第5話 化学チート魔法
王城の一室で、ロロルはどこからともなくカップとソーサーを取り出し、紅茶のようなものを優雅に飲み始めながら語り続ける。
もちろん俺には粗茶も水さえも出されていない。
馬鹿にはそれすらもったいないってことなんだろう。
「いい? 何度も言うようだけど、これから私たちはとにかく魔導機をつかって聖都に向かうわ。聖都にある大聖堂には神器の一つである聖剣クラージュがあるの。まずはそれを取りに行きましょう」
「聖剣かぁ。ファンタジーのお約束と言えばお約束だわなー。一応聞いておくけど、魔法とか普通の武器じゃダメな訳? ほら、女神様謹製のチートも貰った訳だし?」
「別にアンタが一人で勝手に特攻をしてくれても全くかまわないわよ? たとえそれで犬死しても、きっと次の
「生贄!? 今、生贄って言ったよね!? 神様仏様女神様! 頑張りますから見捨てないで!! 手でも足でも舐めますから!! ほ、ホラ、チェリーの茎結びで鍛えた俺の舌技を見てくださいよ!! レロレロラロ!!」
「うっっっわキモッ! 触手モンスター並みに気持ちわるっ!!」
おい馬鹿にするんじゃない!
キスが上手い男はモテるって噂がたって、必死に覚えた特技なんだぞ!? 結局使い道は無かったけれど……(泣)
◆◆◇◇
なんだかんだありつつも、ミーティングを終えた俺とロロルは、旅の準備を進めていく。
「そういや旅だなんて久しぶりだな〜! 修学旅行でオーストラリアには行ったけど、就職してからは国内で温泉巡りしかしてなかったし」
「温泉! 私、温泉好き!! 温泉あがりにキリっとした強めの酒をクイっと。もしくはキンキンに冷やしたエールをグビグビっといきたいわ〜」
右手を腰に当て、片手で何かを飲み干す動作をするロロル。
その手には立派なジョッキが幻覚でみえる。まるでオッサンである。
「最初に出会った頃の可憐なロロルを返して……って、この世界にも温泉あるのか!?」
「ドワーフの国を始めとして、火山がたくさんあるからね。もちろん温泉もあるわよー!」
おお、それは朗報だ。
少しでも旅の楽しみが増えてくれると俺も嬉しい。
「でも道中にはもちろん、モンスターが
「えぇ、そうよ。さすがに国営では無いけれど、各国が協力して作った冒険者機関があるの。冒険者とは言っても商人の護衛やモンスター退治、資源の回収といった何でも屋ね。基本的に戦う能力があれば、誰でもなることができるわ」
「命がけとはいえ、結構稼げそうだよなぁ。いいなぁ、俺なんか高い学費払って6年間も学校通って、必死こいて国家試験合格してやっと働けたって感じだったのに」
俺はぶつくさと愚痴を漏らしながら、王城の騎士から貰った片手剣を腰に差し、装備の点検をしていく。
かたやロロルは、どこから調達してきたのか分からない宇宙ロケット型のキーホルダーを人差し指でクルクルさせながら、鼻歌を歌っている。
「あ、あの……ロロルさん? 旅の準備は? ていうかそれは一体?」
「あぁ、コレ? 例の魔導機よ! しかも最新式! 魔導研究所の所長に
「所長? あぁ、あのおじさんかぁ……」
その人のことは俺も知っている。元の世界の知識を提供してほしいって言うから、協力してあげたのだ。そのおかげで研究費が増えるって喜んでたばかりのに……心中お察しするわ。
「何言ってるの。コレは実地試験の協力よ! それも魔王討伐というハードな長い旅での耐用試験! 私に感謝してもしたりないわよ!!」
「あぁ、うん。君のポジティブさは俺には羨ましい限りだよ……ところでそのキーホルダーは魔導機のキーか何かなの?」
魔導機といっても、見た目はただのキーホルダーだ。いや、もしくはリモコンキーなのか?
