第16話 許さない
こんなところで魔法が…………………。
『ショッピングモールで爆発事故』そういえば真守がこんな事言ってたな。
原因不明の爆発で色々な噂がされていると聞いた。
もしかしたらその事故───いや事件を起こした犯人だったりしないよな。
とにかく暗すぎる。
これじゃあまともに歩けない。
俺はポケットからスマホを取り出し、足元を照らす。
冷静な人達は早くも警察に電話をし始めていた。
「痛ッ」
「大丈夫か、リーシャ」
全員が冷静に状況を見れている訳もなく、完全にパニックになって、逃げようと走り回る人達もいる。
その人達がリーシャにぶつかったのだ。
俺はリーシャを自分の元に寄せ、出来るかだけぶつからないようにした。
距離感でいうとほとんどハグしているようなものだ。
「悪いなリーシャ、少しの間我慢しててくれ」
「べ、別に嫌じゃありません………………」
「そ、そうか。それなら良かった」
「逃がさねぇよ!!」
そんな声が聞こえた後、ドォォォン───!!とまたしても爆発音が鳴り響く。
出入り口辺りから聞こえたので、逃げられないように爆発させたのだろう。
やはり、俺みたいに魔法が使えるやつが関わっているようだ。
とにかくパニックになっている今の状況はよくない。
もし爆発で出入り口を塞がれているのなら、俺の魔法で瓦礫を壊せば問題なく出れる。
だがそこまでどうやって行くかだ。
何度か起きた爆発によって発生した炎でショッピングモール内は少し照らされていて数メートル先までは普通に見えている状態だ。
集団で動けば、確実にバレる。
それに向こうが持ってるスキルが分からない以上、下手に動くのは自殺行為だ。
戦っても勝てる確証は無いし、どうすればいいだろうか。
「リーシャ、この爆発がなんの魔法か分かるか?」
「そうですね……………おそらく火属性上位魔法、<
「抑えなかったとしたらどうなる?」
「………………このショッピングモールくらいなら簡単に吹き飛ばせます」
緊張の表情を見せそう言うリーシャ。
「マジかよ……………」
だがこれで相手は<火魔法>を持っている事が分かった。
それにスキルのLvも4以上あるという事も。
あれ?俺より強い気がするんだが………………。
予想以上に厄介だ。
「聞け貴様ら!」
その声に引っ張られ、俺含め全員がショッピングモールの真ん中に目を向けた。
そこには一人の男が浮かんでいた。
今なら攻撃できる───がやめた方が良いだろうな。
相手を刺激するのは良くない。
特にこういうことする奴は何するか分からないからな。
「俺はお前達を殺そうと思えば、いつでも殺せる。死にたくないなら言う事を聞け」
宙に浮かべる人間なんて普通は存在しない。
それは誰しもがわかる事だ。
ほとんどの人は壊れた人形かのように首を縦に振った。
「簡単に殺せるだと?ふざけるな!さっさと俺達をここから出せ」
「そうだ!ふざけた事言ってないで解放しろ!」
一定数反抗の態度を見せる者もいる。
「黙れ!」
宙に浮くその男は反抗する人に向け、ギリギリ当たらないように<│火の
魔法を放つ様子を目の前で見た人達は固まり、誰も反抗することは無くなった。
「今すぐショッピングモールの中央に来い。逃げようとしたら殺す」
俺含め全員、男の指示に従い、ショッピングモールの中央に集まった。
男は不気味な笑みを浮かべた状態で俺達を見渡していた。
だが何か要求がある訳でもなく、ただただ時間が過ぎるばかりだ。
「おい、何が目的だ!」
痺れを切らしたある人がそう言った。
「まあまあそう焦るな。寿命が縮むだけだぞ」
狂気に満ちた笑顔を向ける男。
それを見て、その人は完全に口を閉ざしてしまった。
しばらく何も無く待っていると、外からパトカーのサイレン音が聞こえてき出した。
不思議と心に安堵感を感じたが、出入り口を塞がれている状態なので、ほとんど意味が無い。
「役者が揃ったみてぇだなぁ」
空宙に仰向けで寝転んでいた男がそう言った。
「今から俺の目的を言う。それは………………このショッピングモールを完全に吹き飛ばす事だ!ヒャヒャヒャヒャヒャ」
不気味な笑い声と共に意味のわからない事を言い出す男。
「ふざけるな!指示を聞いてたら殺さないんじゃなかったのか!」
「おいおい、ほんとにその言葉を鵜呑みにしてたのかよ。甘いヤツだなぁ」
「し、死にたくない…………」
「イヤーーーーー!!」
「助けてくれ!!」
出れるはずもない出口に必死になって走っていく人達。
「良いね良いね!もっと怖がれ!もっと怯えろ!その姿を見ただけで俺は……………!!」
そう言う男の顔はあの新人狩りを彷彿とさせる狂気の瞳───人殺しを楽しんでいる───人間の目をしていた。
「アマネさん!」
「リーシャ!……………くそっ邪魔だ!」
逃げ惑う人達に押され、リーシャとの距離が離れていく。
俺は人混みをかき分け、逆方向に歩みを進めていく。
あまりの人の多さに中々足を進められない。押し戻されてはまた進むの繰り返しで止まっているように感じてしまう。
やっとの思いで人混みを抜けた時、俺は信じられない光景を目にした。
「ア、アマネさん……………助け……………」
