第36話 家族

荷物整理の終え、しばらく部屋でゆっくりしていると、いつの間にか夜になっていた。


お腹も空いてきたので、俺は部屋を出て、リビングに向かった。


リビングでは何やら話し声が聞こえてきた。


「あら、リーシャちゃん。料理できるの?」


「はい。出来ますよ」


どうやら、リーシャが母さんの手伝いをしているようだ。


母さんは多分娘ができた気分で嬉しいのだろう。笑みを浮かべ、楽しそうしている。


俺もあんな感じで料理を習ってたな、なんか懐かしい。


久しぶりに実家に帰ってきたせいか、昔の事が脳裏に浮かんできた。

やなり実家は一番安心する。


「旬。リーシャちゃん、凄い料理上手ね」


「そうだろ」


俺がそう言うと母さんがニヤリと意地悪な笑みを浮かべた。


その瞬間───やられたと俺は思った。


「リーシャちゃんの料理食べたことあるんだぁ」


「っ……………」


「アマネさんには何度も助けて貰ってましたので、お礼に作ってたんです」


「あら、そうなの?ありがとね」


「いえ、私にはそれくらいしか出来ませんから」


リーシャは良い感じに誤魔化してくれた。


そんな感じで母さんにからかわれながらも、料理は進んでいく。

そうして完成に近づいてきたところで、玄関のドアが開いた。


「ただいま」


「おかえり父さん」


スーツ姿の父さんがリビングに入ってきた。


「あぁ〜腹減っ…………たぁあああ!!」


父さんは台所にいるリーシャを見た途端、叫んだ。


「父さんうるさい」


「おい、旬。なんだあのべっぴんさんは?」


「母さんから聞いてないかったのか?」


「えっ、もしかしてあの子が旬のお隣さんか?」


するとリーシャは台所から出て父さんの前でお辞儀をした。


「初めまして、リーシャ・ミリセントです」


「は、初めまして。父───啓示けいじです。旬がいつもお世話になってます」


緊張でもしているのか、丁寧な口調で父さんは挨拶をする。


「いえいえ、お世話になってるのは私の方ですよ」


そう言って可愛らしい笑みを浮かべるリーシャ。


すると父さんがいきなり、俺の肩に手を付き、口を開いた。


「旬。お前やるな!」


「だから付き合ってないって言ってるだろ」


「じゃあ今すぐ告白しろ!」


「いや、何でだよ!」


俺はふとリーシャの方に視線を向けた。


リーシャは何故か頬赤くし、期待の眼差しを向けてきていた。

その時、パチリと目が合い、リーシャは逃げるように台所へと戻った。


「旬。今の反応は間違いなくいけるぞ」


「父さんはもう黙っててくれ」


両親のせいでリーシャを無駄に意識してしまう。ほんとに勘弁してくれ。


「出来たわよ」


母さんはそう言ってテーブルの上にあるガスコンロに鍋を置いた。

どうやら今日の夜はすき焼きらしい。


「旬。お皿並べて」


「わかった」


俺は台所に向かい、人数分の皿を取った。

テーブルに並べ、全員が席に着いた。

俺の隣にはリーシャが座っていた。


「「「いただきます」」」


そう言ってすき焼きを食べ始める。


「はい。リーシャちゃん」


母さんがリーシャの分をついだ。


「ありがとうございます」


リーシャはお皿に入ったお肉を卵に潜らせて口に運んだ。


「美味しいです」


「リーシャちゃん、美味しそうに食べるわね」


嬉しそうにそう言う母さん。


「すき焼きは初めてだったので、すごく楽しみだったんです」


「そうなのね。なら作って正解ね」


「旬はリーシャちゃんにご飯作ってやってんのか?」


まるで同棲し始めたカップルに聞くような質問をしてくる父さん。


同棲に関しては間違えては無いが、両親は知らないはずだ。


「たまにな」


「おっ、やるじゃねぇか」


「リーシャちゃん。旬の料理は美味しかった?」


「はい。すごく美味しいですよ」


そう言った後、俺の方を見てニコリと笑うリーシャ。


俺は嬉しいような恥ずかしいような気持ちになり、目を逸らしてしまった。


「旬、顔が真っ赤よ」


「ちょ、母さん」


「珍しいな。旬がそんなに取り乱すなんて」


「当たり前だろ。今までにこんな事無かったんだから」


俺に面と向かって好きと言ってくれたのはリーシャが初めてだ。

それもこんな美少女に。嬉しくないわけが無い。


「確かに女の子を家に連れてきたことは無かったな」


「お母さんは嬉しいわよ。リーシャちゃんすごく良い子だし、娘が出来たみたい。ずっと居て欲しいわ」


母さんがそう言った時、リーシャはすごく幸せそうな顔をしていた。


「そう言って貰えて嬉しいです…………お、お母さん」


「お父さん!今リーシャちゃんが私の事お母さんって言ったわよ」


「なに!?リーシャちゃん。俺は?」


「お、お父さん」


「ありがとうリーシャちゃん……………」


そう言ってすすり泣く父さん。


「泣くほど!?」


「いや、だって。娘からお父さんって言ってもらったんだぞ」


「勝手にリーシャを娘にするなよ」


嬉しいのかもしれないが、俺からしたらすごく恥ずかしいのでやめてもらいたいものだ。


「アマネさん。家族っていいですね」


リーシャは飛び切りの笑顔を俺に向け、そう言った。


「……………そうだな」





すき焼きを食べ終わり、俺とリーシャは同じ部屋に戻った。


「まさか両親がここまでリーシャを気に入るとはな」


「お二人とも温かくて優しい人たちです。アマネさんと居る時と同じような心地良さを感じました。やっぱり親子ですね」


「それなら良かった。両親の事をそう言ってくれるのは俺も嬉しいよ」


両親はどちらかと言うと社交的で気さくな方だろう。人見知りの俺とは真逆だ。

俺は両親のようになりたいと思っていたし、今でも尊敬している。

なのでリーシャに両親のことを気に入って貰えるのは嬉しいのだ。


「アマネさんが羨ましいです。両親に気を使わず、好きな事を言って笑い合える。私の理想の家族です」


「リーシャ…………」


「私、決めました!私を捨てた両親にガツンと言ってやります!もう言うことは聞きませんって」


そう言うリーシャはやってやると言わんばかりのやる気に満ちた顔をしていた。


「リーシャもついに反抗期だな」


「はい!反抗期です!」


こんな可愛い反抗期の娘を捨てるとはバカ親だな。


「そろそろ向こう世界もリーシャを探し始めていることだろうし、終わらせに行くか?」


「はい!そしてアマネさんと家族になりたいです!」


「それはまた随分と嬉しい事を言ってくれるな」


だが実現するには勝つしかない。王子にも女神にも───そして両親にも。

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