第34話 女神と言うなの悪魔
「嘘だろ…………魔王が日本人だと?」
俺は混乱した。
だって無茶苦茶じゃないか。どうして自ら
魔王になんてなるんだ?グリードみたいな狂気的な奴の味方をする必要がどこにあると言うんだ?
それよりもだ───。
なあシェリア。知ってたのか?
『………………』
俺がそう問いかけるがシェリアからの返答はない。
沈黙は肯定と捉えていいんだな?
『………………すみませんアマネ様。ずっと黙ってしまっていて…………』
どうして隠していた。
『魔王が日本人だと気づいてしまったら、アマネ様は彼を殺せますか?』
っ……………。
俺は返答に困ってしまった。
少し納得してしまったからだ。
魔王が同じ日本人だとわかった今、俺は本人と対峙した時、躊躇なく刀を振るれる自信が無い。
魔物や魔族を殺しておいて虫が良すぎるという事も分かっている。命の重みは平等だ。
でもやはり、同じ人間を殺すというのはハードルが高い。
「なあシェリア。魔王は一体何者なんだ?魔王討伐はどういう目的があってするんだ?」
『っ……………皆様には話した方が良さそうですね。今のところ一番魔王を討伐出来そうな人達ですから』
「これは女神の声か───」
俺以外の三人にもシェリアの声が聞こえるようしたようだ。
『私は皆様と同じ人間のように接していますが、一応、私は女神──神様なんです。なので、アマネ様達、人間とは全く違う存在です。例えば食事や睡眠を取る必要がなかったり、寿命という概念が無かったり、まず心臓も何もなりませんから生物ですらありません。女神となってるのは別世界に住む皆様にあまり警戒されないようにするためです』
その発言に全員が驚く。
まるで俺たちを騙していたような言い方だ。
『つまり私自体は普通の生命体では無く、表すなら…………世界の秩序そのものを具現化したみたいな存在です』
世界の秩序。
そう聞いて、俺の中にあった疑問が解けた気がした。
シェリアは良く決まりですので、という言葉を使っては何かと隠し事をしてきた。それはおそらくその秩序というものに乗っ取ってのことなのだろう。
「じゃあシェリアはその秩序に従って動いているのか?」
『そういう事になりますね。私は別に魔族の敵というわけでも人間の味方というわけでもありません。あくまで中立な立場にいます。魔族と人間が争うのも構いません。ですがどちらかが消滅する事だけは避けなければなりません。共存も一つの手だとは思うのですが、対立を選んでしまったのでもうそこを変える事は不可能です』
「どうして消滅は避けたいんだ?」
『それがあの世界の秩序だからです。お互いの種がぶつかり合うことで生命の進化を促進させる、そんな狙いがあるんです。なので争うという事に関しては何の問題も無いわけです。というかそっちの方がいいまであります』
俺はシェリアの認識を間違っていた。
彼女にはおそらく感情というものがない。あるように演じているだけだ。
「共存でも良いというのなら、どうしてそう仕向けなかった?」
『私も万能と言うわけじゃないんですよ。望んだ世界を自身の力で実現させるなんて不可能です』
するとリーシャがこんな事を言った。
「あの、女神様。なぜ魔王を討伐しなければならないのですか?あなたは争いを終わらせる気はないんですよね?」
『理由は単純ですよ。ただ単に魔王が強すぎるからです。今はバランスが崩壊しています。放っておけば確実に人間側が負けてしまいます』
「そんな事ならどうして魔王が日本人であるままにしてたんだ?」
『っ……………元々、魔族はそんなに強い種族じゃありませんでした。基礎能力自体は前とさほど変わっておらず、普通の人間より強いです。ただ協調性が壊滅的になかったんです。全員が自己中心的で、自分が強い事を証明するために争うのは当たり前、しかもそのタイミングで人間側が勢力拡大のために進軍を始めたんです』
「つまりそのままだと魔族は滅びていたってわけね」
そう言う柊。
『はい、ですが私に出来る事は限られていました。魔族の量を増やすなんてことも出来ませんからね。だから別の手を使ったんです』
「異世界召喚か……………」
