第35話 実家
ある晴れた日の昼頃。
俺たちは少しの緊張しながら、とある家のインターホンを押した。
ガチャ、と音を立てドアが開いた。
「おかえり旬」
「ただいま母さん」
中から出てきたのは俺の母さんだ。
すると母さんはリーシャを見るなり目を輝かせて近づいた。
「あら!あなたが旬のお隣さんのリーシャちゃん?」
「は、はい!」
緊張のせいか、ガチガチに固まるリーシャ。
「フフフッ。そんなに緊張しなくていいわよ。ほら上がって上がって」
「お、お邪魔します」
軽く会釈をし、リーシャは俺に続いて家の中に入った。
咄嗟に思いついたから言ったけど、お隣さんとここまで仲良くなりました、なんてほとんど付き合ってるみたいなもんだよな。
絶対母さん期待してる。
でも嘘つかなかったら家にも呼べなかったし、仕方ない。
すると母さんが俺の肩を叩いてこう言った。
「やるじゃない旬」
ニヤついた顔を浮かべ、嬉しそうに笑う母さん。
「そういうのじゃないって言っただろ」
こうなったのも全部グリードのせいだ。
死んだ後も俺を困らせるとは腹立たしい。
どうしてこうなったのか、それを知るには数日遡る必要がある。
※
「旬くん。君には本当に感謝してる。またお礼をしたいと思ってるから何が良いか考えておいてくれ」
柊の病室の外で店長がそう言った。
「そんな事気にしないでください。俺はリーシャを助けるためにやったんですから」
「それでもお礼をさせてくれ。それにこれは柊のケジメでもあるんだ」
そう言われてしまっては断れないな。
「分かりました。考えておきます」
そんな会話を交わして俺たちは病院を出た。
元あった家は跡形もなく消え去り、俺たちは今、仮住居に住んでいる。
店長の計らいで、俺たちは一緒の部屋に住むことを許可されている。
全く似て無いが、兄妹という事で通したらしい。
仮住居に帰り、少し休んでいると、俺のスマホがブルブルと鳴った。
母さんか。
俺は電話の相手が母さんである事を確認し、電話に出た。
「もしもし」
『もしもし旬。大丈夫?家なくなっちゃったんでしょ』
「そうだね」
なんかすごいぶっ飛んだ会話してる気がする。
『学校もしばらく休校みたいだし、新しいお家決めなきゃだし実家に帰ってきなさい』
「えっ……………」
『何その反応』
「嫌って言ったら?」
『学費払うのやめようかしら』
「ぐっ、わかった。帰るからそれだけはやめて」
冗談だと思うけど、母さんならやりかねないんだよなぁ。
それにしても困ったな。実家に帰って次の家を決めるなんて一週間ちょっとで出来るようなことじゃないぞ。
リーシャを仮住居に置いたままにしておく訳にはいかないし、異世界にも用がある。
でも何も言わずに実家に連れて行くなんて出来ないしな。
いや───待てよ。
「母さん。一つ頼みがあるんだけど」
『どうしたの?』
「元々住んでた家の隣にさ、リーシャって言う留学生が住んでたんだけど」
『もしかしてご挨拶?良いわよ連れて来なさい』
「違うわ!最後まで話聞け」
母さんは俺を凄く愛してくれている。だから一人暮らしも快く承諾してくれた。
そんな俺に彼女が出来たというなら、喜ぶのも自然だろう。
「日本に来たばかりで、良く俺に相談して来てたんだけど、家が無くなって、今俺と同じ仮住居で暮らしてるんだけど、困ってるみたいで」
『別に連れてくる分には良いわよ。お相手の親御さんはどう言ってるの?』
「えっと…………好きなようにしてくださいだって」
「なっ!?アマネさん!」
何する気、と言わんばかりの疑いを目を向けてくるリーシャ。
『そう、わかったわ』
「じゃあそういうことだから。よろしく」
『はい。はーい』
母さんテンション上がってる気するな。
※
そんな事があり、今俺たちは俺の実家にいる。
