第13話 酒場でのアクシデント

新人狩りとダンジョンのボスを片付け、俺たちは冒険者ギルドに向かっていた。

縄で縛っている新人狩り達を連れて帰るためには自分たちで歩いてもらうしかない。


「おい、さっさと歩けよ」


言うことを聞かない三人に俺はイライラしていた。


「この縄を解いたら歩いてやっても良いぞ」


「はぁー?燃やされたいのか?」


俺は黒い炎をルイ達の元へと近づけた。


「わ、わかった…………。歩くからやめてくれ……………」


何でだろ……………絶対こいつらの方が悪いのに俺の方が悪い事してるみたい。


そんな感じで長い時間をかけ、やっとギルドまで帰ってきた。

その頃には辺りは暗くなっていた。


新人狩り達は元々目をつけられていたらしく、今回の事でギルドの御用となり、しばらくは日の目を浴びる事は出来なくなるらしい。

今まで犯した罪も全て聞き出させるつもりらしい。

どんな手を使って聞き出すのか何となくわかってしまい寒気がした。


これも因果応報、同情する気は全く起きなかった。


C級ダンジョンの報酬と謝礼などを合わせた結果──20万ラーツも貰えた。

魔法石の回収をしなかったのにこれだけ貰えるんだ、ダンジョンは凄い。

怖い思いをしたであろうミサには報酬の半分をあげた。

「そんなに貰うのは悪いよ」とミサは遠慮気味だったが俺がダンジョンで迷わなければ、もっと早くに助けられていたのだ。少し悪い気持ちがあったのでその礼も含め、半ば無理やりに渡した。


周りの冒険者もルイ達には多かれ少なかれ怒りを覚えていたらしく、感謝や賞賛の言葉をかけに集まってきていた。


「アンタらのおかげで清々したよ」

「縄で結ばれてるあいつら見たら笑えてきちまったぜ。お前ら最高だな」

「新人のお前らがあいつらを倒すなんてやるじゃねぇか」


その後、冒険者達に酒場でご飯を奢ってもらうことになった。

もちろんお酒は頼んでいない。

こっちの世界では16歳を越えていれば飲めるらしいが、こっちの住人で無い俺はやめておく事にした。


料理は冒険者達のおすすめを頼んでもらった。


届いたのは何かの骨付き肉と貝?の蒸し焼きのようなもの。

それと何故か野菜が来た。

酒飲みのくせして謎のヘルシーさがあるのは不思議だ。


「「いただきます」」


俺とリーシャはいつものように手を合わせ食べ始める。


「いただきます?」


ミサも首を傾げながら真似をしていた。


このお肉ちょっと硬いけど美味いな。味は牛に似てる。

この蒸し焼きも美味しい。

今思えばこの世界の料理食べるの今日が初めてだな。

結構美味しいし、たまにはこっちで済ませても良いかもしれないな。


「プハッ!おかわり!」


それにしてもミサがすげー酒飲みだ。

リーシャは俺が何も言わなくてもジュース頼んでたのに。


「おっ、嬢ちゃんいい飲みっぷりだね」


「えぇ〜そうかなぁ」


それに酔うと性格が反転するな。

シラフだと話すの苦手そうな女の子なのに今はただの酔っ払いだ。


酒飲んでるんだから酔っ払いなのは当たり前か。

あれ?俺も酔ってる?


「ア、アマネしゃ〜ん」


頬赤くし、どこか上の空といった様子のリーシャ。


っ!?


これってまさか───。


「あれ?アマネしゃん?」


「おい、リーシャ…………まさか………酔ってるのか?」


「いえ、私お酒飲んでましぇんけど……………」


そうは言ってもこんなにフワフワしてたか?

でもリーシャが飲んでるのは普通のジュースだ、それは間違いない。


「リーシャ?」


近くにいた冒険者の一人がそう言った。


まずい───。

名前を出してしまった。


「その子リーシャって言うのか?顔見えねぇから分からなかったぜ」


と笑いながら言う酔っ払った冒険者。


あっ、大丈夫そう。


そういえば認識阻害が入ってるんだった。

自分の魔法で作ってるから俺は普通にリーシャの顔見えるんだよな。


「なぁ、このジュースってお酒じゃないよな?」


俺はリーシャのジュースを指さしその冒険者に問いかけた。


「ああ、違うぜ。ただのフルーツミックスだ」


「そうか…………」


なら何で酔ってるんだ?


「アマネ、もう食べないの?」


「どうしたミサ?何か欲しいのか?」


「じゃあ酒蒸し貰う〜」


そう言って貝を持っていくミサ。


酒蒸し───。

この貝、酒で蒸してるのか!