つまりシェリアは魔族を絶滅させないためだけに関係の無い人間を巻き込み、魔王にさせたって訳か。
「それで力を持ち過ぎたら討伐される側に回すのかよ」
「あまりにも無責任だなシェリアさん」
店長が怒りの口調でそう言った。
『仕方ないじゃないですか。彼の力は逸脱しているのですから』
「仕方ないだと?」
『皆様は自分の力に疑問を持ったことはありませんか?向こうの世界に住む人達とは比べ物にならない力を最初から持っていたはずです』
確かに固有スキルも基礎ステータスも俺は最初から高かった。
「それでシェリアは何が言いたい?」
『簡単に言えば皆様は世界の秩序から外れた存在だということです。私が魔王にする人間を別世界から取り入れることにしたのはこれが理由です。普通、生物とは潜在的に持てる力に上限が存在します。それはステータスにしろ、スキルにしろ言えることです。ですがそれはその世界の秩序であって、別世界では違います。つまり、あなた達は向こうの世界の秩序に縛られない存在なんです。自覚はあるはずですよね?皆様の固有スキルが逸脱した性能をしている事に───』
シェリアの言っていることは全てが当てはまっていた。
俺たちの持つ固有スキルはいわゆるチートの類と言っていい。俺の<複合>は新たな魔法を生み出せる。
柊の<
「なら、魔王の持つ固有スキルは何なんだ?」
『<創造>、自身のレベルを消費して新たなスキルを作れる固有スキルです』
俺たちは驚愕の表情を浮かべた。
「スキルを作れるだと……………?」
「そんなの勝てるわけないじゃない」
相手は絶望的に強い。戦うにしろ、向こうは命を狙ってくるだろう。
『彼は魔界を私の望む形にしてくれました。圧倒的な力で魔族をまとめあげる存在となった。でも今となってはただの脅威です。彼の力は世界を滅ぼしかねません。そうなってしまっては本末転倒ですよ。ですからお願いです!皆様に魔王を討伐して欲しいのです!黙っていたことについては謝罪します。ですから───』
「断るよ。そんな感情の籠っていない謝罪で許されるようなことじゃないの分からないか?」
「私の断るわ」
「当然、私も賛同出来ないな」
女神とはどこまでも傲慢で、自分勝手だ。シェリアが何もしなければ、こんなに面倒な事にはならなかったはずだ。
魔族は自然消滅し、人間だけの世界になっていた。争いは多分生まれなかった。
それにこちらの世界も魔法のせいで歪んだんだ。
『どうしてですか!このままではビルヘイツは滅びますよ?それでいいんですかアマネ様。あなたの大切な存在であるリーシャさんの帰る場所はなくなってしまいますよ!』
「ああ、もちろんビルヘイツは守るよ」
『でしたら───』
「でもシェリアの思い通りにするつもりは無い」
このまま俺が魔王を討伐出来たとしても、どうせシェリアはまた新しく魔王を召喚するだろう。
悲劇は永遠に続くって訳だ。
ならどんな手を使ってでも争いを終わらせる。
出来るなら魔王も殺さずに。
俺は魔王に対して怒りがない訳では無い。彼が柊を利用しなければリーシャがこうなることもなかったのだから。
でも彼は自分の住む魔界を───自身を守ろうとしているだけだ。
言い方を変えれば、彼も被害者なのだ。
全ての元凶は女神シェリアだ。
「まるで悪魔だなお前」
『そう言われても仕方ないですかね……………理解は出来ませんが』
「する必要なんてないさ。心があるなら最初からこんな事はしない」
「アマネさん………………」
リーシャは俺の手を掴んできた。
彼女はどこか申し訳なさそうな顔をした。多分、俺は怒りが顔に出ているのだろう。
「アマネさん。無理してビルヘイツを守ろうとしなくていいんですよ。私はあそこに未練なんて無いですから……………」
俺は俺の手を掴むリーシャの小さな手を優しく握った。
「確かに未練はないかもしれない。でも嫌じゃないか?自分が生まれ育った故郷が無くなるのわ」
「っ───!」
リーシャは目を大きく開いた。
「ありがとうございますアマネさん……………」
そう言ってリーシャは穏やかな笑みを浮かべた。
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