第31話 決戦④ (三人称)

「お前をこっちの世界に連れてきたのは私だ。だから私がお前を殺す!」


 シイラギは手に持つナイフを何度も何度もグリードの目に刺し続けた。


「っ…………貴様ごときに私を倒せるはずがないだろ!」


 そう言ってグリードは大きな手でシイラギを掴んだ。


 そうして勢い良く投げ飛ばした。


 バァァァン


 シイラギは建物に勢いよくぶつかった。


「危なかったっす……………」


 サカガミはそう言ったと同時にシイラギのぶつかった建物がなにかに押されたかのように瓦礫を周囲に吹き飛ばした。


 そこには結界に守られたシイラギの姿があった。


「天音くん。俺は柊さんの方に行ってくるっす」


「分かりました」


 二人は別れ、アマネはリーシャの方へと急いだ。


「リーシャ!」


 逃げる人の誘導が終わったのか、一人で道に立っているリーシャの姿があった。


「アマネさん!無事で安心しました」


 そう言ってアマネに駆け寄るリーシャ


「リーシャも無事でよかった」


 お互いの無事を確認出来たことで二人は安堵の息を漏らした。


「どこだ!どこにいる!」


 両目を潰され、視力を失ったグリードがそう叫びながら暴れ始めていた。


「まずいな……………」


 するとグリードは「もう良い」と言い、炎を無作為に放ち始めた。


 その時だった───


 突然、電気を伸びた鉄骨が勢いよくグリードにぶつかった。


「グァァァ……………」


 魔法も効かない硬い皮膚にヒビが入った。


「たく。無茶苦茶しやがって」


 そう言ってアマネ達の前に一人の女が現れた。


「店長……………」


「旬くん。あっ、琴音ちゃんは避難させたから安心してくれ」


「それは分かってますけど…………今の攻撃って───」


「鉄骨をぶつけたんだよ。私の使える魔法は電気だから、直接だと皮膚が厚いやつとかには効かないんだよね」


 フジサキの持つスキルは雷魔法だ。電気を操る魔法であり、それによって起きた磁力で鉄骨などの金属類を引き寄せることが出来る。


 竜の皮膚は魔法に対して耐性があるため、元から硬い皮膚が魔法による攻撃だと更に硬くなるのだ。だが自然にある物質に対しては耐性がないため硬い鉄骨が勢いよく当たり、ヒビが入ったのだ。


(その手があったか………………!)


 今更ながら気がついた事にアマネ。


(なら、似たようなスキルを俺も獲得すればいいって訳か)


 アマネはそんなスキルを探した。


(これいいかもな)


 そうして獲得したスキルが<念力>だ。

 離れている物質を自由に動かせるスキルである。


「許さん!許さんぞ!」


 鉄骨をくらい怯んでいたグリードが立ち上がった。無くなったはずの目の部分が何故か赤く光っていた。


「見つけたぞ!アマネ・シュン!」


 その光は<魔眼>のようだった。

 グリードの視界は真っ暗のままだが、相手の魔力だけは見えている。それでアマネを見つけ出したのだ。


 それに気がついたアマネはリーシャ達から離れるように走り出した。彼らに炎が当たらないよう自分を囮にしたのだ。


「アマネ・シュゥゥン!!」


 怒りの口調でそう叫び、炎を吐くグリード。


 アマネはそれを避けた。


「念力」


 アマネは目の前に転がる瓦礫を引き寄せ、勢い良くグリードの方に飛ばした。


 それはグリードの首あたりに当たり、皮膚を割った。


「念力、念力念力念力」


 アマネは次々に瓦礫をグリードに飛ばしていく。

 グリードの皮膚にヒビが入っていきボロボロになっていっていた。


 だが致命傷とはなっていない。


「旬くん。私も手伝うぞ」


 そう言ってフジサキも鉄骨を飛ばす。


「グァァァァァ!!」


 グリードも負けじと炎を放つ。


 だが無作為に放ったグリードの炎は避けやすく、誰にも当たることは無かった。


(そろそろ良いか)


