第14話 遊びに誘いたい
朝、目が覚めたら、隣にリーシャが寝ていた。
こんなご褒美───いや、よろしくない状況に戸惑いを隠せない。
どうする?
腕掴まれてるから抜け出そうにも抜け出せない。どうにか起こさないように脱出する方法は………………だめだ、全然思いつかない。
俺と同じシャンプー使ってるのになんでこんないい匂いするんだ。
だめだ、別の事が気になって頭が回らない!!
「んっ…………………」
そんな事を考える間にリーシャが目を覚ました。
「お、おはよう………………」
「……………ア、アアアマネさん!?どうして私の隣にいるんですか!?」
寝起きだというのに、一瞬で顔を真っ赤にするリーシャ。
「俺も分からないんだが……………起きたらリーシャがいた」
「えっ、わ、わた………私、昨日何して───」
リーシャは起き上がり、昨日の記憶を思い出そうと頭を抱える。
「リーシャ、服!」
いつも通り普通のシャツを着ているはずなのだが大きさがあっていないのか、少しズレて肩が丸見えになっていた。
「っ!?」
リーシャは直ぐにそのズレを直した。
「あれ?そのシャツ俺のじゃない?」
「ほんとですね……………」
酔ってたし、寝ぼけてもいたから間違えたのか。
俺も疲れてたから気付かなかったな。
「あ、あの…………アマネさん。昨日私何かしましたか?」
青ざめた顔を見せるリーシャ。
「もしかして覚えてない?」
「やっぱり何かしたんですか!?」
耳まで真っ赤にするリーシャ。
「違う違う。昨日リーシャ酔ってたんだ。その事を覚えてるかの話だよ」
「えっと…………酒場でご飯食べ始めたくらいからすごく曖昧なんですけど………そ、その……アマネさんが一緒に寝てくれるっていうのは思い出したんです……………」
少し恥ずかしそうに言うリーシャ。
「待て待て、俺はそんなこと言ってないぞ。隣で布団敷いて寝るって言ったんだ」
「えっ、じゃあアマネさんが下で寝てたのって元からだったってこと……………は、恥ずかしい……………」
恥ずかしさが限界突破したリーシャは手で顔を隠し、縮こまった。
どうやら酔った事で記憶違いが起きたらしい。
夜中に一度目が覚めたリーシャは俺が隣にいないことに気付き、探したようだ。
そうして下で寝ているのを見つけ、どういう訳か同じ布団に入ったらしい。
「それにしてもリーシャ、酒弱いんだな。向こうの酒場で出された酒蒸しで酔ったんだぞ」
「そうなんです。私酒にすごく弱いんです!だからパーティーに出席した時も私だけジュース飲んでたんです……………」
やっぱり貴族ぐるみのパーティーに酒は出てたのか。
リーシャは自分が弱いのを知ってたからジュースを頼んでいたわけだ。
酒蒸しは完全にトラップだったんだな。
「これからは気をつけろよ。リーシャ、酒に酔ったら甘えん坊さんになってたからな」
俺からしたらたまにはあれくらい甘えてきてもも全然悪い気はしないけどな。
「うぅ〜……………よく言われるんです。酔ったら素が出るって」
「……………えっ!じゃあ俺とお風呂入りたかったってこと!?」
「お、お風呂ですか!?それは違いますよ……………」
び、びっくりしたぁ。
じゃああれは寝ぼけてただけか………………。
「(一緒に寝たいってのは本当ですけど……………)」
「今なんか言ったか?」
「いえ、何でも無いです」
と言いながらもまた頬が赤くなっているリーシャ。
ずっと布団の上でこんな話している訳にもいかないので俺たちは朝ごはんを食べる事にした。
リーシャは服を着替えてくると言い、洗面所に向かった。
リーシャは酔うと素が出るか。
じゃあ『感謝してるんです』あれは本当の事なんだな。それなら良かった。
でもあの話が全て本当だとしたらリーシャの家での扱いはあまりいいものではなかったわけか。
それなのにありもしない罪を着せられ、顔を隠さないと外も歩けない状態にされた。
それがどれだけ悲しい事なのか、やっぱり俺には分からない。
でもどうにかして彼女を救いたいと改めて思った。
少し踏み込んでみてもいいのかな………………。
朝ごはんも出来上がり、リーシャも着替えたので食べ始める。
「やっぱりアマネさんの料理は美味しいです〜」
「そう言ってくれて嬉しいよ。それにしてもリーシャは美味しそうに食べるよな」
「そりゃ美味しいですから、当然です!」
「でもリーシャの身分だったら向こうでもいいもの食べてたんじゃないの?」
俺は向こうで生活していた時のリーシャを知ることにした。
「…………確かに普通よりかはいい物を食べさせてもらっていたと思います。でも婚約者だった私には家での食事が苦痛で仕方なかったんです。花嫁修業一環なのかよく分からないんですけど、食事をしている最中、ずっと見張られていて、少しでも姿勢を崩したら怒られてしまっていたんです。親は家柄とかをすごく気にする人で、礼儀とか、そういうのにはものすごく厳しい人達だったんです。なので食事の時はそればかりに意識がいってたので料理の味なんて全く覚えてないんです」
