第32話 呪いとは

「グッ………………」


 呪いの痛みに必死に耐える柊。


 リーシャを狙った理由、それと魔王について、話を聞くにはこいつしかいない。

 なので死ぬと困る。


「リーシャ、呪いはどうやったら治せる?」


「呪いは魔王が使う特有の。闇魔法という説もありますが、そこまで高度に使える人がいないので、分かりません。つまり、明確な治し方は存在しません…………」


 悔しそうな表情を浮かべそう言うリーシャ。


 嘘だろ…………諦めるしかないってことか………。


 でも呪いも一応は魔法なんだろ。

 つまりは魔力さえ無くなればいい。


 なら───


『待ってくださいアマネ様!』


 シェリア?急にどうした?


『呪いは普通の魔法とは違い、特有の性質があります』


 特有?どういう意味だ?


『呪いは体内に術式を刻み込み、いつでも発動出来る魔法です。つまり表面に出ているのは呪いが発動した事を示唆しているだけ、もしアマネ様の考えている方法を使うのでしたら、直接心臓に触れる必要があります』


 心臓に直接だと!?そんな事……………。


『出来ても彼女の命はないでしょうね』


 いや、方法なら一つある。

 だが一方間違えれば柊は助からない。俺が自分で殺す事になる危険な方法だ。


『それはまたとんでもない事を……………』


 ああ、自分でもびっくりしてる。普通なら、嫌なことばっかり考えてやらないような事なのに、今はやるしかないと思ってる。


 別に柊を許し、助けたいと思っているわけじゃない。

 このまま死なれたら、リーシャの無実を晴らせない可能性だってある。


 やるしかないな。


 シェリア。手伝ってくれるか?


『分かりました』


 ありがとう。


 簡単に言えば<魔力吸収ドレイン>を呪いの術式がある心臓部分に届かせればいい。

 直接触れる必要のあるのなら───魔法を伸ばして触れさせればいい。


 少々強引かもしれないが、魔法が届けば、俺の手が触れているのと変わらない。


 それを可能にするためには<複合>だ。

 まず、心臓まで届かせなければ意味が無い。


 それを可能にするためには<魔力吸収ドレイン>で出来たナイフを作ればいい。


 俺は魔力を集中させ、ナイフを形成していく、そこに<魔力吸収ドレイン>の魔法を混ぜる。


 そうして完成したナイフはほとんどが魔法でできているためか、モヤモヤと魔力の波が漂っていた。


「柊。死ぬなよ」


「待て!旬くん。それは何だ?」


 柊に駆け寄り、心配そうな表情を浮かべる店長。


「呪いの解呪方法は現状存在しません。なので術式に含まれる魔力を吸い取り、効力を消すしか方法が無いんです」


「だがそれは………ナイフだろ…………」


 驚愕の表情を浮かべる店長。


「確かにそうです。でも救うにはこの方法しかないんです。お願いします店長…………やらせてくれませんか?」


 店長は難しい顔をした。


 刻一刻と近づく柊の終わりに焦らされながら、店長は頭を抱えた。


「……………わかった。旬くんを信じよう」


 店長の瞳には涙が溜まっていた。


 腐っても相棒なのだ。


「ありがとうございます」


 俺はナイフを柊の胸に近づける。


「リーシャ。ここを少し冷やし続けてくれ」


 さすがに直で刺すよりは痛みを軽減出来るだろう。


「分かりました」


 リーシャは氷くらいの冷たさの冷気をかけ続ける。


「ふー……………」


 俺は深呼吸をし、心を落ち着かせる。


 そうして俺はその刃を進めた。


「グッ───」


 刃の刺さった痛みに柊が反応する。


 一歩間違えたら殺してしまう。その恐怖が俺に襲いかかってきた。


 手元が狂いそうになるのを必死に耐え、刃を進める。


 シェリア、どのくらいだ?


『もう少しです』


 俺は言われた通りに刃を進める。


『そこです!』


 よし───


魔力吸収ドレイン!」


 柊の体内でナイフの形状が変化する。


 呪いに巻き付くように白いモヤが集中する。


「グッ───……………」


 汗を出しながらも痛みに耐え続ける柊。


 そうしてしばらくの間<魔力吸収ドレイン>をしていると、だんだん柊の顔に落ち着きが見え始めた。


『アマネ様。呪いの術式が消滅しました』


 そうか……………。


 俺はそれ聞いてナイフを消した。


 その後、脱力感に苛まれ、後ろに倒れ込む。


「あっ!」


 誰かが倒れ混む俺を抱きしめるようにして支えてきた。


 柔らかな肌触りに心地良さを感じた。


 ゆっくりと下ろされ、俺の視界に綺麗な夜空が写った。


 瓦礫では無い柔らかで、枕よりも心地よい何かに俺の頭は支えられていた。


「大丈夫ですか!アマネさん!」


 突如、俺の視界に心配そうに俯くリーシャが写った。


「うわっ!?びっくりした。リーシャか」


「何ですか?その反応は」


 少し不満そうに言うリーシャ。


 待てよ。まさかこれって。


 俺は限界まで視線を下に向け、枕のような何かを確認する。


 ふ、太もも───!