じゃあリーシャはこれを食べて酔ったんじゃ。


「ねぇねぇ。ねぇねぇアマネしゃん。どうして無視するんですか!」


頬膨らませてそう言うリーシャ。


あっ、かわいい。


酔っ払ったらかまってちゃんになるタイプなのか。

でも貴族なら、パーティーとかでお酒飲むんじゃないの?知らんけど。


「リーシャ、そろそろ帰るか?」


「えっ、もう帰っちゃうんですか…………?」


「ああ、今日はもう疲れたからな」


「もう少しだけダメですか?」


上目遣いでそう言うリーシャ。


「うん、もちろんいいよ」


「ありがとうございます!」


くっ………あざとい。あんな頼み方されたら断れないよ。


そうして一時間ほど酒場で騒ぎ立て、全く酔っていない俺は死にそうになっていた。


ダメだ…………俺、飲み会とか苦手なのかもしれない。


「じゃあ俺たちはそろそろ帰るよ……………」


「わかった。バイバイアマネ」


ミサが俺達に向かって手を振る。


「おぉ!また来いよ!」

「また飲もうぜ!」

「じゃあな!」


完全に酔っ払った冒険者達が俺達に手を振ってきていた。


「じゃあ行くよリーシャ」


「は〜い…………」





自宅に戻り、俺はソファーに座った。


つ、疲れた〜。

明日休みで助かった。


「アマネしゃん。今日も私がご飯作りますねぇ………………」


隣に座るリーシャは寝ぼけているのか、そんな事を口にした。


「リーシャ、寝る前に風呂入ってこいよ」


「お風呂ですか……………分かりました。じゃあ行きましょうかアマネさん」


「えっ?」


リーシャは俺の服をつかみ洗面所の方へと歩き出した。


「俺は入らないよ。リーシャだけで行ってこい」


「……………分かりました……………」


少ししょんぼりした表情を浮かべながらもリーシャは一人でお風呂に入った。


リーシャは酔うと甘えん坊になるんだな。

正直悪い気はしないが心臓に悪い。


リーシャが風呂から上がって来たので俺も風呂に入る事にした。


上がった時、リーシャはソファーの上で眠ってしまっていた。


何か初めてあった日の夜みたいだな。

あの時のリーシャは俺にめちゃくちゃ怯えてたよな。

今では考えられないけど。


俺はリーシャをお姫様抱っこし、元俺のベットに運び寝かせた。


「おやすみリーシャ」


俺はそう言って部屋を出ようとした。


「待ってください…………」


俺の服の袖を掴むリーシャ。

目をつぶっているので寝ぼけているらしい。


「私を一人にしないでください…………」


どこか悲しそうな声でそう言うリーシャ。


「一人にはしないから大丈夫だよ」


リビングには居るし。


「本当ですか…………?」


「ああ、当たり前だろ」


するとリーシャは半分目を開いてこう言った。


「じゃあ一緒に寝ませんか?」


「待て待てそれはさすがに……………」


リーシャはまだ酔っ払っているらしい。


「ダメですか?」


「ダ、ダメじゃないけど…………二人だとベットは狭いから下に布団引いて寝るよ。それでいい?」


「分かりました…………」


リーシャは少し残念そうな顔をしていたが、一人分のスペースしかないベットで添い寝は俺の心臓が持たないので、了承できなかった。

許してくれ………………。


約束通り、俺はベットの横に布団を敷いて、眠ることにした。


「アマネさん居ますか……………?」


「ああ、居るよ」


「そうですか。良かったです」


リーシャ寝ぼけてるのか起きてるのか分からないな。

酔っ払ってはいるけど。


「私、アマネさんには本当に感謝してるんです…………。今までずっと一人で、親に言われた事だけやってきたんです。…………そんな親にも見捨てられて………すっごく辛かったです。でもアマネさんは私を受け入れてくれてくれた……………私に自由をくれました。今、すごく幸せなんです。だからアマネさんには何かお返しを………………」


リーシャは自分の気持ちを吐露した後、眠ってしまった。


正直言って驚きだ。

そこまでの恩を感じてくれていたとは思わなかった。

俺は彼女にただ普通に接していただけだった。

どう接すれば良いのか分からない部分だって多かったから。あまり踏み込み過ぎず、いい感じの距離感を保とうと意識していた。

それで良かったんだと分かり、俺は安心した。


「だとしたら親からはどんな扱いを受けていたんだろうな………………」


その疑問だけが心に残った。





カーテンから指す光に目を背ける。

左半身が妙に暖かい事に気が付き、俺は目を覚ました。


「えっ!?」


そこに居たのは俺の左腕をがっしり掴んで眠るリーシャの姿だった。


どういう状況?いつからこんな事になってんだ。


なんか柔らかいし、良い匂い………………。


じゃなくて。


さすがにこれはなんかまずくないか?








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