 皮膚が割れ、身が露出し始めたグリードにアマネは別の攻撃を仕掛けることにした。


「店長。リーシャを頼みます」


「分かった」


 するとアマネは半分崩壊したマンションに登り始めた。

 たったの数秒で屋上に駆け上がったアマネは下に手をかざし<念力>を使い始めた。


「アマネ・シュン!私はお前を殺す!」


 そう言ってまたしても炎を放つグリード。


反射の結界インプレッション


 アマネのいるマンション事、覆う結界が張られ、炎が跳ね返る。


「旬くんは俺が守るっす!」


「ありがとうございます坂上さん……………」


 アマネはサカガミの結界を信じ、全力で瓦礫を引き寄せていく。


 それを空中に集めていき、気づけば大きな球体ができていた。


漆黒の炎シャドウフレイム


 その球体に黒い炎を纏わせていく。


 魔力を全て使う勢いでアマネは炎を使う。


 そうして出来た球体はグリードを遥かに超える大きさとなっていた。

 それはまるで隕石のようだ。


「な、なんだ……………その、とてつもない魔力の塊は……………!」


 魔眼を通してアマネを見ているグリードにもその球体は見えていた。

 恐怖で体は固まり、攻撃をする事も忘れているようだ。


「凄まじいな旬くんは」


「さすがアマネさんです!」


 離れたところからこの光景を目にしている二人がそう言った。


「えぐいっすね」


「フフフ。私はあんなのと戦おうとしてたのね……………」


 シイラギはどう頑張ってもアマネには勝てないと改めて気付かされ、挑んだ自分の馬鹿さ加減に苦笑した。


 アマネはグリードを睨みつけ、口を開いた。


「グリード。これで終わりだ」


「まだだ。まだ終わっておらん!」


 グリードは口から炎を放つ。


 その炎はアマネに当たることはなく、黒い炎に呑まれて消えた。


「何っ!?」


「無駄だと言ってるんだ。もうお前の攻撃は俺に当たらない」


 するとグリードは鬼の形相でアマネを睨みつけた。


「おのれ………」


 アマネは漆黒の隕石を回転させ、勢いを付ける。



黒炎破滅岩メテオ



 漆黒の隕石をグリードに向けて放った。


「……………おのれぇぇぇぇ!!」


 逃げられないと分かったグリードはそんな叫び声を上げた。


 隕石は勢い良く地面に落ち、グリードを飲み込んだ。


 大きな爆発が起き、衝撃波が発生した。

 その衝撃波は地面を抉り、周囲の瓦礫を吹き飛ばしていった。


 少ししてそれは落ち着いた。


 黒炎破滅岩メテオが落ちた場所にはもうグリードの姿は無かった。


 そうして全員がシイラギの元に集まった。


 何を聞かれるのか悟ったシイラギは先に口を開いた。


「悪かったわねリーシャ・ミリセント。許してくれなんて言わない、殺したいなら殺してもいいわよ」


 アマネはリーシャの方を向いてアイコンタクトでどうするか聞いた。


 リーシャは首を横に振った。


 アマネはそれを確かめた後、シイラギに近づいた。


「柊。俺もリーシャもお前を許すつもりは無い、だが殺すつもりもない。生きて罪を償え」


「それで良いわ。ほんとに悪かったわね」


「じゃあ教えろ。なぜリーシャを狙ったのか」


 アマネはシイラギを睨みつけてその質問をした。


 彼自身まだ怒りを抑えきれていないのだ。


「分かった。全て話す───」


『それ以上は許さんぞパペット。死ね』


(何だ今の声は───)


 シイラギ含め全員の耳に入った別の誰かの声。


「う、嘘…………」


 そう言うシイラギの顔は真っ青で何かに怯えているかのように体を震えさせ始めた。


「どうした美波!」


 フジサキがシイラギに駆け寄る。


「ま、魔王………………グッ、グァァァァァ!」


 すると突然シイラギは胸を抑え、もがきだした。


 その胸からは黒い影のようなものが漏れてきていた。


「これ、呪いじゃないですか……………」


「呪いだと」


 一体どうすれば良いんだ。

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