 てことは膝枕か。


 その事がわかった俺は少し恥ずかしくなり、鼓動が早くなった。


「リ、リーシャ。足痛くないのか?」


「大丈夫ですよ。氷で床を作ってその上に乗ってるので」


「随分器用になったな」


「それは…………アマネさんのせいです…………」


 怒っているような照れているような表情でそう言うリーシャ。


「令嬢である私をアマネさんは容赦なく冒険に連れ出してくれたせいで魔法が上手くなっちゃったんです」


「えっと………もしかして怒ってる?」


 俺がそう言うとリーシャはニコッと可愛らしい笑みを見せこう言った。


「違いますよ。私はアマネさんに感謝を伝えたいんです。それにハラハラする冒険は意外と楽しかったです」


「そうか。なら良かったよ」


 俺は起き上がる。


「もういいんですか?」


「ああ、リーシャのおかげで回復した」


 俺は立ち上がり、柊と店長の方に向かった。


 店長は安心した顔で柊に駆け寄っていた。


 柊は体力を大幅に消費したからか、げっそりしており、今にも意識が飛びそうな程に弱っていた。


 心臓は傷ついていないが胸には刺傷があるし、呪いの痛みにも耐え続けていた。


 今、話を聞くのは無理そうか。


 俺の存在に気づいた柊が無理に体を起こそうと動いた。


 店長はそれを支え、柊を起き上がらせる。


「ありがとう天音くん。こんな私の命を助けてくれて」


「勘違いするなよ。俺はお前のために助けたわけじゃない。リーシャの為だ」


「ああ、それでも………感謝してる」


 柊はゆっくりと頭を下げた。


「私の固有スキル信用強制ジェノサイドは解除した。少しすればリーシャの無実は証明されるだろう」


「そのままになる可能性は無いのか?」


「無いな。信用強制ジェノサイドはある程度無理やり事実を捻じ曲げられる。それを解除した時、かかっていた本人は不都合であっても元の形に戻そうとするんだ。だからそのままになるなんてことは無い」


「そうか」


 するとリーシャは目を見開いたまま固まった。


 目には涙を溜めており、今にも爆発しそうだ。


「良かったなリーシャ」


 俺はリーシャの背中をトントンと叩いた。


「……………はい。これで私は自由なんですね」


「ああ、リーシャは自由だ」


 俺はリーシャを強く抱き締めた。


 リーシャも泣きじゃくりながら俺に抱きついてきた。



 ※



 あの騒ぎによって駆けつけた救急隊によって柊は病院に搬送され、数日が立った。


 その間、俺は一次の避難所的な施設で過ごしていた。


 さすがにあの騒ぎは大々的にニュースとなった。誰かが撮影した竜に化けたグリードの映像、店長や柊の姿も映されていた。

 なのでメディアが病院に押し付けて来ているせいで、しばらく会うことすら出来なかった。


 規制をし、少し落ち着いたので俺はリーシャと共に病院に来ていた。


 ローブを着ていた俺たちは姿が分からない謎の人型生命体としてオカルト界隈を湧かせていた。


 高校の友達の真守からもその話題でメールが止まらなくなっていた。


 俺の正体を知った今井さんには今度説明しないと行けないし、グリードのせいで家無くなったし、親も心配してきてるし、やる事多いな。


 そんな事よりも最優先にしないといけないことがある。


 俺はある病室のドアを静かに開けた。


 そこにはベットに寝そべる柊と店長がいた。


 リーシャにボコられ、グリードに吹き飛ばされ、呪いをかけられ、散々だった柊は胸の傷以外に骨折、打撲とそこそこの重症だった。


 魔法や竜の存在を知らない人はこの程度で済んだ事に逆に驚いていた。

 メディアもうるさく、柊と店長は簡単に病院を出ることができずにいた。


「おお、旬くん…………。久しぶり〜…………」


「店長、前よりも死んだ顔してません……?」


「酷いな旬くん。帰れないんだから仕方ないだろ」


「まあ、そうですね」


 店長は多分、柊の身を心配していたんだろう。

 だって目の下に酷いクマがあるのだから。


「済まないな天音くん、リーシャ。わざわざ来てもらって」


 ベットから起き上がり申し訳なさそうにそう言う柊。


「別に。話は聞くつもりでしたから…………」


「じゃあシイラギさん。聞かせてもらってもいいですか?」


「ああ、だが少し長くなる。この話は私が冒険者になってから始まった事だからな───」




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