そんなのほとんど拷問じゃないか……………。
「……………そうか。じゃあもっと美味しいもの食べないとだな」
「えっ」
「だって今まで料理を味わってこれてないんだろ。この国にはまだ美味しいものがたくさんあるからさ、そういうのをいっぱい食べて味を知っていけばいい。きっとほっぺたが落ちるぞ」
「それは、とても楽しみですね!」
満面の笑みを浮かべるリーシャ。
「それは良かった」
「やっぱり良い人ですねアマネさんは。こんな生活ほんと夢みたいです」
リーシャは嬉しそうに笑い、一粒の涙を流した。
きっと昔の自分と今の自分を照らし合わせたのだろう。
それだけキツい日々を送っていたのなら、これからは楽しい日々を送ってほしい。
でも俺、女子の楽しませ方とかよく分からないんだよなぁ。
知らない事が多いリーシャなら、だいたいの事は楽しんで貰えそうだけど、どういうのがいいんだろ。
※
朝食を終えた俺はバイトをしに家を出た。
コンビニに着くといつものように眠たそうな店長の姿があった。
服を着替え、レジへと向かう。
「お疲れ様です店長」
「おつかれ」
そこからバイトは続き、気づけば辺りは暗くなっていた。
着替え終えた俺はバックルームで少し休憩をしていた。
するとそこへ藤崎さんがやってきた。
「お疲れ天音くん」
「お疲れ様です店長」
ちょっと相談してみようかな。
「店長って男の人と遊びに行くならどういう所に行きたいですか?」
「急にどうした旬くん。あっ、もしかして誘ってくれてるのかい?」
冗談ぽく笑う藤崎さん。
「違いますよ」
「何だ違うのか……………。じゃあ好きな人でも出来たのか?」
「………………それも違います」
「何だ今の間は…………すごく怪しいぞ」
こんな相談をしている俺はリーシャが好きなんじゃないか、と少し悩んでしまった。
「お疲れ様です店長」
そこへ一人の少女が来た。
「天音くんもおつかれ」
「おつかれ今井さん」
癖のない綺麗な黒髪を背中の中ほどまで伸ばした少女。
名前は│今井
俺と同い年のバイト仲間だ。
今井さんは俺と同じ高校に通っており、クラスも一緒だ。
学校ではあまり接点は無いがたまたま入ったバイトが同じで、シフトが被った時はたまに話をする程度の仲だ。
でも今井さんにこの話題を振るのは気が引けるな。同じ学校で同じクラスだし。
「じゃあ俺は先に帰りますね」
「待て待て。まださっきの質問に答えてないぞ」
くっ、寝不足でたまにミスするくせにそういうところはちゃんとしてやがる。
「質問って何ですか?」
「つまらない質問だよ」
「───旬くんが好きな子を遊びに誘いたいらしい」
「そうなの!」
何言っちゃってんの店長!!
「ねぇ誰なの?もしかしてクラスの子?」
目を輝かせて俺の好きな人を聞き出そうとする今井さん。
「違うよ。というか好きな子とかじゃない」
「えぇ〜ほんとにぃ」
「ほんとだよ。ただ女子は男にどういうところに連れて行って欲しいか相談してたんだよ」
「やっぱりデートの誘いじゃん」
意地悪な笑みを浮かべる今井さん。
「……………女子と遊びに行くのがデートって言うならそれでもいいよ」
「ふ〜ん。行きたいところなんて人それぞれだから別に迷う必要も無いと思うけどなぁ。もし天音くんの誘いたい相手の好きな事とか知ってるなら、それで考えるのもありだと思うよ」
「意外と真面目に答えてくれるんだな。正直驚いた」
「私の事なんだと思ってるの………………」
リーシャの好きな事かぁ。俺の影響もろ受けだからな。
漫画とかアニメとか……………。
「少し考えてみるよ。答えてくれてありがとう」
「うんうん、頑張ってね〜」
「青春だねぇ」
コンビニを出て帰路についた俺はリーシャをどこに連れていくか考えていた。
そうして一つの決断をした。
「ただいま」
「おかえりなさい」
家に帰った俺は早速リーシャを誘う事にした。
いつも買い物か異世界にしか行っていなかったので、遊びに誘うとなると何故か緊張する。
絶対、今井さんがデートとか言ったからだ。
「なぁリーシャ。今読んでる漫画あるだろ」
「はい」
「あれの映画が今やってるんだけどさ」
「映画?」
そう言って首を傾げるリーシャ。
そういえば映画は知らなかったな。
「テレビを大きくしたみたいなやつなんだけど……………明日一緒に観るに行かない?」
やばい、何かドキドキする。
マジでデートに誘ってるみたい。
「はい!もちろん行きます!」
「わかった。じゃあ行こっか」
映画の後は……………その時考えればいいか。
「明日が楽しみですね」
「そうだな」
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