第15話 デート?

 俺たちは映画を見に、いつものショッピングモールに来ていた。


 今日見るのは最近、リーシャがずっと読んでいる漫画の映画だ。

 青春を題材とした学園での恋愛を描く漫画なのだが、甘々な展開もありつつ感動する場面もあり、『こんな青春を送りたかった』と誰しもが思ってしまう大変人気な作品だ。


 映画を見るのが初めてであるリーシャはワクワクしているのか朝から上機嫌である。


「リーシャ、ポップコーンいるか?」


「食べます」


「塩かキャラメルだったらどっちがいい?」


「キャラメルがいいです」


「おっけー。じゃあ飲み物は?」


「メロンソーダにします」


「おっけー」


 徐々にこの世界に馴染んできているリーシャは普通の女子高生のように思えてしまう。


 俺はキャラメル味のポップコーンとメロンソーダとコーラを買った。


 上映10分前になったので俺たちは中に入る事にした。


「お、おっきい…………!!」


 スクリーンのデカさに思わずそう声を漏らすリーシャ。


 それを見て俺は少し笑ってしまった。


 座席に座り、映画が始まるまで俺は横でソワソワしているリーシャを見ながらポップコーンを摘んでいた。


 まだ予告映像が流れているだけなのにすでに楽しそうに笑うリーシャを見てここに来てよかったと思えた。


 映画が始まると部屋全体が真っ暗になり、スクリーンの明かりがリーシャの横顔を照らしていた。


 ここまで暗くなると思っていなかったのか、少し驚いている様だった。


 始まる前からわかっていた事だが映画はすごく面白かった。

 漫画だけでも主人公とヒロインの感情表現が上手く描かれていたが、映画となると背景などを使った演出でさらにドキドキ感が増していた。

 まるで自分がその場にいるんじゃないかと思ってしまう程によく出来ていた。


 2時間の映画だったのだが一瞬にして終わったような感覚だ。


「アマネさん、映画すごく面白かったですね」


「だな」


「漫画で見た事あるはずのシーンなのにすごくドキドキしちゃいました」


 そう言い映画の余韻に浸るリーシャは幸せそうな顔をしていた。


 映画館を出て昼ご飯を食べにフードコートへ向かう事にした。


「アマネさん、高校という所は楽しいのですか?」


「リーシャ、学校に興味があるのか?」


「漫画を見てた時から楽しそうだなって、思ってたんです」


「楽しいは楽しいよ。あの漫画みたいにはいかないけどな」


「そうなんですか。でもこちらの世界の学校には行ってみたいと思いました」


「向こうは違うのか?」


 ていうか学校とかあったんだ。


「そうですね。向こうの学校は魔法を学ぶための場でした。こちらの学校みたいに気兼ねなく、他人と関わる事もなかったですね」


 だからリーシャは自身の魔法を使い慣れてたわけか。

 冒険者をやっていたわけじゃないのに、モンスターとの戦いに慣れてたし、魔法も詳しかったわけだ。


「こっちの世界の事を知るほど、向こうに帰りたくなくなってしまいます………………あっ、すみません」


「良いよ。俺だってそう思うから」


 リーシャを知れば知るほど、俺は恵まれているんだな、と思う。

 自分が抱える悩みなんて、彼女と比べたらちっぽけなものだと実感する。


 もしもリーシャがこっちの世界にいる一人の少女だったとしたら、きっと人気者になっていただろう。

 友達がたくさん居て、恋もして、まさに青春というのを謳歌していたんだと思う。


 出来ることなら、彼女の願いを叶えたいがさすがに学校に通わせるのは簡単じゃないよな……………。


 フードコートにつき、俺たちは何を食べるかを悩んでいた。


「リーシャは何食べたい?」


「そうですね……………アマネさんのおすすめとかありますか?」


「俺のおすすめは…………ここのラーメンだな」


「じゃあそれにします!」


「わかった。俺もそれにしようかな」


 俺たちは同じラーメンを買い、席に座った。


「ほんとですね!これ美味しいです!」


「そうか。なら、良かった」


 リーシャはいつものように美味そうに食べていた。

 あの食べっぷりは何度見ても気持ちがいい。


 昼食を済ませ、俺はこの後どうするか必死で考えていた。


 まだ帰るには早い気もするんだよな。


 あっ、そうだ。


「なぁリーシャ、ゲーセン行かないか?」


「ゲーセン?何ですかそれ」


「まぁ行ってみてのお楽しみだ」


 俺はリーシャを連れ、ゲーセンへと足を運んだ。


「うわぁーー!何か楽しそうですね!」


「だろ」


 ゲーセンって見ると何故か引き付けられるんだよなぁ。


 二人でクレーンゲームを回っていたところ、クマの可愛らしいぬいぐるみを見てリーシャが足を止めた。


「これが欲しいのか?」


「えっ!いや、そんな事ないですよ…………」


 そう言いながらもチラチラと横目でクマのぬいぐるみを見るリーシャ。


「ハハッ、リーシャわかりやすいな」


「っ………………」


 恥ずかしそうに頬赤くするリーシャ。


「じゃあやってみるか」


 俺は台に100円を入れた。


「よし、リーシャやってみろ」


「わ、私がやるんですか!?」


「ああ、そのためにここに来たからな。大丈夫やり方は教えるよ」


 俺はアームの動かし方などを教えた。


「分かりました。じゃあやってみます!」


 ここのゲーセンのクレーンゲームなかなか取れないんだよなぁ。

 今日は取れるまでやるつもりだけど。


 リーシャは動作を確認しつつ、ゆっくりとアームを動かしていき、ぬいぐるみの真上まで調節した。


 そうしてボタンを押し、アームが下に落ちていく。

 そうしてぬいぐるみをがっしり掴み、上に上がっていく。


「アマネさん、出来ましたよ!」


「リーシャ、上手いな」


