなくブラックな雰囲気を醸し出してるんだけど……。
「「「私どもは誠実・迅速・正確に、がモットーです!!」」」
「俺の心の中を読まないでくれないかな?!」
「これは会員の皆様が求めるサービスを提供するための必須技能ですので! もちろん、あなたがココにいらしてまず最初に私の胸から見ていたのも分かっておりますよ?」
受付の人の一言で、ロロルやリタの冷たい視線が俺に突き刺さる。
「ごほんごほんごほん!! 素晴らしいム……じゃなくて社員教育ですな! そ、それで、登録に来たんだけど、受付はここで大丈夫ですか?」
「はい! こちらになります! ちなみに胸の次は足を舐めつけるように見「わーーー! 見てない! 見てないから!!」……冗談でございますよ?」
「アンタ何しに来たのよ……」
「サイテーですぅ」
◆◆◇◇
「ではまず登録をするにあたって、当機関についてご説明致しますね!」
――冒険者機関。
長いので普段は"機関"と略されて呼ばれており、世界各地に支部が存在する。
基本的に冒険者の会員登録はどこの支部でも可能で、登録者の情報はすべて共有されているらしい。そして会員ランクは貢献度によって上からプラチナ、ゴールド、シルバー、カッパー、コーブルと分類されているんだとか。
「今回初めての登録ということで、アキラ様は
モンスターを始め、この世の動物は死ぬと魔力の貯まった
「ちなみに各依頼によって達成ポイントが設定されておりますので、ポイントを貯めて冒険者ランクを上げてくださいね。ランクが上がれば報酬の高い依頼も受けられますので」
ベテランともなれば国からの依頼も舞い込み、難易度に見合った報酬が得られる。
ちなみに一番上のプラチナランクは、現在では三人しかいないそうだ。常に依頼が殺到しており、今も世界のどこかで活躍しているという。
その三人は国家権力並みの権限を持つので、国や機関はかなり扱いに困っているんだとか。
◆◆◇◇
こうして無事に登録を済ませた俺たちは、機関の施設をあとにする。
「あの受付さんたち、最後まで俺に冷たくなかったか?」
「そう? アンタがエロい目で見ていたのがいけないんじゃない?」
「ボクもあの人たちみたいな読心スキルがほしいですぅー」
そんな会話を交わしつつ、俺たちはリタの紹介で質素ながらも清潔な宿を取ることができた。
宿泊料金はそこそこ値が張ったが、女将の作る手料理は絶品だった。
綺麗好きな俺としては、風呂が無いのが残念だったが……野営とは比べ物にならない快適さだ。
ちなみに、俺は女性陣とは別室に隔離されてしまった。
まぁ、昼間の態度を見れば当然か……。
「いいもんね、俺には可愛いアンさんがいるし。ほーら、ジャーキーだぞ〜」
「くうぅうん!」
見た目はモフモフな犬のアンさんと、部屋でじゃれつく。人肌が寂しいが、こればっかりは諦めるしかない。
――トントントン。
ん? ノックの音だ。
もう夜も遅い時間なのに、いったい誰だろう。
「はーい。誰ですか?」
「
「まさかこの声はレイナさん?! こんな時間にどうしたんです?」
妙齢の女性が一人で出歩くには危ない時間帯だ。
おそるおそるドアを少しだけ開けてみると――。
「きちゃった♡」
そこには、相変わらず露出の高い衣装を身につけ、見事な肢体を
酒が入っているのか、頬が少し赤い。
「ふふふ。昼間見たアキラ君の聖剣、性能が気になっちゃって……眠れないの。お姉さんに見せてくれないかしら?」
抱き合うような距離で囁かれ、俺は思わず後退りする。だがレイナさんはそれを許さず、さっと部屋の中へ入ると俺の腕を掴んだ。
「れ、レイナさん!?」
「なぁに、アキラ君。女の人と遊んでいそうな雰囲気だったけど……実はウブだったり?」
柔らかい。何がとは言えないが女性の柔らかさに頭が溶けそうだ。
「
「そ、それって……!?」
マズいぞ、どうやら今夜は眠れなさそうだ……!
◆◆◇◇
――チュンチュン、チチチチ……
「ふあぁぁ〜おはよう、みんな」
「おはよう。あら、今日は三割増しで情けない顔ね」
「……うるさいな」
朝起きて宿の食堂に向かうと、俺の顔を見たロロルがクスクスと笑う。なにせ俺の顔はパンパンに腫れ、切り傷も至る所についているからだ。
どうしてそんなことになっているかって?
レイナさんにやられたからだよ!
「(まさか、本当に俺の聖剣を見に来ただけだったとは……しかも本当に強かったし)」
結局、夜中にレイナさんから剣の手ほどきを受ける羽目になり、挙句の果てにボコボコにされた。たしかに勉強にはなったけれど……ぐぬぬ、エッチな展開を期待した俺が馬鹿だったぜ。
「ロロルたちは相変わらずのようでなによりだよ。今日の予定だけど、機関の依頼にあった、半日ほど歩いた所にある村のモンスター駆除に行くということで問題ないかな?」
「この聖都に卵を供給している村でありますね。この朝食にも使われているです」
リタが皿にある目玉焼きをフォークで掲げながらそんなことを言ってきた。鶏の卵より二回り以上も大きい目玉焼きだが、食べてみると調味料も無くても味がしっかりしていてとても美味しかった。
「依頼票によると、村で飼っている
勇者らしいキチンとした初仕事だ。
レイナさんの手ほどきも受けたし、受付嬢の信頼回復のためにも頑張ろう!!
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