「何で助けを求める?君は俺が持って帰るって言ったじゃねぇか」
「何してんだお前………………」
男がリーシャの首に手を回し、がっしりと摘み、逃げられないようにしていた。
「何って…………可愛がってるだけだぜ」
男はリーシャをぎゅっと抱きしめる。
「離れろ……………」
「えっ?何て?」
「離れろって言ってんだろ!」
「何だとてめぇ!そんな口聞いていいと思ってんのか!こいつの命は俺が握ってんだぞ!」
男は手のひらに炎を浮かべ、リーシャの顔に近づけた。
「お前が何もしなければ、こいつだけは助けてやる。俺が持ち帰って毎晩可愛がってやるよ!安心しろよな……………」
この男がリーシャになるをするつもりなのか、嫌という程想像出来た。
「ふざけるな………………」
俺は誰にも聞こえない声でそう漏らした。
心の中でとどめるはずだった言葉が意図せず口から飛び出した。
「アマネ……………さん?」
リーシャは自分じゃこの男に勝てないとわかったのだろう、だから抵抗しない。
全身がブルブルと震え、怯えていた。
───許さない。
俺の中で何かが切れる音がした。
煮えたぎる怒りの炎が全身を焼いていく。
何も考えられなくなっていた、周りの人の危険も被害の拡大も、全てどうでも良くなっていた。
───リーシャを助けないと。
彼女だけは絶対に傷つけてはいけない。
それだけが今の自分の唯一の支えだった。
「お前だけは絶対に許さない」
<炎の魔眼>
男の着ている服に漆黒の炎が現れた。
それは瞬く間に全身に広がり、男だけを燃やし始めた。
「アッッッッチィィィィィーー!!」
男は直ぐにリーシャから離れ、床を転がり出した。
「て、てめぇもか………………
俺は男が魔法を唱える前に腹を蹴りあげた。
何だ、この違和感は………………手応えをあまり感じない。
さっきから男の体は燃えているはずなのに、弱っている様子もない。
まさか───。
「お前、回復してるな」
「……………ヘッ、もうバレちまったか……………そうだぜ、俺は固有スキル<超速再生>を持ってる……………。どれだけ燃やそうが……………俺は死なねぇ」
感覚が麻痺ってきたのか、我慢しているのか知らないが、ゆっくりと地面から立ち上がる男。
「まずは邪魔なお前を殺してやるよ」
不敵な笑みを浮かべた男がそう言った。
「<飛行>」
「飛ばさせるわけないだろ。
宙に浮かぼうとする男を影が引っ張り、それを阻止する。
「何だとこれ!?」
俺は男の顔面に全力の右ストレートを食らわせる。
吹き飛んだ男に向かいさらに間合いを詰める。
「
俺の足元が赤く光だし、小さな爆発が起きた。
後ろに飛びそれを回避した俺は爆発で出来た噴煙を利用し、一気に間合いを詰める。
男の顔面に膝をねじ込ませた。
「ガバッ───」
男は後ろに体勢を崩しす。
が倒れきる直前で耐え、その反動を利用し、俺に頭突きを入れてきた。
視界が一瞬クラっとし、俺はフラフラと後ろに下がる。
「
その隙に男は火の玉を放つ。
「アマネさん!」
「ブレード」
俺は漆黒の刀を手に取り、防御する。
「見た事ねぇ魔法だな……………」
俺が殴ってつけた男の顔の傷はすでに完治していた。
回復がめんどくさいな。
長期戦は不利だ。
俺は再度、男に向かって間合いを詰めに走り出す。
男は火魔法を連続で打ち続け、俺の行く手を阻もうとする。
「
俺の頭上にある廊下を爆発させ、瓦礫を落としてきた。
「
リーシャが間に入ってき、ドーム状の氷のシールドを展開した。
瓦礫が完全に落ちきり、噴煙が巻き起こる。
「俺に反抗するからこうなるんだよ!」
勝った気でいる男の声が瓦礫の隙間から微かに聞こえてきた。
「リーシャ、ありがと。じゃあ出るぞ」
「はい……………」
重い瓦礫を完全に防いだリーシャの顔には疲れが見えていた。
「
周りの瓦礫に引火させ、一気に燃やして消し去った。
<魔眼>で男の場所を把握した俺はその場に立ち止まる。
「ハンドガン」
俺の右手に漆黒の拳銃が現れた。
刀と同じように作った武器だ。
弾丸も全て魔法で、発砲音も出ない。
相手が見えない状態なら、回避は不可能だ。
俺は拳銃の引き金を容赦なく引いた。
「ゲハッ───」
そんな声が男から漏れる。
心臓は外したが、貫通はしているはず。
それに弾丸は消えない炎だ。
内部の傷を治すのは相当厳しいだろう。
俺は男の方へと歩みを進める。
噴煙が落ち着き、お互いの姿が見えた時、男は一瞬、顔を引き攣った。
「無傷かよ……………しかもなんだこれは…………治らねぇ」
「諦めろ。その炎はお前じゃ消せない」
「そうかもな……………でもお前を殺せば問題ないはずだ!」
「今更何が出来る?」
「俺の目的を忘れたのか?」
「…………………っ!?アマネさん早くここから逃げましょう!!」
そう言いリーシャは俺の腕を引っ張り出口の方へと歩みを進める。
「急にどうした?」
「あの人は最大出力の
っ!?
俺はリーシャの言葉を聞いて、もう一度男の方に振り向く。
男は勝ちを確信したような不気味な笑みを浮かべていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます