第9話 神器と泉
聖都グルメに後ろ髪を引かれつつ、俺たち勇者一行は大聖堂カシードラへとやってきた。
「そういえば神器の剣って、この大聖堂にあるんだろ? 大切に保管されてるようなものをあっさり貰えるのか?」
「あぁ、それは――」
「うふふふ。それにはご心配ありませんわ、勇者様」
大聖堂の奥から出てきたのは、ウェーブのかかった漆黒の髪をした妖艶な美女だった。薄暗い屋内にステンドグラスから差し込む光が彼女に陰影を作り、美しさを更に際立たせている。
そしてその彼女は、身体に白い布をまとっているのだが……。
「(め、目のやり場に困る……!)」
必要最低限の部分しか隠せていないので、首から下に視線をやることができない。(チラチラ見ているのだが)
――女神だ。
まちがいない、彼女がこの世界の女神に違いない。
「ようこそいらっしゃいました。
「(う、うそだぁ!!)」
この世界にも遺伝子はあるのかな?
あるんだよな?
いや、確かに国王もイケメンだったよ?
だけど俺が知ってる王様って、ただのセクハラジジイだよ?
飲み屋のねーちゃんにセクハラしようとして、店主のおっちゃんに殴られていたし。
しかもそのあとに王妃様が店に突撃してきて、首根っこ掴まれてドナドナされているような人だよ?
そんなことを考えていると、レイナさんは俺の目の前にやってきた。
「あらあら? 旅でお疲れなのかしら? 大丈夫?」
この歳で頭撫でられたー!?
俺は男だけどナデポ(古い)しちゃう!
ていうか近い!
柔らかいのが当たってる!
いい匂いする!!
「ふふふ、いい子ね。そんなにナデナデがお好きなら、いくらでも撫でてあげるわよ?」
「アッ……」
唐突に俺の胸を指でツツーゥと撫でられ、俺の理性は強制起動終了した。
「あーレイナさん?
「あらあら、残念。まぁいいわ。
◇◇◆◆
「……思ってたより、中は質素なんだな」
外観と違い、内装は
呆気に取られている俺を見ると、レイナさんはクスクスと笑いながらお茶を淹れてくれた。
「それで? この聖都には神器を回収しにきた、ということでよろしいのね?」
「えぇ、魔王討伐の旅には欠かせないとのことで。この大聖堂に保管されているんですよね?」
「いいえ。特に保管しているわけではないわ」
「えぇっ? まさか魔族に奪われたんじゃないですよね!? それとも何か試練が必要とかですか?」
「大丈夫、神器はこの大聖堂のどこかにある……ハズよ。そうね、口で説明するよりも、実際に取りに行ってもらったほうが早いかしら。アキラ君、一人で私に着いてきてくれる?」
なんだ?
すごく意味深な言い方をされた気がするが……。
「仕方ない、行ってくるか」
「アキラ、大丈夫なの?」
「……たぶん?」
不安しかないが、ここで行かない手は無いしね。
そうしてレイナさんの案内で、迷路のような聖堂内を歩かされることおよそ10分。俺の眼前には、巨大な青銅製の両開き扉があった。
「神器はこの扉の先にありますの。詳しいことは、中にある石碑に書かれておりますので。さぁ、いってらっしゃい」
「え? いやそんなニッコリ笑顔で言われても……わかりました。行けばわかるんですね」
扉を押すと、ギギギ……と音を立てて開いていく。
おそるおそる中に入ってみれば――なるほど、確かに石碑がある。
そしてその側には、小さな泉があった。
「えーっと、なになに? 『
うーん……意味わからん。
戻ってレイナさんに意味を尋ねたいが、こうして俺に一人で行かせたからには、何か理由があるハズだ。
「まず欠片ってなんだ?」
命の欠片ってちょっと不穏なんだよなぁ。
血とかだったらちょっと嫌だなぁ。
「まさか命そのものを入れろって意味じゃないだろうし……命のように大事なモノってことか?」
それでいて泉に入れられるモノ。
そういえば、泉に何かを落とすって何か昔話で聞いたな……
「――そうだ!」
あるアイデアを閃いた俺は、まだ新品同様の片手剣を腰から外し、勢いをつけて泉に投げ入れた。
「戦士にとって、武器は自分の命を預ける大事な相棒。つまり命の欠片とも言えるんじゃないのか!?」
俺が持つ唯一の武器は泉の中へと沈んでいく。思ったよりも深さがあるようで、すぐにその姿は見えなくなった。
だ、大丈夫だよな?
これで何も起こらなかったら、きっとロロルに馬鹿にされるだろうな……。
「……おっ!?」
そわそわしながら泉の水面を見つめていると、やがてブクブクと泡が立ってきた。
「おっ? 正解か? やはり俺は天才だったようだなぁ!! ふはははは! ……は?」
綺麗な弧を描いて、何かがこちらに飛んできた。
――ザシュッ!
そんな嫌な音を立て、俺の胸に何かが突き刺さる。
「え……?」
避ける間もなかった。
すぐに胸に焼ける痛みが走る。
ゆっくり自分の視界を下に向けると、俺の胸に銀色に輝く
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