第11話 教会の役目


「ああっ、すみませんリタ様ぁぁあ! 俺はロクに仕事もできない、無能なブタ野郎なんですぅう! もっと叱ってくださいぃいい!」


「欲しがりさんですねぇ! いいですよ、ケツを僕に向けるといいですっ!」

 

 新たに知り合った神官リタの職場見学に来たのだが、そこにはSMプレイとしか思えない光景が広がっていた……。



「……大丈夫なのコレ?」


 ここって大聖堂ですよね?

 神聖な場所でHENTAIプレイなんてしていいの?


「えぇ、ココはこの為の部屋ですのよ」

「そのための部屋……?」


 一見すると、教会にある懺悔室。

 しかし、そのやり取りは懺悔とはかけ離れている。



「ここでは民の不満や願いを、神の代理として私達が聞き届けるの。だけど普通に告白しようとしてもなかなか言い出せないでしょ? だからこうしてるの」

「えぇ……神様も困惑しません?」

「そんなことないわ。それに民の意見を権力のある我々が吸い上げることで、国政にも反映できているのよ」


 職人や下っ端商人、丁稚など下働きの人間の言葉など、貴族以前に上役に握り潰される。嘆願書を書いても、役人や貴族の目を通している間にたらい回しにされ、手遅れになる。


 そこで教会が声を聞き、必要があれば直接国王へ上奏するし、違法な扱いが行われていれば憲兵が立ち入る事もある。

 ましてや枢機卿は王妹である。

 政治と宗教は分離されるべきであるが、それはそれだ。民に利がある分には有効となる。


「この部屋では多少の暴言や悪口も、女神様の慈悲で見逃してくれるんです」


「うーん、じゃあ良いのか? でもレイナさん……コレ、本当は諜報も兼ねてるんでしょ?」


「あら、意外に無粋な事も言うのね? まぁ生優しい理由だけじゃないのは事実よ」


 そりゃ国民たちの不穏な噂ひとつでは国は揺るがないとは思うけど。数が集まれば手遅れになることもあるしな。使えるものは全て使っていくスタイルなんだろう。



「クククク……愚痴を聞いて煽るだけで喜捨お小遣いを貰えるなんて、ボロい商売ですぅー。人の秘密で食べるご飯は最高ですぅ! あぁ、関係者にある事ない事噂流してメチャクチャにしてやりたい!ですぅー!」




「…………」

「か、彼女はちょっとだけ特殊だけどね」



◆◆◇◇



「ふぅ〜今日も立派にお勤め金稼ぎしたです! アキラ様も一度どうです?」


「いや、なんの不平や不満もないんで大丈夫です……と言うよりそこまで気に入ってる職業みたいなのに、俺にくっ付いて旅に出て良いのか?」


「はいです! そもそも、ボクが自分で行きたいとお願いしたであります。アキラ様の旅に同行させて貰えれば、ボクが住んでいた村にも行けるかもしれないです」


 あぁ、リタは故郷である第二世界からこっちに飛ばされてきちゃったんだっけ。そりゃ機会があれば帰りたいと思うか。


「……もし家族が死んでしまっていても、せめてお墓を作ってあげたいんです。それが神官でもあり、家族としての役目でもあると思うです」



 大きな瞳で真っ直ぐに俺を見つめる、背の小さな女の子。おちゃらけた性格は、もしかしたら彼女のつらい過去を誤魔化すために身に付いた結果なのかもしれないな……。



「そうか。うん……分かった。勇者としての務めは最優先にさせて貰うけど、どうせ世界を回る旅だ。ちょっとぐらいの寄り道はできるよ」


 先を急ぐ旅ではあるけれど、それぐらいは許されるだろう。


「チョロいわね〜」

「チョロ可愛いわぁ」

「うるさいなあ!」




 ◆◆◇◇


「ともかく、新しい武器である神器は無事手に入ったな」


「アンタの身体から出てきた奴よね」


「あぁ。この大聖堂にあった神器は聖剣クラージュって言うんだっけ?」


「そうよ。と言っても扱う者によって姿形も違えば、性能も違うわけだけど。アンタのそれは随分と変なフォルムね」


「随分刀身の部分が短いわねぇ。短槍かしら?」



 ロロルとレイナは不思議そうに俺の持つ聖剣を眺める。



「これは俺が居た世界ではメスって呼ばれていたんだ。って言っても本来は掌サイズの刃物なんだけど。皮膚を切り開いて、病気になった内臓などを切除するのに使ったりしたんだ」


「ピョッ?! アキラ様の世界の医者は悪魔でありますか?!」


「ん〜やっぱり、この世界では外科的なことに対する感想はそうなるんだよなぁ。治療魔法が存在しているし」


「アキラ君の言う治療法も、悪い部分は取ってしまえ、と言う点は理解できるわ。でも私たちは、何がどういう理由で臓器が悪くなっていて、どういう処置をすればいいのかまではまだ分かってないのよ」



 この世界はモンスターという共通の敵がいるため、国家同士であまり戦争をしない。人に対する化学兵器は開発されないし、人体実験など教会が許さない。


 民間レベルで医師たちが病理解剖などをするかもしれないが、それでも限界があるのだろう。


 王城の図書にも書かれていたのは僅かだったし、城下の診療所も同レベル。せいぜい軍医がモンスターにやられた傷の治療を行なっていたぐらいだ。



「まぁこの世界の医療事情はおいおい話すとして、だ。俺もこの世界に来てから、多少は剣の訓練はしてきた。だけど兵士との対人戦だし、モンスター相手じゃない。だから武器の調整がてら、この辺りのモンスターで肩慣らしをしたいんだけど……どうかな?」


「いいんじゃない?」

わたくしもそう思いますわ」

「ボクも、勇者の力を見てみたいです!」


「よし、それではある程度の期間はここを拠点とし、モンスター狩りをしよう!」


「じゃあボクが安くて料理の美味しい宿を紹介するです」


「そういえばアンタ、冒険者機関に登録はしたの? モンスターを討伐したら報酬が出るわよ?」


 おっ、そうなのか!

 そりゃそうだよな、異世界と言えばそうこなくっちゃ。


「まずギルドに行くのは定番だったよな〜。んで、顔の怖い先輩に絡まれちゃったりして、返り討ちにするだろ? それで影で見ていたギルマスが「お前はSランクだ!」とか言っちゃって〜」


「アンタがなにを言ってるか分からないけど、冒険者機関は各国が加盟してる公的機関よ? そんな横暴なことをしてる奴が居たら、問答無用で牢屋行きだわ」


「……で、ですよね〜。まぁ平和なのは良いことだ。よし、行ってみよう!」



 まだ仕事があるレイナと別れ、意気揚々と大聖堂を後にした三人と一匹。「ボクに着いてくるです〜」とリタに案内してもらったのだが……



「なんだよ、大聖堂の真ん前じゃないか」


 目的の冒険者機関は、道路を挟んだ向かいの建物だった。

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