そんな事を思っていると、ロロルは
「な、なななな何だコレ!?」
――ボボボン!と間抜けな音や煙と共に、キーホルダーが膨張。そして巨大化すると、流線型のスポーツカーのようなフォルムをした赤色塗装の機体が飛び出した。
「どうよ! カッコいいでしょ! 名付けてエクセラちゃんよ!」
「おい! その名前、日本車メーカーをパクっただろ! 確かにカッコいいけども! 怒られるだろうが!」
「でも実際は別モノよ! 魔導エンジンだから排気も無いし、空挺システムのお陰で揺れも少なくて乗り心地抜群なんだから! ナビに空調完備、MDだって聴けちゃうわ」
「前から気になってたけど、君の会話ってちょいちょい変なワードが入るよね?! 地球かぶれなの? しかもMDって今時の子は知らないと思うよ?」
「何言ってるの、これはマジックディスク(Magic Disc)よ? 投擲武器にも使える、超人気商品なんだから!」
懐からチャクラムのようにシュバババッと出しては、虹色に光る円盤を大量に机に積み上げていくロロル。
この娘との会話は、なんだか噛み合うようで微妙に噛み合わない。ジェネレーションならぬワールドギャップに、俺は思わず頭痛を覚えてしまう。
「まぁ乗り物で楽ができるなら越したことはないけどさ。そういえばロロルの装備は? どうやって戦うの?」
俺は自前のチートがあるけれど、彼女はどう見たって戦闘ができるようには見えない。王様は戦力に問題は無いって言っていたけれど……。
「私の武器はこの口よ!!」
ババーン!と効果音が鳴りそうな態度で、程よく育った胸を逸らす。
ドヤ顔も可愛いが、俺は不安が胸中を占めていた。
「あぁ、うん。じゃあ安全な所で応援してくれればいいよ。ハハハハ」
これからの旅を考えると泣きたくなってくる。
まぁいいや、俺が頑張ればいい……。
「そういうアンタは大丈夫なんでしょうね? いくらチートって言っても、それを使いこなせなければ無意味よ? 不安だわ〜」
「一番の不安要素が、何をぬけぬけと……一応俺だって、この一ヶ月間遊んでいただけじゃないぜ。剣術や体術も兵士の人達に鍛えてもらったし、魔法だって最近はコツを掴んできたんだよ!」
「へぇ~? ちなみに魔法はどんなのを使うの?」
「聞いて驚くなよ? 前世の知識と今世の魔術を活かしたハイブリッド魔法! その名も
「……?? ごめん。その字面だけじゃ、全然凄さが伝わらないんだけど」
お、おう。そう言うとは思ったぜ。
「ホラ、一般的に魔法って火や水を出したり、突風を発生させたりしているだろ? つまり魔法や魔力がこの世界の物質や環境に影響を及ぼして、それらの事象を起こしてるわけだ」
そう説明しながら、俺は人差し指を上に伸ばし魔力を高め、ブツブツと簡単な呪文を唱える。すると指先からバスケットボール大の水を浮かびあがった。
「ここまではありふれた水属性の魔法だよな? で、俺はこうする」
指の先が一瞬光ったかと思えば、水球が沸騰したかのように泡立ち、水の中で火が燃え始めた。
「燃える水? 水の中で火魔法を同時に発動? にしては挙動が変だったわね……」
「ふっふっふー! これが化学の力なのだよ! これが俺のチート能力で、魔力を使って化学物質を生成できるのさ。今回みたいに塩素酸カリウムなどの酸化剤を大量にぶち込んで、ちょっと発火させるとこんな感じに水の中で炎が――」
――と同時にバンっ!という音が響き、辺り一面に水が飛び散った。水蒸気が立ち込め、俺たちは水まみれに……。
「……」
「……」
「な、中には危険な物もあるから注意が必要だけどな? まぁ、なんというか……すまん」
「罰として今日から一週間、旅の間の飯当番はアンタがやりなさい」
「……はい、すみませんでした」
こうして俺の勇者としての初仕事が決まった。
――――――――
次回は本日19時過ぎを予定!
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