第6話 こぼれ話①

 

 とある国の王様と宰相の場合



「ふぅ、やっと行ったか。……王様、貴賓扱いとはいえ、勇者のことを優遇し過ぎだったのでは?」


「そういうな宰相。世を救う為とは言っても、彼は拉致同然で召喚されたのだ。それにな、少しの間彼を監視させたが、アレはアレで己をわきまえておったわ。……というかお主、そんな事を言いつつ、自分の仕事終わりにアキラを城下街の居酒屋に連れ回しておったそうじゃないか」


「な、何故それを! 確かにアイツは気の良い男でしたが、私はかの世界の経済や司法の仕組みを聞き出し、我が国で活かそうと……」


「ふふふ、店で一番人気のエミリー嬢は、そんな話をしておらんかったぞ? 他の店の娘もしかりだ」


「ま、まさか飲み屋の店員に監視させていたのですか!」


「いや、アキラと飲みに行った時に聞いた」


「アンタなにやってんですかぁぁ!」



 ◇◇◆◆


「それはそうと、アキラの能力はどう秘匿しましょう。いくら勇者だからとはいえ、危険視される可能性は高いですよ」


「アレか……確かに悪用されれば、世に混乱をもたらすかもしれん。だからこそ我々が彼を守り、導かなければならんだろう。その身も心も、な」



 深い溜息を吐きながら、グラスに注がれた琥珀色の酒を口に運ぶ。


「陛下……」


 国民の命を背負う国王のプレッシャーは、他の誰よりも重い。支えてくれる家族や臣下は居れど、重圧を共感してくれる者はいなかった。


 そう、アキラがやってくるまでは。

 お気楽そうに見えて、誰かの生命という重い荷物を背負う辛さを、病院勤めのアキラはよく知っていた。立場と程度は違えど、話が合ったのだ。



「それではアキラに約束した、姫様の誰かを嫁にすることはお認めになさるので?」


「それとこれとは話が別だろうが! ならん! やるなら宰相! お前の娘だ!」


「アホォめが! ウチの娘はまだ六歳じゃボケェ! 例え十年後でも娘は誰にもやらん!」



 普段は静謐せいひつな王の執務室で、三十の半ばを迎える大人達がギャースギャースと喚く声が響く。

 そこへ、普段は許可なく入ることは絶対に許されないが、そんなものは関係ないとばかりに侵入してくる者がいた。



「ア ナ タ ? 仕事はどうしたの? そのグラスに入ってるモノは何なのかしら?」


「ふぁっ!? ど、どうしてお前が!」

「王妃様?!」




 魔法か幻か。

 その日王城に一つの雷光が落ちた。また同時に、この国のトップ二人のお小遣いの50%カットが確定された瞬間であった。


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