「リーシャちゃんは旬の事どう思ってるの?」
「えっ!?」
「ちょ、母さん」
母さんはこんな感じで、俺たちをからかって反応を楽しんでいる。
「とりあえず荷物片付けるから───」
「手伝うわよ」
「絶対来んな!」
そう言って俺はリーシャを連れて2階に上がった。
2階には俺の部屋と元々荷物置きとして使っていた空き部屋がある。
俺の部屋は出た時もさほど変わってないので良いが、リーシャの部屋は元々荷物置きで使っていたので、中はすっからかんだ。
俺たちはリーシャの部屋に二人で入った。
「悪いなリーシャ。俺が家に女子を連れてきたのこれが初めてだから、母さん浮かれてるんだと思う」
「いえいえ。凄く暖かい良いお母様ですね」
「そうか?ウザイだけだろ」
「私からしたら羨ましいですよ。アマネさんを愛してるんだって少し話しただけで分かりましたから」
「そうか……………」
親から愛されていなかったリーシャからすれば、理想の家族なのかもな。
「リーシャは自分の親やマルクス王子とよりを戻したいと思うか?」
「戻したくないと言い切ることはできないですね。親はまだしも、なぜかマルクス王子とまた婚約してもらわないとって思う自分がいるのは事実です。本心ではアマネさんとずっと一緒に居たいんですけどね」
「やっぱりそうか」
柊が<
おそらくそれはシェリアの言っていた秩序にならってのことだろう。それはリーシャにも言えることだ。でもリーシャはこちらの世界に居ることの方が多くなってきている。それにリーシャは秩序の支配から少しだが逃れられているのだ。
これはあくまで推測でしかないが、リーシャという存在は今、こちらの世界と向こうの世界のちょうど中心───つまりはどちらの世界にも属している、そんな特殊な存在なのだろう。だから自身の気持ちと秩序の支配が彼女の中で混ざっているのだ。
どの道、<召喚・帰還>で繋がってる以上、帰りたいと言っても帰らせる事は出来ない。
───だが問題は多分そこじゃない。
「私はアマネさんの事が好きです。この世の誰よりも」
「そ、そうか」
面と向かって言われるとやっぱり少し恥ずかしいな。
「でももしかしたらこの気持ちを女神に変えられてしまうんじゃないかと思うと、怖いです」
リーシャは肩を震わせていた。
リーシャが秩序に従うということは、俺に対する気持ちを忘れ、マルクス王子に仕える事になるのだ。
それが多分一番の問題だろう。
俺はリーシャの頭を撫でる。
「心配するな。ここまで二人で乗り切ってきたんだ。きっと大丈夫」
「っ………………。やっぱり不思議ですね。アマネさんが言うとなぜか自信が湧いてきます」
「俺にはプレッシャーが掛かるんだけどな…………」
俺がそう言うとリーシャはフフッと笑った。
「大丈夫です。私のアマネさんへの気持ちが秩序なんかに負けるわけありません」
そう言ってリーシャは俺の胸にピタリと引っ付いてきた。
俺は激しく鼓動を打つ心臓の音がリーシャに聞こえてないか、と心配になっていた。
「リーシャ。大胆なのは嬉しいが、ここ実ッ」
ガチャ、と音がして部屋のドアが開いた。
「あら、ごめんなさい」
そう言ってニヤリと笑みを浮かべた母さんが再びドアを閉めた。
「か、母さん…………」
「っ───!!」
リーシャの頬がものすごい勢いで赤くなる。
「旬!リーシャちゃん!お母さんは何も見てないからね。お昼の相談しに来たけど、適当に作ることにするね。後は若いお二人で」
そう言って母さんはドタドタと階段を降りていった。
「もう何言っても無駄だな」
「そ、そうですね…………」
俺たちは何だか照れくさくなり、少しの間目を合わせられなかった。
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