 でもだいたい一番上にいったら落ちるんだよなぁ。


 ボトン。


「アマネさん、取れました!」


「えっ!?取れたの!」


 なんとリーシャは一発でぬいぐるみを取ってしまった。


 マジか……………これも才能なのか、運なのか。

 運も実力の内って言うし、ある意味才能なのかもな。


「すごくもふもふしてます…………」


 そう言ってぬいぐるみを抱きしめるリーシャ。


「それは良かった…………」


 か、かわいい。


「他に欲しいものはあるか?」


「そうですね……………」


 そう言いながら周りを見渡すリーシャ。


「このぬいぐるみだけで十分です」


「そうか…………」


 思った以上に早く終わってしまったな。


「じゃ、じゃあ次はコインゲームってのやるか」


「分かりました」


 俺は1000円分のメダルを分けて使う事にした。


 二人で分け合ってもカップには十分な量のメダルが入っている。


「これやってみるか」


 大きな液晶画面に泳ぐ魚が表示されている。

 大周辺には竿が置いてある。

 釣りのゲームだ。


「釣りですか…………楽しそうですね!」


 そこからしばらくその台で遊んでいたのだが………………やばいメダル無くなった。


 俺の分のメダルが底をついてしまった。


 小魚相手に一瞬で糸切れるのなんだよ……………レベル高すぎだろ……………。


 一方のリーシャは全くメダルが減っている気配がしない。

 むしろ増えているくらいだ。


【注意 : SSSクラスが出現します】


 定期的に起きるイベント的なやつだ。

 液晶画面上でも分かるほどに巨大な魚が出現する。

 釣ることが出来れば、まさに一攫千金といったくらいに大量のメダルが獲得できるが、だいたいはすぐ糸が切れるのでどちらかというとメダルを巻き上げるイベントだ。


 テンションは上がるけどな。


「うわっ!?何ですかこれ!すごく大きい魚がかかりました」


「ほんとか!」


 どうやらリーシャの投げた竿にSSSクラスの魚が掛かったらしい。


 全力でリール回すリーシャ、糸を切ろうと必死に泳ぐ巨大な魚。


 白熱したバトルが始まる……………なんて事はなかった。


「意外とあっさり釣れましたね」


 なんとSSSクラスの魚を簡単に釣り上げた。


「マ、マジか………………すごいなリーシャ」


「えっ?すごいんですか?」


「ああ、その魚ほんとは全く釣れないくらいの強敵なんだよ」


「じゃあ運が良かったってことですね」


「そうかもな」


 だがこの運は一回では終わらなかった。

 その後もリーシャはイベントが終わるまで何体もの巨大な魚を釣り上げた。

 俺は驚きすぎて空いた口が塞がらなかった。


「そ、そろそろ別の台に行くか……………?」


「はい!行きましょう!」


 そうして台からメダルを取り出した。


 こんな量のメダル俺も持ったことないぞ。


 その後も色んな台を回ったのだが………………。


「あ、アマネさん、当たりました!」


「それ、一番確率低いやつだよ!?」


 とまたしても大量のメダルを獲得し───。


「ア、アアアマネさん!メダルが止まら無くなったんですけど!?」


「う、嘘だろ!?もしかしてメダルのタワー倒したの?」


「た、多分そうです!」


 またまた大量のメダルを獲得した。


 そうして日が沈み始み、辺りが暗くなるまでメダルゲームを続け、メダルが減る事は無く、逆に増えていき、気づけば持ち運ぶのも大変な量になっていた。


「リーシャはゲーセンの達人だな………………こんな量俺も取ったことないぞ」


 多分誰も取ったことない。


「す、すみません…………少し調子に乗りすぎてしまいました」


「確かにな。俺もどこまで増えるのか気になって調子に乗っちまった」


 俺たちはお互いにそう言ったあと、何故か面白くなり、笑ってしまった。

 正直ここまでメダルゲームが楽しかった事なんてなかった。


 それから俺たちの様子を見て、近づいてきた店員さんに手伝ってもらいながらメダルを機械に預けた。

 店員さんも他のお客さんも驚きを隠せていない顔をしているのが少し面白かった。


 これ、マイナス続いても一年以上はここに通える量だな。

 そんなに来ないけどさ。


 そうしてゲーセンを出た俺達は帰ることにした。


「帰りは駅の近くにあるハンバーガー屋でも行くか」


「良いですね!」


 と乗り気のリーシャ。


「なぁリーシャ、今日は楽しかったか?」


「はい!とっても。また来ましょうね!」


「だな」


 そう言って貰えたことが嬉しくて俺は思わず笑みがこぼれた。



 ※



 俺たちはショッピングモールを出るためエスカレーターで一階に向かっていた。


 そうして二階まで降りた時だった───。




 ドォォォォン!!




 突然、けたたましい音がなり、ショッピングモール全体の電気が切れ、真っ暗になった。


「キャッ───」

「なにが起きたの?」

「停電か?」


 周りにいた人達がザワザワとし始めた。


「アマネさん………………」


 俺の服をがっしりと掴むリーシャ。


「ここに居るぞ」


 急に真っ暗になったことで隣にいるリーシャすらも輪郭しか見えないわからない状態だ。

 お互い手探りでしか相手を探しせない。


 するとまたしてもドォォォン!!という音がなり、パリン、とガラスの割れる音がした。


「見ろ!あそこ!燃えてるぞ!」

「じゃあ今のって爆発か?」

「キャァァーーー!!」


 爆発……………だいたい四階辺りか。


 それにこれは普通の爆発じゃない。


「アマネさん、この爆発って」


「ああ、わかってる。この爆発は

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