第10話 リス獣人あらわる
「…が…さま! …か……さま?」
「……レイナ。ここではロロルと呼んでと言ったでしょう?」
「申し訳ありませんロロル様。……勇者は神器を手に入れられたでしょうか?」
「えぇ、心配要らないわ。アイツは普段ふざけてばかりな男だけど、神器を集めて経験を積めば、恐らく大丈夫なハズよ」
「それは重畳でございます。……それでは予定通り、あの者を勇者の従者とする方向でよろしいでしょうか」
「えぇ、そうしてちょうだい。さぁ、そろそろ終わるころだから勇者を迎えに行って」
「かしこまりました」
◆◆◇◇
「はぁっ……はぁ、はぁ……ぐっ、一体なんだってんだ……」
突然襲われた激痛をこらえながら、俺は胸に突き刺さる刃物を見下ろす。
それは一振りの――
「ナイフ? いや、これは……巨大なメス、か?」
刃先からグリップまで金属で構成される、無機質で重厚な造り。
長い柄に対して短い刃だが、人体を切ることに特化したこの
「いや、解剖実験で使ったことはあるが、武器として使ったことなんて無いぞ!? ていうか武器になるのかコレ? 突いたり、撫で切ったりはできるかもしれないが……」
ん? コイツの使い方が頭に流れてくる……
「なになに? 用途によってフォルムチェンジします?」
どうやら普段は体内に収納され、魔力を使用して再生成されるらしい。いやまぁ、メンテナンスフリーなのはありがたいけど。医療器具モドキな武器なんて、この世界の鍛冶屋に渡しても扱いに困るだろうしな。
「えぇー、でもこれが神器? 巨大メスで戦う勇者なんて、聞いたことないぞ」
とにもかくにも、貰ってしまったものはしょうがない。
辺りに散らかったアレコレを片付けてみんなの元へ戻ろう。
そしてレイナさんに、ナデナデしてもらって癒されよう。
俺はやり切ったんだし。
「あとは……その前に下着とズボンを取り替えよう」
刺されたショックで失禁したことは、あの二人にバレたくない。不必要なことは言わないことに決め、俺はいそいそと泉から去るのであった。
◆◆◇◇
「いやぁ、あんな謎かけみたいな試練があるならヒントぐらい欲しかったですよ!」
部屋を出ると、俺の帰りを待っていたのか、レイナさんが出迎えてくれた。事前にパンツを変えられたので、そこはセーフだったのだが……。
「聖剣は手に入ったのですから良かったのでは? それに石版の通りに祈りを捧げれば、女神様が神器を授けてくれたでしょう?」
「はい?」
女神様なんてどこにもいなかったけど……。
「いやいや、レイナさん。石版に書いてあるように武器を泉に投げ入れたら胸に聖剣を生やされたんですよ? もう少し穏便にですね……」
「え?」
「えっ?」
え?
何この反応……?
「ええっと、つまり石版には二礼二拍手一礼をして多少のお金を入れれば、女神様が現れて神器を授けると書いてある、と?」
「はい。そのようになっています。命の欠片とは、私どもの中では少額の寄付という意味ですので……」
おいおい、そんなローカルルールなんて知らなかったぞ!?
たしかにお金も命の次に大事かもしれないけど……。
「ふふふ、でも結果オーライじゃないですか。……あぁ、そうだ。アキラ君に紹介したい子がいるんです。会ってくださいますか?」
「紹介したい人、ですか?」
「はい、とってもいい子なんですよ!」
再び枢機卿の部屋に戻ると、そこには小柄な少女がいた。
なによりも特徴的なのは――
「ケモミミきたぁぁぁあああ!」
――ケモミミ。
猫やウサギなどの可愛い系から、犬や狼の凛々しい系など、世界中に熱狂的ファンを持つ。
獣人あるあるとして、動物の特徴的な耳のみを持つ者と、人間の耳と両方を持つ者の2パターンがあるだが、目の前の少女はどうやら後者のようだ。
愛でてよし、舐めてよし、さわさわするも良し。
だが嫌がる行為は駄目だ。
ケモナー紳士淑女協定の
「は、はじめまして勇者様! ボクはリス獣人のリタと言いましゅ!」
「(噛んでる……)俺の名前はアキラって言うんだ。リタちゃんは神官さんかな?」
「は、はいぃ。神官の見習いをさせてもらってますぅ。あとボクはもう16歳なんです! 立派なレディなんですから、リタちゃんはやめてほしいです!」
クリクリとした目をムキーっとさせ、頬っぺたを膨らませる愛らしい女の子。
癖っ毛のある栗色の毛を撫でたい。
ケモミミをハムハムしたい。
「ははは。じゃあ俺の事もアキラって呼んでね? それでリタさんはどうしてココへ? この聖堂を案内してくれるとか?」
「ううぅぅ。"さん"も要らないです。案内と言えば案内です。ガイドとして、ボクもアキラ様の旅にご一緒するです!」
「彼女はね、モンスター災害の孤児なのよ。元々は
レイナさんが言うには、その後行商人に保護され、流れ流れてこの聖都に辿り着いたらしい。
難民を保護するのは教会の役目でもあるらしく、そのあとは孤児院で育ったんだとか。その恩を感じたリタは今、神官見習いとして働いていると。
「そうか……」
「同情しなくて大丈夫です。ボクは神官が天職だと思ってるです。まだまだ未熟だけど、頑張ってお供するです!」
「この歳で頑張って仕事してるんだな……えらい! えらいぞー!」
「子供扱いするなですー! 信じてくれないなら、ボクが立派に神官をしてるところを見るがいいですー!!」
「ははは。よーし、じゃあおっちゃんが職場見学しちゃうぞー。早速案内してくれ!」
――懺悔室にて――
「クククク、あなた、鏡って知ってるです? 鏡も買えないほど安月給なんですぅ? そりゃあストレスも溜まってハゲちゃって……おっと失礼したです〜クククク!」
「え、なにこれ?」
俺が見たのは、懺悔室のような場所で、
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